北上萌は親友である。

アマオト

第0話 プロローグ(表)

 ピンポーンという音で目が覚めると同時に絶望する。今日は朝飯抜きだな……と。俺、遠野悠真とおのゆうまは下で母さんが玄関で話している内に制服に着替え、名前を呼ばれると同時に勢いよく階段を下りていく。


「おはよー!悠真」


 彼女の名前は北上萌きたかみもえ、昔からの親友だ。朝から元気な彼女の声に小さく「おはよう」と返しながら、母さんに朝飯は食べないで行くよと謝る。


「私は別に気にしてないけど、あんたお腹空かない?大丈夫?」


「あ!私おにぎりとかカロリーメイトとか持ってきてるので何とかなると思います!」


「はぁ〜……本当に萌ちゃんいつもありがとね。このバカがちゃんと起きればいいだけの話なのに」


 返す言葉も無いのでさっさと家を出よう。


「それじゃ母さん、いってきます」


「ん、気をつけて」


 ドアを閉めて少し歩いた所でふぅ……とため息を一つ吐く。


「悠真、はいおにぎり」


「ありがとう、萌」


 おにぎりを受け取り早速口に運ぶ。今日はおかかだ、美味しい。語彙力が無いので上手く言い表せないがこう……塩加減がとても好みなのだ。


「美味しい……」


「大袈裟だなぁ……あ!そういえばさ、悠真『FPS』始めたんでしょ?私あのゲーム得意だから、今日帰ったら教えてあげようか?」


「おお昨日から始めてさ、助かるよ……にしてもいっつも俺のやるゲーム得意だよな」


「え!?い、いやそんな事無いでしょ、あははー……」


 そう、毎回こうなのだ。この前もゲームセンターの音ゲーを始めたのだが、萌は既に最高レートのランクだった。しかし当の本人は特にゲーマーじゃないよと言う。才能なのかなんなのか……たまには俺が教えてやりたいものである。






 午後になり、移動教室をしようと廊下に出ると同じクラスの女子生徒とぶつかってしまった。


「あ、悪い。大丈夫か?」


「ああ……問題ない、こちらこそ不注意だった。済まなかった」


 メガネをかけた彼女の名前は確か……九戸美紀くのへみきだったはず。行き先が同じなので隣を歩きながら向かう。


「時に遠野、唐突だが……北上と仲が良いのだな」


「え?」


 少し気まずそうに話す九戸の目線を追うと萌が廊下で友達と話している。俺の目線に気づいたのかふりふりと手を振っていた。


「いや……何でもない。忘れてくれ」


「お、おう」


 その後少しだけ九戸の歩くスピードが速くなった気がした。






 放課後になり、萌と二人の帰り道。なんでもない話をしているとあっという間に俺の家の前に着いた。


「じゃ、朝の約束通り……私が手取り足取り教えてあげる!コントローラーだけ家から取ってくるね」


「え?俺ん家でやるの?」


「え?私の家の方がいい?」


「いやまぁ……俺ん家でいいか」


 家で遊ぶとか昔からよくあるしな。今更か。


「十分くらいしたらまた来るね!」


 そう言って走っていく萌の背中を見ながら俺は思う。


 いや……好きじゃん。絶対好きじゃん俺の事、胃袋まで掴まれてるじゃん。さすがに自意識過剰じゃないよな……どういう事なの?困ってる俺の顔を見るのが好きなの?


 しかしそれを否定する材料が俺にはあるのだ……思い出したくもない過去。


『萌ってもしかして俺の事……異性として……す、好きだったりするのか?』


『……え?何言ってるの、冗談やめてよ』


「うおお……っ!!!」


 胸が……っ!胸が締め付けられる超恥ずかしい……っ!そう、有り得ないんだ。落ち着くんだ遠野悠真。例えおにぎりを作ってくれても、クリスマスにプレゼントをくれても、バレンタインにチョコを作ってくれても!


 北上萌は『親友』なんだ……!

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