chapter:2-11

 玲のセリフに心多は若干戸惑う。

 正直ここから冷蔵庫くらいまでなら持ってもらう必要は全くないのだが、玲が持つというのなら、持ってもらおう。

 よくよく考えれば、両手がふさがっていると鍵が開けれない。


 玲に持っていた方でも、若干軽い方を渡し、心多は空いた手でバイクから鍵を抜き、キーケースから別の鍵を取り出す。


 玲は片方の袋を受け取り若干重いなと顔をしかめたが、先程よりは少し軽いような気がして心多の後をヒヨコのように続いてヨタヨタは大袈裟だが、そんな雰囲気で歩いていく。


 昔ながらの和風な磨ガラスに木製の柵が取り付けられたような引き戸に心多が鍵を差し込めば、すんなりと回して若干のガラガラという音と共に開ける。


 玄関は横長方形の広めに作ってあり、左には胸辺りまでの備え付け靴入れ。そしてその上には綺麗な生花がある。奥は2段登って木目の廊下につながっている。


 広めの玄関内に「おじゃまします」と玲は一言挨拶して入れば、左手にある靴入れの上に飾ってある綺麗な生花を目にし、少し目を丸くした。

 こんな所まで飾ってあるのか……女性っぽい男だなぁと先に中に入る心多の背中を凝視してしまった。


「 キッチンは奥だから 」


 そう声をかけて心多は靴を脱いで廊下に上がると、やはり自分の家は落ち着くのか、檜なのか畳なのかわからないが和風の匂いのする家で、ふぅと息をつく。

 外見は一見して純和風の古臭い家だが、立てたのはたかだか2・3年ほど前だ。

 言ってしまえば新築なのだが、どこか彼の雰囲気ととてもあっている。


 玄関右手には少し広めの階段が上へと続いており、階段の下には物置なのか背の低い扉。その横を通り過ぎて、右に曲がれば、扉が開かれたキッチンがある。


 現代風。いや、近未来風だろうか?雰囲気よりも使い勝手を選んだせいで、和風とは言えない、風貌の最新式キッチンが広がっている。


「 そこの台に袋置いといて 」


 玄関からまっすぐ見たところにある引き戸の中がリビングとなっており、リビングと そのとなりのキッチンはカウンターのような仕切りでつながっている。


 リビングから見て、カウンターの奥に淡いピンクの冷蔵庫があるわけだが、この色合いは送ってくれたのが女性だったためであり、彼の趣味ではない。


 玲は室内の雰囲気をまじまじと眺めて外観や玄関とは違いここは近代的だな、なんて最新式キッチンを見て台の上に袋を丁寧に置いた。

 カウンターの奥にある淡いピンクの冷蔵庫も和風な雰囲気に合ってない気がするが……心多の雰囲気には少し合う気がしなくもない。

 まぁ雰囲気より実用的なのが一番だと思うので、コメントはしないが。


 そんな呑気な玲とは反対に心多は両開きの冷蔵庫を開け、ガランとしている中に手際よく食品を詰め込んでいく。


「 リビングでテレビでも見てて 」


 料理を手伝いたいというのならば別だが、先程からの会話で彼女は食べる専門だろう。

 女の子がそれでいいのか?とも思うが、今日は自分がご馳走するといった気がするので、仕方がない。


 この微妙な時間帯に面白い番組はやっているだろうか?とも思ったが、子どもじゃないのだし、そこまで過保護にならなくていいだろう。そう思い、心多は食事の支度を始めた。


 その言葉に甘え、玲は鞄を置きリビングでくつろぐことにした。が……。


「何も面白いのないな……」


 テレビをつけたはいいが、この時間帯の番組だ。興味をひくような番組はどのチャンネルもやっていない。テレビを消し、立ち上がるとキッチンにいる心多に顔を向けた。


「ちょっとそこら辺散歩してくる」


 一方的に告げるや否、返事も聞かずに玲は玄関に向かう。そして素早く靴を履き、外にでた。


 このまま家の周りを散策する魂胆である。緑が多い場所だ、マイナスイオンを浴びるようなリラックスした気分になる。

 そういえばバイクで来る時に鳥居を見たが、あそこに行ってみるか。そう思うや、すぐに玲は足を動かした。

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