chapter:2-10
「わかった。落ちないように……お前に掴まる」
玲はバイクにまたがる心多からハーフヘルメを受け取り頭に被る。
そして、彼の後ろに何とかまたがり、ためらわず腰に手を回した。
初めてのことだ、やはり緊張はする。落ちないようにぎゅうっと心多に回す腕に力を入れた。
「安全運転で頼むぞ。振り落としたら、マジ蹴飛ばすからお前の頭」
不安を隠すように、ひねくれた言い方を心多にする。
慣れれば、玲ならきっと強がり、こんな風に腰に必死に掴まらない。片手で肩を掴む感じになるだろう。
まぁ慣れるまで彼のバイクに乗るなんて事はないだろうから、きっと毎回乗る度に腰にしがみつく姿は容易に想像できる。
そんな玲に対して、心多はなかなかに怖いことを言われたきがすると苦笑した。っというよりか、この身長差で頭を蹴り飛ばすというのは、ハイキックなのだろうか?それならば少し見てみたい気もするが、振り落とすと本当にシャレにならないのでやめておく。
もともと安定性があるので、ヘルメをあまりかぶらない主義の心多は、とりあえずバイク用のゴーグルだけ付けると、左足でエンジンをかける。1度2度……しっかりと整備はしているつもりなのだが、なにせ旧い型なのでエンジンのかかりが悪い。
クラッチを握りながらアクセルを回す。ゆっくりと発進する、一度発進してしまえば重低音な排気音とは異なり、かなりなめらかに、静かに走る。
腰に回され、しっかりと掴まれた玲の腕がなんとも安心感がある。少しばかり締め過ぎな気もするが、それはそれで可愛いと心多は思った。
そんな余裕な心多の後ろで玲は初めてのバイクに少々……いやかなり面白いと衝撃を受けていた。
肌にささる風は気持ちいいし、それなりの速度も遊園地のジェットコースターに比べれば可愛い感じだ。
まぁそうは言っても油断はできないので、本当に振り落とされないように腰に回す手は緩めない。
風に髪がなびき、それなりの速度が出る。
スポーツタイプとは違い前かがみになる必要のないアメリカンは、長時間走行に向いている代わりに、そこまでスピードが出ないのが常だが、流石に改造で大型級のエンジンになっているおかげか、かなりスピードが出ている。
実際にはありえないが、本当に振り落とされそうな勢いだ。
とはいえ、流石に閑静な住宅街に入るとスピードを落とす。道も細いし、なにせ危ない。
住宅街を抜け、少し舗装の禿げたアスファルトの道を過ぎて、何度か神社の赤い鳥居の前を通過すれば、となりの大きな田畑をはさんで森の広がる、2回建ての純和風な家が見える。
瓦の屋根に、垣根と板の塀、木目の縁側。喧騒とは程遠いのどかな風景だ。 周囲に家がないわけではないが、洋風な家は珍しい。
この街は、そのレベルで和風の田舎をイメージして作られている。
心多はバイクで石畳の横を抜け、倉庫と平屋の間に架けられた簡易屋根の中へとバイクをしまう。
「 到着。とりあえず冷蔵庫に食材入れるのは手伝ってね? 」
バイクから降り、トランクを開けて、両方の手に荷物を持ちながら心多はそんな風に玲に笑いかける。
玲も続いて降り、ハーフメットを外し心多に渡した。なかなか雰囲気のある家だなと思いながら、彼の持つ荷物をまた半分は受けとろうと手を差し出す。
「ん。ほら、持つよ」
働かざる者食うべからずというわけではないが、やれる範囲の事はやらないと落ち着かない。面倒なことに変わりはないが、それをぐっと堪えるだけの余裕はまだある。
「それにしても……デカイ家だなぁ。一人で住んでんだろ?なんか、寂しくなりそうな広さだな。まぁ立派な家に変わりはないけど」
手を差し出したまま、家を眺めポツリと感想を玲は漏らす。
自分のアパートとは大違いだ、なんて考えながら中はどんな雰囲気だろうかと若干楽しみにして口元をニヤリと動かした。
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