第11話 行方
千鳥が護衛依頼のために旧都庁へ向かうまでの間、環と雪乃は彼の行方を追っていた。
「出ていってから、そんなに時間が経っていないはずなのに行方が分からないなんて……」
「お兄ちゃん、どこに行ったのよ……」
少し探して、彼の足取りがつかめなくなった時点で、二人は他のメンバーや魅亜たちにも探すのを手伝ってもらっていたが、めぼしい情報はなかった。
「もしかして、オモテの世界に行ったのかも……」
「そんな! 私たち、AIロボットに追われていたんですよ?!」
「……ううん。おそらく、千鳥は平気だったはずよ。あの時もAIロボットは雪乃を狙っていて、千鳥はそれを妨害していたから『処分』されようとしていたからね」
環の指摘が正しいことに気づいた雪乃の顔が青くなる。
「まさか、本当に表の世界に……」
環ですら、当初はAIロボットの狙いが雪乃であることに気づいていたのである。
千鳥が、そのことに気づいていないとは考えにくかった。
「その可能性が高いわね。でも、千鳥もウラのメンバーとして、しばらく活動していたはず。本来ならAIに目を付けられてもおかしくないはずなんだけど……」
だが、環の能力も踏まえて考えると、ここまで探しても何一つ痕跡が追えないことは異常だと言えた。
何故なら、今の環はこれ以上ないほどに千鳥の行方を知って、彼の誤解を解きたいと願っていたからである。
もちろん環の願いは万能ではない。
願っても、それに沿った行動が伴わなければ効果を発揮しないのだが、今は自分だけでなく、他のメンバーや魅亜にまで捜索を協力してもらっているのである。
中でも魅亜のチームのメンバーでもある、八尋鏡子の力があれば見つけられる可能性が極めて高い。
彼女は日本古来から伝わる三種の神器の一つ八咫鏡の精霊である。
その力は未来の真実を見通すと言われており、千鳥と雪乃を助けた時も彼女の予言により、二人の危機に居合わせた結果である。
今回も、彼の行方に関して予言が得られないかと思ったのだが……。
「あの人の能力って、本人の意思で使っているわけじゃないのよね……」
鏡子の予言の能力は受動型である。
とはいえ、自分に対して影響力の大きい事象ほど現れてくる可能性が高い。
具体的には鏡子自身やウラの世界に関わるものとなる。
二人を助けたことも、ウラの世界に関わることだと思われるが、今のところは具体的な変化はないように思えた。
今のところ、魅亜からの連絡がないことから、鏡子の予言にも引っかかっていないと思われた。
それが余計に環の心をざわめかせる。
「もしかして、千鳥は予言のついでだった……?」
思わずそうつぶやいてしまうほど、最悪な結果を想像する。
それは、ウラの世界にとって重要なのは雪乃の存在であり、千鳥はそのおまけであり、それは千鳥の存在は重要でないことを意味している。
三種の神器である鏡子の力は極めて強力である一方で、極めて公平である。
環がいくら千鳥の存在を大きく見ていたとしても、ウラの世界への影響がなければ予言には絶対に現れない。
いまだに連絡がこないことが、世界が千鳥を、そして環の心を見捨ててしまったかのような想いに囚われてしまう。
そしてすぐに、その想いを振り切るかのように首を思いっきり横に振る。
「私にとって、千鳥は大事な人。たとえ世界から見放されたとしても……私は絶対にあきらめない!」
しかしウラの世界で、ここまで探しても痕跡が見つからない以上、千鳥がオモテの世界に行ったのは間違いないと思われた。
しかし、妖怪である環にとって、オモテの世界は極めて危険な場所である。
そう覚悟を決めようとした時、環の携帯から着信音が鳴り響いた。
「魅亜からだ!」
彼女からの着信があったということは、鏡子さんの予言に何が出てきた可能性がある。
私は期待しながら通話ボタンを押す。
「あ、環? そっちの様子はどう?」
「うーん、相変わらず、何の情報もないね。ちょっと危ないけど、オモテの世界に探しに行こうかと思っていたところ。そっちは何かわかった?」
「うん、わかったんだけど……。環にとっては最悪の話になるかも」
魅亜の言う最悪という言葉に、環は自分が考えうる最悪を想定して心が痛んだ。
「最悪って、もしかして、千鳥はもう……?!」
「あぁ、そこまで最悪ではないわね。千鳥の場所が分かったの、オモテの世界の旧都庁。そこの最上階よ」
「それって、地域統括AIの本体があるところ?」
「そうそう、そこよ。でも……」
「ありがとう! すぐに私は向かうわ。魅亜も他の人への連絡をよろしく!」
環は一筋の希望が見えたことで、居ても立ってもいられなくなり急いで彼女にお礼を述べると通話を切って、ゲートへと向かう。
「環は行かない方が……あっ」
通話が切れる直前に魅亜が何かを言っていたようだが、高揚していた環には届かなった。
次の更新予定
毎日 20:05 予定は変更される可能性があります
あやかし×ディストピア ケロ王 @naonaox1126
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あやかし×ディストピアの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます