chapter:2-12
「あんまし遠くに行くなよー」なんて、面白い番組がなかったのか、自分に一言断ってから外に行く玲に告げて心多は見送る。
さて、料理を作り始めよう。
パスタはすぐに茹で上がるため後回し。トマトピューレと刻んだ野菜、調味料と若干の生クリームをうまく調節して、ドロドロのトマトスープのようなものを作り上げる。
焦げないように木べらでうまくかき混ぜながら水分を飛ばす。「甘め」にするのか「辛め」にするのかを聞いていなかった。お腹もすいているようだし、食欲をそそる辛めのソースでいいだろう。
とりあえずサラダのための野菜を千切り、友人にもらった自家製ドレッシングに合うように刻んだオニオンやら若干のベーコンやらを用意する。
ついで、パスタを茹で、少し固めでざるにあげる。あとはソースと一緒に炒めるだけだ。
さて、ここまでの所要時間30分ちょっと。 玲も戻ってこないようだし、少しゆっくりしよう。
心多は引き出しから手帳をとりだす。そこに入っていた数枚の写真とメモを見て、表情を消した。
―― 役者は揃った。
しかし時期尚早ではないか?
そこまで慎重になることはないだろ?
しかしここで失敗すると面倒だ。
アイツの動向も気になる。
何を考えているかわからないからな。
対策の話だ。アイツは頭がいい。
驚異となり得る。
そうか?むしろ操りやすい気もするが。
今はコイツが主体だ。
判断は任せるべきだろう?
何も知らないコイツにねぇ。 ――
リラックスしたまま歩いて着いた神社。
玲は深く深呼吸し、祭壇近くの石の階段に腰を 下ろす。その隣には、一匹の黒猫。
この猫は先程会ったばかりの猫だ。怪我をしていたので治してやったら懐いてきたので 、休憩がてら世間話をしている。
まぁ猫相手なので、ただ一方的に玲が話しかけてるだけだが。それでも上手い具合に相槌のような鳴き声を出すから、ついつい喋るのが止まらない。
「な?最悪だろ。人を実験扱いしてさ、自分の物と勘違いしてやがるんだよ、あの変態は」
そのような、ある特定の人物の愚痴を吐き出し、玲は晴れやかな表情になる。
普通は王に対する文句など言えないし、言ってもスルーされるだけだ。だから不満があっても、なかなか愚痴も言えなかったから、この猫は良い奴だ。
「あー、スッキリした。ありがとな。また何かあったら頼むわ」
溜まったものを吐き出し、玲は一つ伸びをし立ち上がる。
猫に笑いかけてやれば、再び にゃぁと鳴き、尻尾を揺らしながら神社の奥の林に姿を消す。それを見届け、玲は来た道を戻る。
「ただいまー。おー、飯できた?」
まるで自分の家のように上がり、家主の心多に声をかける。時間にしたら30分と、少しのんびりしてしまった気もするが、それに対して謝罪はしない。
玄関からリビングへと 移動し、そこにいる心多に玲は顔を向ける。
心多はといえば、とりあえずテーブルに料理を盛り付けていた。
一人の時は盛りつけなどほとんどこだわらないが、やはり他人に振舞うとなるとそうもいかない。
無機質な白や黒のお皿ではなく、少し涼しげなガラスの器にサラダを盛り付け、波模様の描かれたお皿にナポリタンを盛り付ける。
あいにくと白のテーブルなどではなく、濃い木目のテーブルなため全くと言っていいほど見栄えがしない。――困った。
自分の美的センスが非常に残念なことに心多がショックを受けていると、玄関から声が聞こえる。
「 おーう。できてるぞー 」
まぁ、あの子ならそんなこと気にしないかなと玲に対して思案する。
まだ出会ってから数時間しか経っていないが、表面上だけでも彼女の性格はわかってきた。ソレは喜ばしいことなのか、それとも――。
玲のコップと自分のコップに麦茶を注いで、椅子に腰掛けようと椅子を引いたところで、玲がリビングに入ってくる。
―― 椅子引いてあげたほうがいいのかな?
心多はそんな風に一瞬思考を巡らして、そのままそれを実行する。
「 どうぞお嬢さん 」
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