chapter:3-10
玲の言葉に瀧は一瞬目を向けるが、すぐにまた燈弥へと視線を戻した。
丈は穏やかな口調で玲を落ち着かせるように声をかける。
「んー、でもきっと彼は諦めてくれないだろうし。逆に今の言葉で退路は断たれたって感じだよね」
「なんで……」
「男ってかっこつけたい生き物だからね」
丈の言葉に玲は信じられないと息を呑む。そして、目の前の燈弥を見つめた。
あまりにも一瞬過ぎた。攻撃を見ることすらままならず、威力すら殺せなかった。 ―― 屈辱だ。
広い露天風呂の石畳に打ち付けられ、蹴られた腹と共に、前後の両側から鈍い痛みが絶え間なく燈弥を襲う。ともすれば、肋骨の何本かは折れていてもおかしくない。
だが、そんなことどうでもいいくらいに、燈弥は考えていた。
相手の強さや能力は未ださっぱりわからない。だがやられたままで引き下がるのも屈辱だ。
「 テメェ……。ぶち殺す! 」
身体機能上昇。並列演算開始。空間把握完了。
まるで弾丸のように、背後に水しぶきを飛ばして、瀧に肉迫する。そのスピードは常人には線に見えるほどなのだが、それでも瀧は、まるでそのまま燈弥に向かって蹴りぬく。
が、燈弥も馬鹿ではない。瀧の射程範囲を見切り、そのギリギリで方向転換をすれば、玲そして丈の方へと威力を殺さずに接近する。
この借りはいつか返せばいい。今は玲を奪還できれば十分だ。
瀧とは違い丈は戦闘態勢にすら入っておらず、燈弥の接近にも驚きを隠せていない。今なら――。
「瀧」
そう丈が告げた瞬間、瀧は既に丈と燈弥の間に入り、先ほどの凶悪な蹴り、それも今回は先程とは比にならないほどのスピードを加算されたものを燈弥に放とうとした。
それに気がついた燈弥も、このスピードで当たれば致命傷になるであろう、拳を瀧に向け――。
衝突する勢いの二人に玲は酷く焦り「ダメぇぇぇ!」と叫んだ瞬間。
その蹴りと拳は、お互いに届くことはなかった。
それどころか、その場に動いていた二人の動きは、不自然なほど物理法則を完全に無視した動きで静止していたのだ。
「何先に始めちゃってんのさ?」
どこか呆れたふうな、優しい声。
瀧の足と、燈弥の腕をそれぞれ片手で止めていたのは、煌く銀髪の仮面の少年。
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