chapter:2-3

 どうやら玲の反応は恐怖を通り越して、怒りに変わったようだ。これ以上演技を続けても仕方がないだろうと青年は考える。


 そもそも最初から怒ってた気がしないでもないが、今思うと自分も結構馬鹿なことをしていたものだ。


 目の前で腕を組み、上目遣いに睨みつけてくる玲を前にして、歩みを止めれば、青年はいつものように片手をポケットに突っ込み、少し困っ たように眉を潜ませてもう片手で頬をポリポリと掻く。


 そういえば、そもそもなんで自分はこんなことを始めたのだったか?確か、ご飯がどうのこうの――。



「 君の友達だよね? 」


 青年の言う「あいつ」というのは、きっと彼女のいう「あいつ」と同じ人物だ。派閥も、そして年齢も違う彼と「あいつ」がなぜ知り合いなのか、それはまた別の機会に話すとしよう。


 ただ、彼が「あいつ」こと「燈弥」に多少特別な感情を抱いているということは確実だ。


 それが憎悪なのか思慕なのか。思慕なないな。


 先程の凶悪な表情とは打って変わって、少し情けない大人な微笑みに変わり、そんな風に青年は告げる。それにしてもあまりの豹変ぶりだ。


 玲は青年をジロリと睨む。怒った態度が伝わったのか、相手は先程とは少し違う……そう、少し困ったような素振りをみせた。

 だが、そんな事で玲のイライラが収まるわけがない。


 しかも、わけのわからない事まで聞いてくる始末だ。一層、眉間のしわが深くなる。


「あいつ?あいつって誰だよ……まさかっ燈弥のことか?ふざけんなっ!誰があんな変態と友達になるか!友情ごっこなら、もっとマシな奴を選ぶわ!」


 理解した途端、火山が噴火したように玲は気持ちをぶちまける。下手したら一発殴りそうな勢いだが、そこはグッと堪えた。


「なに?お前、あの変態研究員の知り合い?やめろよ、あんな奴の話はさ。あーっ、気分悪ぃ」


 目の前の怒り狂った玲の勢いと、まくし立てるような否定の言葉に少しだけ青年は困惑する。


 確かに友人という感じではなかったが、てっきりあいつがあそこまで無遠慮に触れるのだから、そこそこ気心の許せる友人だと思ったのだ。それもどうやら違うらしい。


 言い方から考えると、彼のお気に入りの実験動物といったところか。こうなると自身の

 感情にひどく鈍い彼に聞いてみたいところだが、きっと彼の前に顔を出したら、自分は即刻消されるだろう。

 それも仕方ないと思ってはいるのだが。



 玲はといえば吐き出した分、少し冷静になるが、嫌そうな雰囲気は変わらず。怒鳴ったらお腹も空いてしまい、腕組みをした手をとき、お腹を軽く撫でた。


 これは、先に何か食料を入れないとヤバイ。スーパーで買うか……でもお金はそんなにない。ダイエットと思って堪えるか……。悩み、唸ってしまう。

 その姿はマヌケに見えるだろうが、本人は真剣だった 。


 悩んで数秒、ふと思い付く。玲はニヤリとした笑みを一瞬浮かべ、辛そうな表情を演技し目の前の青年を見た。


「お前のせいでお腹が減った。ヤバイ、倒れそう……」


 すがるような目つきで相手を見た後、フラフラとした足取りで壁に寄り掛かる。もちろん全部演技だが、空腹なのは本当、事実だ。

 あわよくば、目の前の相手に飯を奢らせようという作戦。


 そんな玲に青年は考える。

 彼女はお腹がすいているらしい。正直先程の呟きが聞こえていたので、知っていたといえば知っていたが。


 そう、そもそも、その話が目的で近づいたのだった。忘れていた。


「んーと、取り敢えずスーパーからよってかないといけないから、今すぐ倒れるってなると……困るかなぁ?」


 きっと彼女はどこかの店でおごってもらおうとでも考えていたのだろう。なので、こちらはあえて手料理を振舞うという選択を出す。 さて、先程のあいつとのやりとりからもそうだが、彼女の反応は見ものだ。


 玲の反応に期待して青年は薄く笑みを浮かべた。

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