chapter:3-9

「助けが来たところごめんよ?」


「そのまま引き渡すわけにゃァいかねぇんだ」


 外で待っていた丈と瀧は、風呂場の奥から聞こえた爆発音にいち早く反応していた。

 だが、なにせ風呂場には裸状態の玲がいる。そこに若干の躊躇いが生まれ、そして、その躊躇ためらいを振り切った時には、丁度玲が着替え終わっていた時だった。


 すりガラスにかけられていた玲の手を、丈が後ろから掴んで止める。

 背後から捕まえられた玲は頭だけ動かし、後ろの丈とすりガラスを開ける瀧を見る。遅かった、そう悔やむ気持ちで顔を歪めた。





 すりガラスの奥に戻っていった玲を待ちながら、燈弥は素早く状況と周囲の環境を把握していた。


 そこらのチンピラや悪党が作ったにしては上出来すぎる。まるで何か強大な敵との戦いに備えているかのような、要塞。

 そんなところに、後先考えず突っ込んでしまったのだ。考えが足りなかった。


 すりガラスが開けられその奥に燈弥は目をやる。


「 生憎と、雑魚の相手してる暇はないんだ」


 学園島最強の8人、オクターボレクス。それに数えられる燈弥からすれば、学園のほとんどが雑魚だ。

 威嚇するようでもなく、はたまた警戒する風でもなく。まるで当たり前のように、そう告げた燈弥は、ふらりと動いた瀧の動きを見て瞬時に――。



“蹴り飛ばされた”。



 燈弥自身、何が起こったのかわからなかっただろう。舐めていたとは言え、たかだか一介の能力者がどうにかできる力ではなかったはずだ。


 一瞬で、坊主頭との距離を詰めようとした瞬間。既に燈弥のカラダは背後に飛んでいた。



「 そんなもんかよ? 」


 先程まで燈弥がたっていた場所には、瀧が悠々と立っていた。


 玲は燈弥の言葉に当たり前のように安心していた。


「燈弥!丈、離せ!瀧やめろ!」


 だから燈弥が簡単に攻撃を受けるなんて、玲には想像がつかなかった。

 一瞬、ほんの一瞬で背後に飛ぶ燈弥の体に、焦りと困惑が入り混じった悲痛そうな表情を浮かべる。


 振り切っ て駆け寄ろうにも丈がそれを邪魔し、瀧とて簡単に行かせてはくれないだろう。



「ゴメンネ、多分瀧は本気の闇帝とやっても1時間は持つ位強いよ」


 そんな風に、玲の動きを封じながら、なんでも内容に丈は告げる。

 丈から聞いた言葉は、玲を更に困惑させた。燈弥と対等なほどに戦える瀧に、それを当たり前のように告げる丈。


 やはり、下っ端といえど二人はただ者ではなかったようだ。……もしかしたら、燈弥が傷つく。その不安が玲を襲った。歯をギリと食いしばり、叫ぶように声を荒げる。



「燈弥、逃げろ!私は大丈夫だから……瀧も、それ以上はやめてくれ。アタシは 、まだちゃんとお前らの方にいるだろ」


 先程まで丈を振り切ろうともがいていた体は、おとなしくなった。まっすぐ瀧を見つめ

 、淡々と言葉を紡ぐ。

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