第0話 プロローグ(裏)

 遠野という表札が見えたところでスマホのインカメでチェック。髪よし、服よし、笑顔よし。胸に手を当て一度深呼吸をしてチャイムを鳴らす。


「はーい……おはよう萌ちゃん、今日も可愛いわね」


「おはようございます、お褒めいただき嬉しいです!」


「ちょっと待ってね、多分そろそろ……」


 そう言い終わる前に上から階段を駆け下りる音が聞こえる。え?悠真、髪跳ねてるじゃん。ヤバいって。どうにか写真に収めたいがお母様の手前心を落ち着かせる。


「おはよー!悠真」


「おはよう……ごめん、母さん今日はご飯食べる時間無さそう」


「私は別に気にしてないけど、あんたお腹空かない?大丈夫?」


 早速チャンス……!こんなこともあろうかと用意してるわけよ!


「あ!私おにぎりとかカロリーメイトとか持ってきてるので何とかなると思います!」


「はぁ〜……本当に萌ちゃんいつもありがとね。このバカがちゃんと起きればいいだけの話なのに」


 いやいやむしろ私は美味しい美味しいって食べてくれるから嬉しいんですけどねと心で呟く。


「それじゃ母さん、いってきます」


「ん、気をつけて」


 ドアが閉まったのを確認してお弁当箱の中からおにぎりを取る。


「悠真、はいおにぎり」


「ありがとう、萌」


 今日作ったのはおかか味のおにぎりである。悠真が早速口に運ぶのを私は固唾を飲んで見守る。


「美味しい……」


 ヨシ!


「大袈裟だなぁ……あ!そういえばさ、悠真『FPS』始めたんでしょ?私あのゲーム得意だから、今日帰ったら教えてあげようか?」


 褒められて顔が熱いのをバレないように別の話題を振るが少し早口になってしまった。


「おお昨日から始めてさ、助かるよ……にしてもいっつも俺のやるゲーム得意だよな」


「え!?い、いやそんな事無いでしょ、あははー……」


 実を言うと毎回下調べして必死に練習してるのだが……当然秘密である。






 午後になり、次の時間は移動教室なのだが……悠真が九戸さんと話している。


「萌ー今日提出の課題やったー?」


 いやいや……北上萌、それはダメだよ。悠真はただ九戸さんと話しているだけに過ぎない。それだけの事で嫉妬は見苦しい……ってあれ、二人きりで教室向かってない!?そ、そんなに仲良かったっけ!?


「おい、聞けよ」


 あ、まずい悠真がこっち向いた……平常心の渾身の笑顔で手を振る。不思議な顔をして手を振り返され、その後九戸さんとは別々で移動していった。ふぅ……いや、私は何をしているんだ、良くないぞ良くない。


「じゃあ移動しよっか」


「萌ちゃん?聞いてた?」






 放課後になり、悠真と二人の帰り道。移動教室の件が頭から離れない……そんなことを考えているとあっという間に悠真の家についてしまう。


「じゃ、朝の約束通り……私が手取り足取り教えてあげる!コントローラーだけ家から取ってくるね」


 とりあえず朝の約束の件だ、早く家から取ってこようと歩き出そうとした所で呼び止められる。


「え?俺ん家でやるの?」


「え?私の家の方がいい?」


「いやまぁ……俺ん家でいいか」


 それって……私の部屋にそんなに来たいって事?


「十分くらいしたらまた来るね!」


 すっかり移動教室の事は忘れ元気よく走りながら、私は思う。きゃー顔が熱い……!やっぱり……好きじゃん。絶対好きじゃん私の事、胃袋まで掴まれてたじゃん!さすがに自意識過剰じゃないよね……もー悠真ったら!


 


 胸が……胸が幸せで温かい。そう、そうだよ。落ち着くんだよ北上萌。おにぎりも美味しそうに食べてくれるし、クリスマスにプレゼントもくれるし、ホワイトデーにチョコも返してくれる!


 遠野悠真は『恋人』なんだ……!

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北上萌は親友である。 アマオト @Colagumi

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