chapter:3-5
「俺に聞かれても、わからんな。はぁ……それと、うちにはかなり高ランクの能力者もざらにいる。さっき通ってきたコンクリの道だの、この周辺を取り囲んでる鬱蒼とした木だのは、そういった能力者が作ったもんだ」
まるで野球部からチンピラにでもなったような、この瀧という男は、実際かなり頭が働く。
いわゆる天才型思考であり、遠まわしな言い方をしているが、 要するにこの廃ビル群は、闇の組織にも簡単には見つからないように細工されているということだ。
電波ジャミング位、あって当然だろう。
「はぁ……そーですか」
律儀に答える瀧に玲は肩をすくめて簡単な返事をした。周りから完全に遮断された空間、とでもいえばいいのか、とにかく今の現状が好転するような情報は得られなかった。
「逃げようとなんざ考えないほうがいいぞ? いろいろと用事があったんなら済まないな」
そう肩ごしに玲を見ると瀧はそう告げて、同時にゆっくりとエレベーターが減速していく。
音もなく開くドアの向こうには、まるで旅館かと見まごうレベルの木製のフロア。
左に休憩所、右に竹製のベンチと赤い傘、そして3台の自販機まで揃えてある。正直、こんな場所になぜ自販機があるのか、誰が詰め替えるのか不思議である。
そしてその奥には赤い
「待ってたよ。女物の服なんて持ってないから、とりあえずシャツとズボンね」
そう言って赤い傘の下、竹製のベンチで缶ジュースを飲んでいた丈が立ち上がる。
相変わらず愛想のよい笑みを浮かべ、着替えを玲に手渡した。
受けとった玲は丈の話を聞きつつ少し確認した。 普通に黒Tシャツと、七分たけの白いチノパン。
それまでなら、何も疑問を抱かず感謝し風呂に行くのだが……何故か女物のボクサーパンツがあったのだ。これには玲も目を丸くする。
正直、下着は替えがないから着てたものを……と考えていたからだ。思ってもみない出来事、いやラッキーなのだが……。
「このパンツは、お前の趣味か何かか?」
「いやだな、そんなことないよ」
聞き方がストレート過ぎるが玲は怪訝そうに丈とパンツを交互に見比べた。
否定をする丈に疑問は残るが、貸してもらえるなら、ありがたく使わせてもらえばよい。
そう思い、玲は丈に礼を言い、奥にある赤い暖簾と青い暖簾の入口へと向かう。瀧が男風呂しか案内出来ないと言っていたし、青い暖簾の方へいけばいいのだろう。
そう考え、玲は青い暖簾をくぐる 。
「絶対、覗くなよ」
振り返り際に二人に再度告げて、中へと姿を消した。
玲が青い暖簾をくぐっていくのを確認すると、瀧は自販機で甘めのコーヒーを買って、丈と共に竹製のベンチに腰掛ける。
お互いに一口飲み物を口に含み――。
「もしかして……だが、物干しからとってきたのか?」
「え?うん。そうだよ?流石にあの子もおんなじ下着じゃかわいそうでしょ?」
「はぁ。あの黒のボクサーパンツだが、多分姐さんのだ」
「えっ!?ま、じ?」
「おう。ちょっと前にアレ履きながらここでブラックコーヒー買ってんの見た」
「さすが、パンツ一丁かぁ。ナンバー2......男らしいねぇ」
そんな風に二人が外でのんきに話をしている中。青の暖簾の中では――
「……え? 」
暖簾をくぐり一度折れ曲がると、左右の壁と真ん中の棚に服を入れるかごが並び、その奥には大きな鏡と3つの洗面台という脱衣所がある。
そしてその右側にすりガラスの扉となっている、浴室だ。大きな風呂がある。
その脱衣所に人がいた。
ワインレッドの薄いパー カーを着て、目元が隠れくる位フードを目深にかぶった、下半身にタオルを一枚まいただけで、風呂上がりなのかほんのり赤い肌と片手にコーヒー牛乳を持った少年だった。
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