chapter:1-2
“ヨォ、モルモットちゃん。”
ああ……なんて最悪なんだ今日は。
曲が途切れた瞬間に聞こえた声。なんて絶妙なタイミングなんだと眉間にしわを寄せ嫌
そうにしながら声の主に顔を向ければ、憎らしい笑顔でこちらを見据える男が玲の視界に入った。
“今よォ、やっと面倒臭ェ手続きが終わって虫の居所が悪ィんだ。 “イジラせろ”よ?”
偉そうな、絶対的な命令を思わせる物言いに玲の機嫌は急降下する。眉間のしわも先程より深くなった。
この男と話すと、いつかしわだらけの顔になる。それぐらい、顔を合わせるだけで嫌悪を感じる相手。
相手はよく見知った男だった。闇属性最強の能力者――
こんな男に捕まれば面倒になるのは重々承知、体験済みだ。
ここにきて一年、この男に目をつけられてから散々な目にあったのは記憶にしっかり刻まれている。人体実験薬物投与……研究者の特権だか何だか知らないが、執拗な実験に何度死にかけたかわからない。だいたい、面倒くさいことは嫌いなんだ。なのに、自分からホイホイついていくバカがいるか?否、いるわけがない。
「いやだ。ふざけんな、どっか行けよ。ついてくるな、面倒くさい」
怯えるわけでも、泣くわけでもなく、堂々と男の言葉に即答し、睨みつけるように挑発的な眼差しを送って玲はその横を通り過ぎようとする。
光、闇能力者はなんで授業が同じなんだ。だいたい、私は
ここでいう派閥とはそれぞれの王が保有する組織の事。それぞれの王に関する属性にちなんだ呼び名で呼ばれることが多い。
大規模な派閥の王もいれば、かなり小規模の派閥、中には派閥とは名ばかりで機能していないものもあるように基本的には王の意志に左右されることが多い。
とにかくそれらの文句を声に出せば反応が返ってくる。また余計に面倒になるだけだと玲は考えて黙ったのだ。
そんな玲を目にして燈弥は口元に弧を描く。
そう、これだ。この目、この態度。だから面白い。
彼の実験には現在でも数年前から変わらず受け持っている被験者が数十人いる。
強くなりたくて、親の命令に従って、闇で生き残るために。理由は様々だが、そういった明確な目的を持った者たちは、自分の実験にも最後の最後までこういった目を向けてくる 。
しかし彼女の場合は、純粋に彼女の異能に興味を持った自分が話を持ちかけたのだ。 そういった能力者は今までにも数人いたが、彼らの多くは自分の実験で心を壊してしま う。
しかし彼女は違う。いつまでたってもあの反抗的な目つきを変えることはなく、自分に屈しない。そんな者は初めてだ。
玲の苛立ち紛れの声を聞いて、燈弥は
「 アハハハハッ!!いやいや、そう言うなよ―――― 」
そんな気さくな声で、近づいてくる玲に燈弥は返す。彼女が通りすぎる並んだ瞬間に、 右手で玲の左襟首を掴むと、肘から下で玲の鎖骨を押さえ込むように、無理やり壁に押し付ける。
そして、変わらない笑みのまま少しだけ冷たい瞳で続ける。
「 俺、機嫌悪いつったよな?面倒くせェのが嫌なら来いよ 」
気の強い相手、今までの接し方、そんなものを全て気にしない、言ってしまえば自由奔放で絶対主義的な行動。
身長が同じなのにも関わらず、ここまでの力の差が出るということは、やはり男女の差なのか、それとも不意を付いたからなのか。
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