chapter:2-7

 突っぱねるようにいった言葉は、きっと反応に困っているのだろうと心多は玲の様子をみて思った。

 容姿にしろ言葉遣いにしろ、どこかボーイッシュな雰囲気を醸し出す彼女のことだ。

 今までこういった行為をされたことは少ないのかもしれない。


 自分の手を取らずに駅のホームに降りた玲を見て、心多は少し困ったように微笑むと、片手の人差し指で頬を掻く。

 正直別にやましい気持ちがあって行った行動というわけでもないので、こんなふうに突っぱねられると対応に困る。

 さっきからきっとお互いに困ってばかりだ。


 少し困ったように微笑む彼に罰が悪そうに玲は口を尖らす。好意を無下にしたのは、やはり失礼だったなと内心反省するが、素直に手をとるのは自分のキャラじゃない。


 どちらかといえば、ボディータッチはしないほうだ。よっぽど懐いた相手には男女関係なく甘えるが……いわゆるデレの部分は滅多に見せないし、そんな対象もいないので、甘える姿は幻だろう。


 弁解もお礼もできないまま、黙って心多の隣を玲は歩く。謝罪する暇もなかったな……と少し罪悪感を感じたが、いつまでも気にしても仕方がないので、頭を切り替える。

 とにかく、今は食事にありつくための買い物だ。



 そこまで大きくはないとは言え、木造で作られた和風の駅は、南と北に出口がある。

 心多の家はどちらかというと北地区よりなので、北側の出口に向かうが、そこで彼はスーパーによることを思い出した。

 大体歩けばスーパーや雑貨屋などにはぶち当たるが、品揃えのいいのは南地区よりの方だ。


「 少し遠回りになるけど、スーパーに寄ろうか 」


 心多はそんなことを玲に告げると、南側の出口から外へと出る。電車に乗っていた時からチラホラと見えてはいたのだが、東地区のど真ん中ともなると、そこらじゅうに大きな木が生えている。中にはコンクリートを押し上げて道に根を出すようなものもあるくらいだ。


 中央地区に住む玲は東地区のことは、よくわからないので心多の後をついていく。

 東地区の印象は、いわずもがな……辺りに生える大きな木だ。自然豊かな地区だが、こんなに緑があるとは思わず、なんとなく嬉しくなる。


 天気が良い日に散歩がてらピクニックも楽しそうだ。……あ、でも一人じゃ退屈だな。

 そんな、どうでもいいことを考えるまでに玲の気分は落ち着いていた。

 東地区の緑パワーのおかげである。



 そして、駅前には一際大きな、大の大人5人が腕を広げてやっと抱けるような太い幹の御神木が生えている。

 しめ縄の巻かれた御神木なんてものは東地区では珍しくはないのだ が、そもそもできて30年立たない程度のこの街にどうしてこんなものがあるのかが不思議でならない。




 心多と玲は駅前の商店街をぶらぶらと歩き、昔ながらの八百屋と肉屋に寄って、これまた風景を崩さない配慮なのか、茶色と緑の大手大型ショッピングモール内へと足を運ぶ。一回の食品売り場で必要なものを揃えるのだが――。


「 なんか、食後のデザートでも買う?」


 そんな風に聞くのは、彼のいつもの癖だ。


 心多に尋ねられた玲はパァッと顔を明るくさせ「いいのか?」とニコニコしながら周りを見回した。


 その様子に心多は正直驚いた。

 半分は社交辞令だったのだが。それだけ相手は自分に遠慮がなくなっているということだろう。


 それならばこちらもやりやすい。いや、何をやりやすいのかはサッパリだが。不意に頭に浮かんだ「やりやすい」に心多は自分の心の内でツッコミを入れる。


「さくらんぼ、さくらんぼが食べたい」


 そんな心多を気にせず玲はそう言いながら、さくらんぼらしきものを探してみる。食品売り場だから、目当てのものはすぐに見つかり、玲は早足で品物をゲットした。


「心多、あったぞ!これ食べたい!」


 まるで幼い子のように、はしゃぐ姿に、近くにいた買い物中のお客が玲と心多を見て微笑んでいた。


 玲は、そんな視線に気づかず、また気にすることもなく……さくらんぼのパックを持ち心多に駆け寄る。その振る舞いは、やはり犬みたいだった。

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