chapter:2-15

「 へぇ!玲も人の心配できたんだな 」


「お前は私をなんだと思ってるんだ」


 玲の心配そうな言葉に少しおどけたふうに心多は返した。玲は呆れつつ「何もないならよかった」と小さく呟く。

 何となくスッキリしない言い方をされたが、今この場でもめても仕方ない。


 相手も大丈夫そうだし、このまま自宅に帰るだけ。


 心多は男に一言別れを告げてからバイクのアクセルを回して ――。 耳障りな打撃音を合図に世界が暗転する。


「――!?っ、なに!?」


 それに伴い投げ出される二人の体。アスファルトに倒れるように打ち付けた玲の左半身が鈍い痛みを覚える。

 心多も後頭部に鈍い痛みを感じ、かすかに視界の端に映った金髪の男の姿をとらえた。


 金髪でひょろっとした、いわばチンピラといった感じの男の手には木製バット。


 玲は半身を起き上がらせ、表情を歪めながら上を見上げれば、倒れる心多の姿。

 そして、対峙する金髪の男。

 手には木製バットが握られている。バットの中間はへこみ、真っ赤な液体がついていた。何があったかなんて一目瞭然。


 玲は心多に駆け寄ろうとしたが、先程の気のよさそうな男の言葉に目を見開いた。


「そうか、怪我でもしてくれてればやりやすかったんだけどな」


 先程までの気の良さそうな男が放った一言をきっかけに、続々と開きっぱなしの後部座席から柄の悪そうな男が出てくる。

 気を失った心多を無視し、倒れたバイクと玲の周りを囲むようにして――



「 まぁ、要件は聞かないでくれ。黙って付いてきてくれればひどいことはしないよ 」


「そこどけよ。心多が怪我してる。治さないといけねーだろ」


 黙ってついていく……そんな事を玲が素直に聞くはずがない。

 立ち上がり男を睨みつけ、心多の傍へ寄ろうと思案する。


 その間も周りはガラの悪そうな男達に取り囲まれ、いつ何がくるかわからない。

 目の前にいる怪我人一人治せないなんて……玲は舌打ちをした。


「ハハハハっ!! 今ならまだ無事だが、お前が大人しく付いてこないってなると」


 玲の態度に笑いながら大柄なオトコは、バットを持った金髪の男へ目で合図する。

 その合図を受けた金髪の男は、薄ら寒い笑いを浮かべて、木製バットをいつでも振り下ろせるように肩に担いだ。


「ってぇこった。さっさとついてきな。関係ない奴がこれ以上痛い目にあうのは見たくねぇだろ?」


 大柄な男の言葉に玲は顔を歪め、眉根を寄せた。逃げる選択肢は、ない。

 どうやら男達の狙いが自分であることに気づいた玲は軽く舌打ちをし、はぁ……と息を吐いた。


「最悪」


「そりゃあ災難だったな。お前も、そこで倒れてるやつも」


 そう告げて、茶髪のまるでホストのような男と、短髪でピアスだらけの男に玲の両脇を固めさせる。



「連れてけ」


 そう男が告げ、短髪の男が「早く歩け」っと玲の肩を後ろから押した。


 短髪に後ろから肩を押されて無理矢理歩かされ、心多の横を通り過ぎ――――玲はとっさに屈み込み、彼の後頭部に手を当てる。

 瞬間、後頭部の傷は綺麗に治された。

 まだ意識は戻らないだろうが、手当ができただけ十分。


「……ゴメン」


 小さく、心多に伝えた謝罪。彼の耳には届かないだろう。玲は苛立ちを表す表情で立ち

 上がると、男達に招かれるまま連れてかれた。

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