反学園組織『アウロラ』

chapter:3-1

 玲を車に乗り込ませると、運転席と後部座席は暗幕で仕切られており、全ての窓にもカーテンがしかれていた。

 いわば、簡易的な護送車といったところだろうか?全てのカーテンを引いてしまっているこの状況では、玲はどこを走っているかわからない状態だ。


「治癒能力といったところか? わからねぇな。確かにレアではあるが、そこまで固執する能力でもるまいし」


 なんのことを言っているのか、玲にはわからないかもしれないが、この男たちはいわば「悪」と呼ばれる者たちだ。

 拉致、窃盗、その他もろもろ……そういった裏稼業がこの街には多く隠れている。

 平和な学園島の水面下では闇が蠢き、悪は堂々と街を歩く。



 無理矢理、車に乗らされて挟まれるように男達に両脇に座られれば玲も無駄に抵抗もできない。


 暗幕で外界と閉ざされた車内。一体、どこに向かっているのか……何が目的なのか。


 玲にはさっぱり理解できない。ただ、男の呟きは玲にしっかり届いた。言い方からして、彼らは“誰かに”命じられて自分を連れていこうとしているのだろう。


 その相手はわからない。下手に聞いたところで、奴らが口を割るとも考えられない。


「……ずいぶん、手荒いやり方だな」


 警戒心は解かずに玲は小さく呟いた。

 目の前の男達に、男達を操る黒幕に。


 心多と別れた所を狙えば、自分を連れさるのなんて簡単にできたはずだ。

 なにせ、男が言うとおり治癒能力しか玲にはない。一介の女子高生が大人の悪に抗う術など持ってはいないのだから。


 暗い車内。聞こえるのは男の声。外の様子がわからないのは、正直痛い。自分の居場所

を特定できなければ、誰かに助けも呼べない。


 こーいう時、あの変態研究員が居場所を簡単に割り出しそうな気もしたが……あんな男に借りは作りたくない。


 玲は燈弥の顔を思い浮かべ、すぐさま脳内から消すように軽く頭を左右に振った。


「早く家に帰りたいんだけど」


 意味はないと思うが、玲は大柄な男に声をかけた。この主張が通るくらいなら初めから、こんな事にはなってはいない。


 平和な日常は、思ったよりも簡単に崩れるんだなと玲は身を持って痛感した。



 玲の言葉にも大柄な男は一瞥するだけで、答えようとはしなかった。




 時折揺れる車体から、今はそこまでいい道を走っていないことだけは確かだ。


 そんな時、長い茶髪のホストのような容姿をした男が大柄な男に声をかけた。


たけしさん。正直俺らもよくわかってねぇんスけど。上からの命令ってなんなすかね?」


 それに同意するように坊主頭の耳にピアスをやたらとつけた男も声を出す。


「俺も気になってやした。なんてーか、今までと違うみてーだなって。確かに俺ら下っ端っには伝えなくていいことかも知んねぇですけど」


 2人の言葉を聞き、腕組みをしていた大柄な短い金髪の男はため息をつく。


「ふぅ。うちらのボスはてめぇ等のことも下っ端なんざ思ってねぇよ。そうだな、これは今までと違って私的な内容らしい。俺も詳しくは聞いていないが、どうやらこの小娘にご執心の奴がいるらしくてな。そいつに用があるんだと」


 その言葉を聞き、2人の若者は口を紡ぐ。


 玲も下手に相手を刺激せず、おとなしく内容を耳にした。どうやら自分にご執心の奴のせいで、こんな面倒事に巻き込まれたという感じなのだろう。


 誰だよ、ご執心の奴って。マジ迷惑だな。


 玲は忌ま忌ましそうに顔を歪めた。





 この集団のボス。そして玲にご執心の人間。


 まだまだ この事件には黒幕が多い。







 それからしばらく、武と呼ばれた大柄な男と、茶髪と坊主は時折言葉を交わしていた。車が走り始めてから一時間ほどして、車の停止音と共に、スライドドアが勢いよく開く。


 その向こうには長い金髪をカチューシャでオールバックに止めた、身長の高い若者。

 彼が武に目で合図すると、武は車を降り、それに続くようにしてほかの数人も玲を連れて車を降りる。


 そこは、森の中のビルの廃墟。それもひとつやふたつどころの騒ぎではなく、十数棟が連なり、崩れかけて一種の巨大な要塞のようになっている場所だった。


 玲は金髪の男を睨みつける。


「お前、誰だ?私に何の用だ。いっとくけど、私にご執心の奴なんていないからな」


 警戒心を解かずに、決して怯まずに言葉を放つ玲。この強気がいつまで続くか、玲自身もわからない。

 だが、今奴らの前で情けない姿をさらすわけにはいかない。隙を見せれば 、何が起こるかわからない。ここは、そういう世界だ。


 攻撃力がないのなら、戦う術がないのなら......心まで折れるわけにはいかない。

 玲は、目の前の男から目をらさなかった。

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