chapter:3-6

「……なっ!?」


 暖簾をくぐって、先にいたのは、予想外な出来事。


 瀧が大丈夫だろうというから、てっきり誰もいないものだと思っていた玲は目の前でコーヒー牛乳を飲む少年に酷く驚いた 。


 フードを目深にかぶっている為、顔は見えないがパーカーに下半身にタオルを一枚という、風呂上がりな姿……そして発せられた声に相手も困惑気味なのが容易にわかった 。


 玲も最初は驚いたものの、元々彼らの場所なのだから誰かしらいることに何ら問題はないと判断し、いつもの強気な態度で少年をまっすぐ見つめる。


「……もう誰も入ってないよな?私もこれから、風呂に入るんだけど」


 そう聞き、少年と浴室へと続くであろう扉を交互に見た。とりあえず、突っ立ってるのもあれなので青年の横を通り、真ん中の壁からカゴをとり着替えを入れる。


 よくよく考えれば、パンツしか下着は借りてないのでブラがない事に今更ながら気付いたが、この際どーでもいい。

 洗濯機を借りて洗って乾いたら着よう。それまでは、なしでいくしかない。いわゆるノーブラだ。


 そんな事を考えながら、そういえば少年は自分のことを知らないと気づき、きっと困惑してるだろうなと玲も思って、振り返る。


「しばらく、ここにいることになった玲だ。私のことは、外にいる瀧と丈にでも聞いてくれ」


 ニコリともせず、玲は淡々と告げて、少年にまた背を向けた。


「うーんと、ちょ、ちょっと待ってね〜」


 ワインレッドのパーカーを着た少年は、そそくさとトランクスを履くと、コーヒー牛乳片手にすりガラスの方へと歩いていった。


 玲はその様子を静かに眺める。

 玲とて、わざわざ 男が入っている場所に裸で乗り込む勇気はない。待てというのだから、他にも人がいるのかもしれない。


 少年に顔を向け頷くと、その先の浴室の中にいるであろう人物にも「ゆっくりでいいから」と声だけかける。


 身長175程度の丈や瀧に比べると、頭一つ分低いその少年は、カラカラとすりガラスを開け。


「ボ、ボス〜。なんか女の人入ってきたんだけど〜?」


 っとか細く、まだ幼い声でそう中に告げ――。 すりガラスの向こう側で慌てるような声と、風呂桶やら何やらをぶちまける騒がしい音が聞こえる。



「ちょ、ルウ!何とか時間稼ぎ!」


「えぇ〜、無理 ?」


「エクレア3つ!」


「うん! 頑張る!」



 すりガラスの向こう側の動揺と二人のやり取り……それに対して玲は何だか笑えてしまった。


 ルウと呼ばれたフードの少年は、自分のかごの前で七分たけの、やたらとポケットのついた黒いズボンを履くと、玲の前に歩いていき。


「えっと、ボスがまだ入ってて、多分すぐに逃げると思うけど、もうちょっと待っててね!」


 そう告げた。 


「ははっ……え?ボス?それって――神内って奴?」


 少し笑ってしまった後、ハッと玲は冷静になった。

 ここは四番隊だ。そのボスといえば、先程会った金髪オールバックな青年が思い浮かぶ。


 あの威圧感溢れるオーラ……それと、今風呂場にいる慌て者が一緒とは……どうも思えない。


「おい、ルウ。今、中にいるのは神内って男か?もし、そうなら話があるんだ」


 先程耳に入れた少年の名を気安く呼び、玲は鋭い眼差しをすりガラスへと向ける。そして、ルウの返事を聞く前にすりガラスの方に向かって歩きだした。


 神内ならば、ここから解放するように抗議する必要があるからだ。無駄かもしれないが、やらないよりはや った方がいい。

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