chapter:3-7
「ううん、違うよ?神内くんとボクは同列だからね!僕は6番隊隊長のルウだよ〜?」
「神内と同列?……6番隊隊長?――マジか?え、お前が?」
すりガラス手前でルウの発言を聞き、玲は目を丸くさせて一度振り返る。その顔は、先程の睨むような鋭い眼差しは一切なく、マヌケな表情をしていた。
てっきり、下っ端だと思っていた相手がまさかの隊長クラスとは。玲も理解が追いつかず、目をパチクリさせてしまう。
確かにここは四番隊宿舎だが、実はすべてのビルの最上階はつながっており、全部の棟から一つのお風呂につながっている。そして、外から帰ってきて一番近いのが四番隊宿舎なため、たいてい外で一稼ぎ、ひと暴れしてきた連中は四番隊からお風呂に入るのだ。
隊によって仲が悪いことなんてなく、ただ、活動しやすいようにメンツが割り振られているのがこの組織。
「今入ってるのは、ボス!」
ルウの声は止まらない。隊長発言に呆気にとられていた玲。しかし、待て。隊長であるルウがボスと呼ぶ人物というのであれば……中にいるのは、ただ一人。
気付いた玲は、ルウに向けていた体を翻し、すりガラスの扉に手をかけバシッと勢いよく開いた。
「おい!いるんだろ!アウロラのボス!逃げないで出てこい!」
そう、ここにいたのは名前の通り“ボス”なのだ。自分を拉致るよう命じた張本人。
玲は苛立ちに表情を歪め、浴室へと入っていく。だが、中には人の姿は見えない。
「ちっ……おい!どこ行きやがった!」
荒くなる口調。まるで檻から逃げ出した獣のようにギラついた眼差しで、玲は風呂内を見回す。
玲の豹変ぶりにルウは少し驚き、既にもぬけの殻となっているお風呂場を見ながら口を開いた。
「わっ!あはははっ!ボス逃げ足早いからねー」
笑いながら喋るルウの言葉に、玲の苛立ちが次第に落ち着いていく。逃げられた……その事実は、変えられない。
先程より玲の様子が落ち着いてきたのを感じとりルウはニッと笑みを浮かべる。
そして、そういえばと気がつき――。
「お風呂入るんだよね?んじゃァボクは出てるけど、自慢のお風呂だからゆっくりしてってねー!」
そう言って脱衣所をあとにした。現にここはほとんどが露天風呂となっており、外の木製フロアと相まって、和風の露天風呂となっている。
眼下には綺麗な緑が広がり、その奥には夜ならば中央地区の光が広がる。
玲はルウが脱衣所を去ったのを見て、はぁーっとため息をつき頭をかいた。
確かに、ルウが言うだけあり、なかなか素敵な露天風呂だった。
下に広がる緑が、高まる心を落ち着かする。東地区のマイナスイオン効果と似たようなものだろうか……。
深呼吸した後、玲は頭を切り替えて一度露天風呂から脱衣所まで戻った。もちろん、風
呂に入るためである。
着ていた制服などをカゴに入れ、適当に置いてあったフェイスタオルを一枚とり、露天風呂に足を入れた。
シャワーで頭や体をいつも以上に素早く洗い、さっさと露天風呂の湯舟に体を沈める。ふぅー……と、ようやくリラックスできた。
「まぁ、露天風呂は最高だな……後は、さっさと帰れたら文句はないんだけど」
誰もいない湯舟。玲は一人、小さく本音を呟いた。
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