chapter:2-5
学園前駅は時間も時間なので学生の姿は見えず、もっといえば人も少なかった。
電車の切符を買う青年を横目に玲は食べたい物を考える。
それにしても、今時の学生はチャージ式マネーカードを使用するのに青年は随分古臭い奴だ。 いや、東地区に家がある辺り古臭いなと内心思っていた。
玲自身は東地区の雰囲気はリラックスするので好きである。よって、彼の家に行けるのはラッキーだった。ご飯もありつけるし、なかなか幸運である。
「んー、パスタ食べたいパスタ。後サラダもーレタス食べたい」
いろいろ考えたが、素直に今食べたいものを告げた。なんとなく言い方が柔らかいのは 、手料理にありつけるからだろうが……青年の和やかな雰囲気にも影響されてはいる。
イライラやピリピリした空気を
違うなら、彼の素が凄いということ 。
そんな風に考えて、ハッとする。そういえば、名前がわからない。これでは呼ぶのに困る。
「なぁ、お前名前は?飯をくれる相手を知らないなんて、ちょっと失礼だしさ。私は一色玲だ」
淡々とした口調だったが玲は少し口の端をあげ、薄く笑う。
要望を聞いておいてなんだが、パスタなんて基本的にどこの家庭が作っても同じだと青年は思った。
それに加えてパスタといっても種類が多くある。いったい彼女は何スパが食べたいのか ?そもそも男が作るのだ、多少手加減してくれているのだろうか?
様々な考えが頭の中 をめぐり、「えっと、あはははは……」と、すごく曖昧な笑い声が漏れる。そして、切符を買い終わり、それを改札に入れると、電車が来るのを待つ。
といっても時刻表を見た限りあと1分もしないうちに電車が来るだろう。
「玲ねぇ、かっこいい名前だこと。 俺は
相手の自己紹介を聞き終えると、はにかんで心多はそう告げる。っと、電車がきたようだ。
「かっこいい?そうか?そんなこと言われると嬉しいな、ありがと。えと……心多」
心多がはにかんで言う姿が、大きな男にしては可愛らしい。玲自身も名前を褒められ嬉しそうに笑う。
名前も先輩とかつけるのは面倒だし、先輩に見えないので呼び捨てにした。まぁ本人がいいと言うのだから、構わないだろう。
前を向く心多に続いて玲もそちらに顔を向けた。
学生の為に、ほとんど音を立てない静かな乗り物に学生中心だなこの島は、と作った輩に若干呆れつつ、心多の後に続いて玲も電車に乗り込む。
何とも白い壁に赤い革の座席と、レトロ感満載で少し可愛らしい。あ、絶対自分は似合わないぞ今。
そんな事に気づき、玲は少々顔をしかめてしまうが、電車は動きだしたので座席に座ることにする。
「 そんで、パスタは何パスタ?それによって買うもんも変わってくるんだけど ?」
心多は向かいに座る玲に尋ねた。
サラダに至っては、何種類かドレッシングは作り置きしてあるので問題ないと思うが 、パスタに関しては別物だ。
正直あさりやミート・トマトあたりならまだしも、カルボナーラとかグラタンとか言われると、すぐには用意できないし、腕に自信もない。
心多は玲の返しを待った。
「ナポリタンがいい。あ、サラダにトマトは入れるなよ?トマト嫌いなんだ」
何のパスタがいいのか聞かれ、玲は即答する。ミートもペペロンチーノもあさりもカルボナーラもみんな好きだが、今食べたいのはナポリタンだった。
答えるついでに嫌いな食材も伝えておく。嫌いな食べ物を出されて残すわけにはいかないと、玲なりの良心だった 。
ナポリタンという注文に心の中で、なんともまぁ家庭によって味の変わるものを選んできたなと心多は思う。
市販のものならばまだしも、家庭で作るとなるとパスタの茹で時間やら、味の素となるトマトピューレなどの量によって味が変わってくるのがナポリタンだ。
一見して非常に簡単な料理ではあるが、突き詰めれば奥は深い。
とはいえ、彼はそこまで料理に命をかけているわけではないので、出てくるのはごく一般的な味だとは思うが。
「了解、サラダにトマト入れると
玲の言葉に、そう返す。いくら自炊するといっても男の一人暮らしレベルだ。店屋を出せるほどのものを期待されても困るらしい。
が、実際は好き好んで彼のツレが食べに来るのだから、中にはハマる奴もいる。程度にはそこそこの腕前だと言えるだろう。
「食べれれば大丈夫だ。安心しろ、万が一まずくても残さず食う。トマト以外ならな」
腕を心配する心多にカラッとした笑顔で玲は答える。美味しいなら凄くいいが、実際は空腹が満たされれば構わないので、腕に関しては多少期待はしつつプレッシャーは与えない ようにする。
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