chapter:3-2

 長い金髪を白いカチューシャでオールバックにまとめている青年は、玲の言葉と目に舌打ちをする。


 玲に詰め寄り、190センチに届きそうな長身をかがめて玲の顔を覗き込むと、何か言おうとしたところで――


神内じんないさん。本当に良かったんですか?その……あんなことして」


 車に乗っている時から、どこか思いつめたような落ち着かないような雰囲気を醸し出していた武が、たまらずといった雰囲気でカチューシャ金パの青年に問う。


 神内と呼ばれた青年は玲から武の方へと向き直ると、 静かに口を開いた。


「頭の命令だ……。俺も正直あの人が何考えてんのかはよくわからねぇ」


 今全員がいるこのビルは「入口」なのであろう。


「四番隊に連れていけ」


 神内の言葉に先ほどの茶髪と坊主が了承の声を上げ、ビルの奥へと玲を連れて行く。



 金髪に190近くある長身の青年に舌打ちされ、詰め寄られ顔を覗き込まれる恐怖でたじろいでいた玲は、勝手にどんどん話が進むことに頭がついていかない。


 よくわからないが、ここにいる奴らもボスの考えはわかってないらしい。


 青年――神内の指示で玲は「四番隊」と呼ばれる場所に今度は連れてかれた。

 案内人兼監視員は車内でも隣に座った茶髪と坊主。彼らと共にビルの奥へ一歩進む度に、玲には不安が募った。


 このまま、帰れなかったら……こんなことになるなら、素直に燈弥の研究施設に行けばよかった。……いやいや、あそこはあそこで地獄だ。



 薄暗く、ともすれば夜には完全に肝試しスポットにでもなりそうなビルは、長くここを拠点にしているのであろう、彼らの手によってそこそこ内部は綺麗に保たれていた。

 そして、その「四番隊」という場所に連れていく途中で――



「悪いね。俺らも事情よくわかってなくてさ。まぁ、拉致監禁するけど、ひどいことはしないから」


 そんな風に茶髪の青年が玲に話しかける。


「はぁ……早く帰りたいんで何とかしてください」


 男の態度に玲も堂々と文句を返してしまう。なんとなく優男な雰囲気の茶髪の男......こーいうタイプが一番怖かったりすんだよな、と玲は内心思った。

 もう一人の坊主は、見た目はいかついが中身がアホだったらいいな……そうしたら、いろいろ情報を聞き出して逃げる。


 玲は坊主をちらっと一瞥し、そんな失礼な事を考えた。


「あはははっ!そうだよねぇ。ゴメンネ、こんなこと巻き込んじゃって」


 玲の文句にも笑って返事をする茶髪の男。そして、そんな文句を言わせておく坊主。

 何やら二人は、それほど悪い奴ではないらしい。

 いや拉致してる辺り悪い奴らなのだが 、内面は付き合い易いやからという感じだ。


 だから、玲も警戒は少ししつつ肩の力を抜いた 。


たき?さっきから何考えてんの?」


 普段はここまで無口ではないらしく、黙って歩く坊主頭の瀧と呼ばれた青年を見て、茶髪は不思議そうに尋ねた。


「いや、今までのことを一から考えて、俺らのやってることを逆算してたんだ。俺らの前に顔を見せたことのない頭の命令。しかも、各隊長たちじゃなく、うちの隊長と俺らにだけの勅命ちょくめいらしい。

そして、連れ去ったこの女。正直珍しい能力かと思えば、ただの治癒能力だ。んで、聞き出した話によると、女にご執心の男がいて、それを誘い出すためにこんなことしたらしい。

結果、かなり私的な内容で相手を煽るような行動をとっているようにしか見えない。そこでだ。女、お前誰かとすごい仲がいい。もしくはお前がいないと今現在困るような奴がいないか?」


 今まで起こったこと、聞いた話からこの瀧という青年は一つの確信に近づこうとしていた。

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