chapter:2-14

「 はいよー。んじゃァ、ほれ、ヘルメット 」


 心多は愛車の改造アメリカンにまたがると、自分のヘルメットを玲に投げ渡す。

 見事にキャッチした玲は頭に装着し、心多がまたがる愛車に玲も乗った。


 行きと同じ感じでいいだろうと思ったので、彼の腰に腕を回し……いわゆる、抱き着くようなポーズだが玲は気にする様子もない。


 まだ日は出ているものの、東地区は他の地区と比べると日中は風が吹いて涼しい。

 夜ともなると、夏でもなければ防寒具を着込まなければ寒いほどだが、ここから中央地区までなら2時間もあれば行って帰って来れるだろう。


「 そーいえば。玲、あいつとはどういう関係なの? 」


「あいつ」というのはいわゆる燈弥のことだ。かなり親しげな雰囲気を出しているが、燈弥と心多は実は全くと言っていいほど親しくない。


 それどころか、燈弥からは必要以上に毛嫌いされているほどだ。


 そんなことを聞かれた玲は心多の発言に顔をしかめる。


「あいつ?あいつって......おい、ふざけんな。まさかのこと言ってんのか?」


 心多がいう――燈弥の事を示す言葉に玲は苛立ち、腰に回す腕をキツクする。

 心多のお腹をキツク締める具合になったが玲の苛立ちはおさまらない。

 心多は少しだけ「うっ」 っと呻いてしまう。


「……あいつの実験対象なんだよ、私は。なんでか知らないが、目をつけられちまってな。正直、迷惑」


 ため息を吐き、燈弥との関係を話す玲。少々落ち着いたのか、キツク締めた腕は緩まった。


「 ふーん。あいつが目ェつけたってんなら、なかなか珍しい能力なんだろーねぇ 」


 心多のその言葉に玲は少し口を尖らす。

 なんというか、やりきれない気持ちのような表情。それは心多には決して見えないが、玲としては彼の言葉が少々気になったようだ。


「別に、たいした能力じゃない。使えない能力だ」


 そう吐き捨てた言葉。

 心多は玲が燈弥に対して苦手意識が強いのだろうかと彼女の様子をみて思う。


 それ以上深くは聞かない。

 相手の能力や研究所など、そういったことを事細かにのはこの街ではタブーだ。


 ソレは思いもよらない「闇」につながっているかもしれないし、それが王レベルの相手に目をつけられたとなれば、ヤブヘビどころの騒ぎではない。


「 まぁ、こっちはそのくらいが丁度いいんだけどね。おおっと!」


 心多が小さな声で呟いた時、いきなり曲がり角から白いワンボックスカーが飛び出してくる。

 とはいえ、一時停止から出発しただけのようで、そこまでスピードは出ておらず、こちらも慌ててブレーキをかけてハンドルをそらしたおかげで、2車両とも接触することはなかった。


 驚き心多にしがみついていた玲は恐る恐る目を開け、どうなったのかみてみる。

 するとワンボックスの後部座席のスライドドアが開かれ、何やら気の良さそうな大柄の男が降りてきた。


「いや、悪いね。うちのツレまだ運転し慣れてなくてさ。二人共怪我しなかった?」


 男の済まなそうな表情に、心多も笑って「いや、大丈夫だよ」と返す。街中をそこそこのスピードで走っていたこちらにも非はあるし、 お互いに怪我をしていないのだから、別段わざわざ問題を起こすようなこともないだろう。

 玲も自分に異常がないことを確認し心多に声をかけた。


「私は大丈夫だ。心多は?怪我してないか?」


 もし怪我があれば、能力で治してやることは余裕である。世話になっているのだし、それくらい玲にだって優しさはあるのだ。




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