リョナ
【嗜虐王】 【至高の傭兵】 【引き摺る御手】
リョナ・センモン
魔神暦197‐315
大陸ハンター連盟発行、歴代賞金首大全 懸賞金額ランキングより
【第1位 嗜虐王 リョナ・センモン 金星貨294974枚】(うち100000枚はリョナ自らが掛けた懸賞金である)
◇◇◇◇◇
5歳の時、生まれ故郷であるライジ帝国モール子爵領にあったディッセント市属の開拓村が襲撃される。
リョナ以外の住民は皆死亡し、襲撃者もまた全滅した。
この時リョナは無意識で魔法を行使。
リョナの他に操る者のいない【力魔法】が産まれた瞬間であった。
しかし当時それを知るものは居らず、リョナは目覚めたばかりの魔法を使い両親を始め全ての住人の地下墓を作り、襲撃者の装備を手に入れ最寄りの都市であるディッセント市に向かった。
そこで国を跨ぐ大事件【お花畑の乱】を知り、故郷を襲った者達、隣国の軍人の言い分たる花畑の聖女の捜索の意味を理解した。
ディッセントにはそれから1年程滞在。
6歳になる頃には力魔法を使い熟し、モール子爵家の家人から認可を受け、故郷の村に屋敷を建て、ディッセントから連れ出した食うにも困るような子供達と傭兵団【
……彼女の人らしさの伺えるエピソードはここまでである。
傭兵団の初仕事で帝国伯爵ナバンガヒ家に雇用され、親交のあったモール子爵家を族滅。
ハンター連盟の英雄、【竜脚】ブロントを殺害。
魔神教の聖典派の聖女2人の誘拐。
オルト王国属国ウノロス王国のクーデター教唆。
バルカン監獄解放。
【掌】の立ち上げからおよそ五年。
依頼により幾多の勢力に力を貸しつつ、それ以上の国や組織を敵に回した。
しかし掌は一組織に囚われることなく、金銭と時間的融通の二点のみに置いて依頼を取捨していた。
そのため一月前に暗殺した将軍のいる軍の作戦本部に依頼を受け堂々と現れた。かつての雇用主を暗殺する為に。
なんてことは多々ある話だ。
しかし彼女等、【掌】は傭兵業において業務上得られた依頼主の情報を漏らすことはなく、契約期間中に業務を放棄することはその団歴に置いて一度もなく、当時では非常に珍しいプロフェッショナル精神を有していたとされる。
そして彼女がその名を大陸全土に知らしめた大戦。
【三魔王乱戦】後の【五つ巴残虐戦】が魔神暦209年、彼女が当時12歳の時に勃発。
ここではその戦乱について、リョナと魔王センチピートの手記から明かされた詳細についても綴ることとする。
オズガル神聖国はかつて一人の少女とその盟友たる王獣、樹木人、白地金人形が共に築き上げた国家である。
しかし少女が姿を隠し80年、王獣、樹木人も既になく、最後に残った白地金人形も遂に動かなくなった。
その偉大なる人形の聖遺骸とオズガル神聖国に受け継がれる特殊な魔術式を手中に収めんと魔の手を伸ばすのは当時覇権を争っていた魔神系譜の三人の王。
百蟲の魔王センチピート、五首の魔王ペンタトロス、夜襲の魔王ナイトジャー。
彼等が互いを牽制しながらオズガルに侵攻。
魔王がオズガルの力を得る。それを阻止するために時の二大国の勢力も参戦。
レイジ帝国ではオズガル近くの領地を担っていた皇太子、【隼速の太陽王】ホルスローが。
ポモドロティ帝国では神光教の守護者にして史上初めて20代で聖人認定された【至光帝】ウェルガンティアが。
それぞれの思惑もありながらも共に軍勢を率い、三魔王と二帝による五つ巴の戦となる。
そしてこれを残虐戦と呼ばれる泥沼の血戦に導いたのが当時、その特異な魔法から【引き摺る御手】と呼ばれていたリョナであった。
彼女の傭兵団はこの時一つの依頼を受けた。
依頼主はポモドロティ帝国の女帝ウェルガンティア。内容は、『五首の魔王ペンタトロスの殺害、及び同下勢力の撃滅』であった。
ウェルガンティアはリョナを前金として金星貨500枚、達成報酬として金星貨を同額の500枚、その上戦後ペンタトロスの勢力圏をリョナが支配した場合の全面的な協力を約束し雇用。
至光帝はリョナと契約がなされた時点でこれを公布。
続いてリョナも声明を出して、ペンタトロス陣営に彼女の【掌】を嗾けた。
ペンタトロスは縁のあった【気分屋】カゴメ・ソウインに対処を請うが、両者の間で何らかの軋轢が生じてカゴメはペンタトロスの勢力から離脱した。
戦後、魔王センチピートはカゴメ当人にこの時の行動の理由を尋ねた。
『気分が乗らない時に、多少酒の席で仲良くなった程度の奴が上から目線で物を云った。二ヶ月程行動を共にしたが奴に俺が考える良き統治者としての素質を見つけることが出来なかった。私の連れを嘲った。それだけだ』
そのように返したという。
しかしリョナの手記では今戦時の彼に置いてこのように記されている。(以降リョナの手記より一部抜粋)
