chapter:2-13

 家主の声が聞こえリビングに入れば、東地区ひいては家の雰囲気とあった木目のテーブルの上にパスタとサラダが皿に盛られていた。

 匂いに空腹感は増して早く口に入れたい

 玲は、さっさと椅子に座ろうとし――――


「ん?あぁ、ありがとな」


 何故かは知らないが親切に椅子を引いてくれた心多に特に笑顔を浮かべるわけでもなく、無表情な愛想のない感じに礼を言う。

 ふざけた文句つきだったが、ツッコムのも面倒なのでスルーした。


 椅子に腰をかけ、目の前にある手料理を今すぐにでも喰らいつきたい衝動を抑え、手を合わせて「いただきます」と軽く頭を下げる。そして、パスタをフォークでからめとり、口に入れた。ナポリタンの味が口に広がり、玲は顔を綻ばせる。

 続いてサラダも、口に入れシャキシャキといい音を鳴らしながら胃におさめていく。


「美味しいな。これならいつでも嫁にいけるぞ」


 一旦フォークをパスタ皿におき、麦茶を飲んで玲はそんなことを心多に言った。

 先程とは違い、口の端を上げて笑いながら。可愛い笑顔というより、ニヤリとした企みを含んだような笑顔だが、何も企んだりはしていないし、嫌味を言ったつもりもない。


 もちろん褒め言葉である。相手が男なのだから嫁というより婿なのだが、そんな細かいことを玲が気にするわけない。


 そんな玲に苦笑いをしながら、心多も席についた。


「 そうか。喜んでもらえたならよかった 」


 心多もナポリタンを口に運ぶ。

 滅多にナポリタンなんてものは作らないが、流石に振舞おうとして作った料理だ。普段の彼の手抜きよりは数倍うまい。

 とはいえ、やはり得意料理と比べればそこまで美味しくないわけで。


 それでも喜んでくれる玲に次の機会があれば、今度は得意料理を食べさせようと内心思った。




「とりあえず、これ食べたら帰るよ。あんまり長居するわけには、いかないからな」


 再びパスタをフォークでからめながら、心多の顔は見ずに玲は考えを話した。

 ここは東地区、玲の自宅は中央地区だ。長居をしすぎて帰りが遅くなるのもまずい。夜になれば、面倒くさい輩はテンション高く現れるものだ。早いとこ自宅で、ゆっくりするのが平和なのである。


 そんな風に考え、パスタを口に入れる。「やっぱり、美味しい」と、小さく感想を漏らしながら。その顔は、嬉しそうだった。



 玲の話を聞いて心多は壁にかかる時計を確認する。


 時間はお昼から少し過ぎたくらいだが、彼女にも予定があるのだろう。


 家に帰るといった玲の言葉を聞いて、ナポリタンを平らげると、麦茶を一気に煽って 。


「家の近くまで送ってくよ」


 そう告げて、心多は自分のお皿を流しで水にさらした。


 心多が食べ終えるのに続いて玲も少し急ぎつつ、パスタとサラダを胃におさめた。急すぎたが、喉につまるような心配はない。

 それでも麦茶を飲んで一安心してしまうのは何故だろうか。ほっと一息ついたという感じだろう。


「ごちそうさま。ありがとうな」


 食べ終えた食器を心多のいる流しまで運び、片付けは……と思ったが、まぁ今日のところは世話になったんだし一応聞いてみることにし、玲は心多に問う。


「片付けどうしたらいい?しても大丈夫なら片付けくらいするけど。あー、あとマジで送ってくれんの?別にいいよ?わざわざ気をつかわなくてもさ」


 第一、まだ明るいし。そう軽く笑いながら告げ玲は彼の返事を待つ。


「いや、いいよ。片付けは帰ってきてからやればいいし」


 軽く流したフライパンと包丁を流しにおいて、玲に返しながら心多は横のタオルで軽く手を拭く。

 別に心多自身片付けをされてもされなくてもどちらでもいいのだが、なにせ、洗剤の置き場所やら食器の片付け場所やら、普段使わない人間からすれば勝手がわからないことのほうが多いだろう。


 まだ外は明るいが、駅からこの家までは徒歩30分位ある。それに中央地区に行ってからは中央地区の環状線に乗り換えないといけないので、きっと面倒だろう。


「 気を使わなくていいほど親しくないだろ?まださ。 それに、バイクで風を切るのって気持ちいだろ?」


 心多はそう言って、バイクのキーを指でくるくると回しながら玄関に向かった。


「ん、わかった。じゃあそーいう感じで」


 片付けはいいということ、加えて送ってくれることに対して頷き、そして玲は彼の言葉に甘えることにした。

 確かに、 電車の乗り換えは面倒だからだ。バイクなら、ただ乗ってるだけでいいし電車の待ち時間やらを考えてもバイクのが早くつけるだろう。


 バイクのキーを器用に指で回しながら玄関に向かう心多に続くように、玲も鞄を肩にかけ歩いた。


 玄関を出れば東地区特有の涼しい風が、びゅうっと吹いた。一瞬だったが思ったより強い風。反射的に手で押さえたスカートがめくれなかったのは幸いだった。


 先程停めたバ イクのところまで行き、心多に軽く手を上げ玲は「じゃ、頼む」と一応お願いをした。 相変わらず愛想のない表情だったが、言わないよりはマシだ。

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