chapter:3-8
ゆったりした気分もつかの間、突如響く爆発音。まるで湯船の中で爆弾でも爆発したんじゃないかというレベルの小爆発が起こる。
無駄に広い露天風呂の、玲から離れたところで爆発したのが不幸中の幸いで、それでも水しぶきが勢いよく風呂全体を襲った。
湯舟の水が顔にかかり、若干パニックになりながら玲はフェイスタオルで顔をふく。
そして目を開ければ、まず湯舟のお湯が通常の半分ほどまで減り、その中に悠々と立つ人物に目を見開いた。
暗い濃い紅髪は、嫌でも忘れない。
「 ンだココ?」
暗く濃い紅髪と服には水が滴りながら肌にくっつき、頬にくっついた髪を面倒そうにかき あげる。その仕種が、不思議と色っぽく感じてしまいパニックもあいまって玲の思考が停止した。
その下の三白眼は周囲を見回し、面倒そうに歪められた瞳と目が合う。
玲の姿を見つけた彼はズカズカと風呂の中を突き進み――。
「 テメェなんつートコに
玲の目の前にたつと、上から告げる。
「――なっ、バカ!こっち見んな!向こう向け!変態!」
燈弥は裸に近い状態である玲を気にする様子はない。玲はようやく我に返り、急いでフェイスタオルで体を隠した。
だが 、先程発した彼の言葉を思い出し、立ち上がって燈弥を見つめる。
「――え?今、帰るぞって……助けにきてくれたのか?」
フェイスタオル一枚で前を隠しただけの体。湯舟で火照る肌は若干赤く染まり、滴る水。
玲は、 まさかと思う人物の登場に感情が追いつかず、何故?と不思議そうに見つめることしかできなかった。
「 はァ? 助けにって……」
バッ!っという効果音がついてもおかしくないほどに、燈弥は慌てて玲から目をそらす。
よくよく、今までの自分の行動について考えた。
玲につけた発信機からの異常警報。要するにジャミングを受けたことによるアラームを受けて、実験室へと戻り、ジャミングを受ける一瞬前までの経路を探り、東地区にいたことを突き止めた。
そして、きっと何か乗り物に乗って移動し、そこで何者かに襲われた。
今思えば、自分でも信じられないくらい慌てて探したような気が――。
「 馬鹿言ってんじゃねぇよ。た、大切な実験体だ。他の奴に取られるわけにはいかねェンだよ 」
燈弥は限りなく平静を装っている。装っているつもりでいるが、実際は完全に頬は赤いし、いつものような高圧的な口調もキレが悪い。
要するに――照れている。
そんな彼の態度に玲は眉を下げて、微笑む。これは安堵からくる笑顔だ。
居心地としては、拉致られたという扱いはなく、メンバ ーもいい人だったが……やはり、知り合いとは比較できない。実験体としか思ってない相手だろうと。
「……ありがとう」
小さく、燈弥に告げて玲は一瞬だけ彼に微笑む。そして、湯舟から上がり脱衣所へ戻った。いくら逃げるといっても、こんなほぼ裸な状態では逃げられない。
カゴから自分が着ていた制服やら下着をつけ、フェイスタオルをカゴに入れた。丈から、せっかく借りた服も使わないままフェイスタオルと一緒に入れておく。
あまり長居はしてられない。あの爆発音で、瀧や丈が入ってくるかもしれないからだ。
玲は急ぐように小走りで、燈弥のいる風呂場のすりガラスを開けようと手をかけた。
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