『真龍から使者が来るという。歓迎の為、隊長連中を酒をだしに呼び戻して出迎える。現れたのは気分屋ことカゴメ・ソウインであった。成程、確かに真龍達との縁はあろう。そして此度の麗しき戦争に置いて彼は犬っころ(ペンタトロス)陣営でありながら全ての陣地に現れ王達を見定めていたように思えた。一体何が目的だ、この女泣かせは。もしや私の美貌に参ってしまったのだろうか。フム、モテる女も辛いものだな』
『カゴメは私の作戦への協力を申し出た。対価は私達の技術。特に対魔術、魔法であった。こちらの技術を尊重し、どこまで教えるのも自由。働きに見合うだけと申す。なかなかいい男じゃないか。弱みをふたつも抱える考え無しかと思ったが、なるほど悪くないじゃないか。うちの兵にしちゃあ、かわいい子が過ぎるが、多少なら教師の真似事でもしてみるかね』
『カゴメ・ソウイン。一体誰だい【気分屋】なんて銘をつけたのは。普段はその行動にも声色にも心拍すらも制御して感情を見せないが、戦場じゃあコロコロ変わりやがる。怒り、泣き、嗤う。私だったらこう名付けるね。【激情の呪い】。でも成程ね、ようやっと解ったよ。彼は探しているんだ。自らが王の器でないからこそ。自分よりも強く賢く、彼の弱みを任せられる。そんな王をさ。いやぁ、なかなかの高望みじゃないか。これは私が成ってあげるしかないかな。彼の王に』
『……でも、私の国策だと彼の望む平穏とは無縁か。残念だよ、とてもね。あぁ、莫迦真面目なカゴメ。いつか破滅する君よ――』
残虐戦の狼煙はカゴメを引き入たリョナによるペンタトロスの陣地に夜襲であった。ペンタトロスはカゴメの術の前に膝を着き、その魔犬の力を振るうことさえ叶わなかったという。
その後リョナは掌の副団長ドエス・マスカレードにペンタトロスの領地の制圧を指示。
自身はカゴメと並び立ち、五つ巴形はまだ残された。
依頼主出あったポモドロティの軍勢にも襲い掛かる。
その時のリョナの言葉をポモドロティ遠征軍次席指揮官ワーコルド侯爵が記録している。
『え、この状況で何故君たちに刃を向けるかって?
何を言っているんだい、ここは私達の大好きな麗しの戦場だよ。
私の指揮下に無い奴らは、みーんな、この美人なお姉さんの私にぃ、殺されたいってことだろう。
いやいや、せめてこの戦場並に麗しき皇帝陛下からお友達料金を貰っていれば話は別かもしれないがね。
さぁ覚悟ある者も無い者も、ようこそ麗しの馨しき戦場へ。
さあ、殺そうじゃないか。殺されようじゃないか。流した血と啜った血だけが、その全てを肯定してくれる。まるで都合の良き友人かのように。
いざ行け、征け。爆ぜろ、燃やせ。殺せ、殺すのだ。
人生と云う名の枯れ地に血の雨を降らせろ。
きっと私みたいに、それはそれは綺麗な華が咲くぞ!
ははっ、羨ましい限りじゃないかっ!』
因みにリョナの手記によるとこれは『報酬と雇用と云う最低限の道理すらわきまえない連中に優しく教示してやった』そうだ。
一気に煩雑、泥沼化する戦闘に終止符を打つため、この大戦の切っ掛けたる二人の魔王は停戦、少なくともリョナの干渉が入らないようにやり直すことを協議することになる。
しかし締結の最終段階の会議にリョナが強襲。
魔王センチピートは徹底的にこれに抵抗するも捕虜となった。
一方、魔王ナイトジャーは二名の雇用戦力と一人の腹心を残し逃亡。
腹心は殺され、雇用戦力は数合の戦闘の後自ら投降した。
こうして伝説的殺し屋【黒犬】と、後に【雷神】と呼ばれる魔導士ミカは初めての敗北を喫した。
この交戦に置いて魔王センチピートはこう記している。
『気分屋はただただ強い。私は奴を呪術師だと思っていた。自然と生物の畏れを奏でるものであると。だがやつは私の攻殻を素手で掴んで止め、防殼を貫手で容易く貫いた。冷徹な狩人が如く、そこになんの感慨もなく。ただ淡々に。
だがリョナ・センモンは違う。笑っていた、嗤っていた。脚に風穴を空けても、仲間の腕が消し飛ぼうと。、よいよい、つぎは何をしてくれる等と
この戦で命を落とした者は40万人、リョナが用いた魔力粒子による汚染者は15万人。
元々戦場となったオズガル神聖国の人口は30万程。
遺体の処理もままならず戦場には幼子が戯れに捻じ曲げ、壊したような人形のような形の人体が散乱していたという。
オズガル神聖国は滅び、その国土は怨嗟と絶望に塗れたアンデッドの発生地となった。
また聖遺骸と魔術式は戦場の混乱により行方不明となったが、旧ペンタトロスの領地にしてリョナの新たな拠点、傭兵永世中立国家にて聖遺骸に酷似した自立人形の目撃情報があったことをここに記す。
史上最も苛烈な王、史上最高のキルスコアを誇る傭兵、人類守護を担う英雄を狩るハンター連盟の怨敵としてこの時代最も大陸全土で有名な人物であった。
部下のドエスと同様に、現在のリョナという言葉の由来でもある。
異世界にて生きる者 櫻城 那奈菜 @mandrake
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