chapter:2-4

 まさか演技にノッてくるとは思わなかった。玲は多少驚きつつ、まんまと騙されたであろう青年に勝ち誇った笑みを向ける。


 騙されたもなにも、最初から相手は知っているらしいが、玲は単純なので気づく様子はない。それよりも、相手の言葉に意識が反応する。


「え、お前……料理できんの?」


 マジ?と目を丸くして驚く玲。自炊し、尚且つ人に振る舞おうとする輩は大抵、腕があるので美味い飯にありつける。

 これはラッキーだといわんばかりに、玲は先程の不機嫌 がどこへやら一瞬の内に少し機嫌よくなる。


「よし行こう、すぐ行こう。早くしろよ、ボサッとすんな!」


 餌につられる犬のように玲は青年を急かす。言葉は偉そうで荒っぽいが、多分尻尾が生えてれば、ものすごく振っているだろう。

「早くしてよ、ご主人様。お腹空いたよ、ご飯 食べたいよ」な気持ちなのである。


 ともかく、名前も素性も知らない青年と食事をしようだなんて、玲も大胆である。まぁ単純に手料理につられただけだが。


 燈弥とのやり取りを見ていた者がいれば、今のこの流れは信じられない光景だろう。そもそも、玲は燈弥に特に突っ掛かるだけで……害のない相手には、それほどツンツンしない。


 ポイントを 押さえれば、なつくスピードも速い。燈弥は、そこら辺を学習しないから、いつまでたっても玲が懐かないのである。


 一生徒にしては珍しく、青年はアパートやマンションではない一軒家を持っている。

 それも神社や森林・清流のあふれる東地区に居を構えているのだから、普通はもともとこの学園に住んでいた人間だと思うだろう。


 だが、彼は中学の時にこの学園に来た所謂「 新規」の人間だ。なのにもかかわらず一軒家、それも東地区を選ぶとは、相当彼がジジ くさいか、ほのぼのしているかを匂わせるだろう。


 現にどちらかといえば両方兼ね備えているのが彼なので、否定のしようがないが。


 中央地区の学園前駅。学園から少し離れたところではあるモノレールが通っている。 モノレールといっても一見して少し最新式の電車にしか見えない。が、その実、学生たちの勉学の面を考慮して極力音を抑えるという理念のもと開発されたものだ。

 そして街の外観を崩さないように、東地区域のものは多少レトロな外見をしている。


 なし崩しで、まるでしっぽを振りご主人に懐くかのような反応を見せた玲に言われるがまま青年は駅まで来てしまった。


「まぁ、スーパーは東地区のに行けばいいか。何か食べたいものとかある?」


 電車の切符を買いながら、急かす玲にそんなことを聞く。基本的に、ここの学生はチ ャージ式マネーカードで買い物を済ませることが多いが、彼はあまり最新式の電子機器の使い方を知らないので、いつも2台だけ設置されている切符を使う。


 きっとこの学園で 、未だに小銭を大量に持ち歩いているのは彼くらいなものだろう、古風を基調とする東地区でさえ、マネーカードがどんなものにも使われているというのに。

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