10代の暴動

芳岡 海

10代の暴動

 音というのは空気がふるえているのだと、弦を眺めているとよくわかった。音の波紋が部屋を広がる。理科の実験で見た音叉。あれは小学校の何年生だったか。たぶん楽しかっただろうな、と思ったところで考えるのをやめた。

 耕平の指がベースの弦をはじくと、振動する弦は残像みたいになる。指の腹をあてて、ぴたとそれを止める。そしてまたはじく。手が大きい、と僕は思う。大人の手だ。いろんなものに動じることのなさそうな厚い手。

 音は激しくなったりふっと止まったり、僕のことをまるで気にせずに空気をふるわせる。僕はそれが居心地いい。すべてを許されている気がする。


 耕平が手を止め、ヘッドホンを外した。集中していた息を大きく吐き出す。

「もう終わりなの」

 寝転んだまま聞く。

「ん、飽きた」

 耕平はそれだけ答え、立ち上がってベースを壁際のスタンドに立てかけた。隣にはいつも弾くギターも並んでいる。

「じゃ、昨日流してた曲かけてよ」

「Sonic Youth? お前好み渋いよなあ」

 耕平はそう言うだけで僕をあしらう。まいいや、と読みかけの漫画のページに視線を戻すと、コーラ飲む? と耕平が聞く。

「飲む」

 読みながら声だけ元気に答えた。廊下を歩いていく耕平の足音がして、冷蔵庫を開ける音が聞こえた。


 伯父さんも伯母さんも仕事だから家には二人しかいない。先週なんて耕平もいなかった。俺バイト行くから鍵閉めといて、と僕に鍵を渡して出かけてしまった。鍵は玄関の郵便受けに入れた。耕平が帰る時間にはもう伯父さんも伯母さんも帰ってきているから鍵がなくても大丈夫なのだけど、僕が鍵を持って帰ってしまってもしょうがないから。いくら僕が耕平の従兄弟で、近所に住んでいて、頻繁に家に来るからといっても。


 耕平はしばらくコーラを飲むとベースの練習を再開した。

 僕はコーラの缶を傍に置いて漫画を読み進める。もう少しで最終巻まで読み終わりそう。読み終わってしまう、と思う。読み終わったらどうしよう。前に読んだのを読み直せばいい。好きな漫画は何度読んだっていいのだ、という顔をして来ればいい。

 本当は耕平も気づいているだろう。僕が耕平の部屋にある漫画を読みたくて遊びに来ている、というふりをしていることは。従兄弟といっても彼は大人だから。

 耕平は最初からずっと大人だ。小学一年生の僕から見たら中学二年の耕平は大人そのものだったし、僕が中学二年になった今見ても大学三年になった耕平はやっぱりずっと大人だ。


 うとうとしていたところでチャイムが鳴って玄関で物音がした。顔を上げると大知が部屋に顔を覗かせた。鍵が開いていることを知っていて入ってくる。

「よ。啓太も来てたの」

 耕平に片手で挨拶をしてから大知は僕に言った。うん、来てた。と答えて僕は漫画のページを開き直す。

 耕平は大知にちょっと返事をしただけでベースに集中している。大知の方も腰を下ろして勝手に寛いでいる。彼が何か音楽を流すかと期待したけど、今日の大知はギターの気分だったらしく、置いてある耕平のギターを戯れに手に取った。


 大知が耕平の部屋に来るのはいつものことだ。僕が来るずっと前から。二人はずっとつるんでいる。同じ高校で、一緒にギターを上達させて、CDや漫画も山ほど貸し借りして、それぞれ大学生になった今も一緒にバンドやったりして会う頻度は変わらない。

 僕が小学生で二人が高校生の頃はよく遊んでもらっていた。歳が七個も離れていると友達という感じではなかったはずだが、僕は人見知りをしない上に年上に敬語を使うことを覚えていない子供で、最初から友達に話すみたいに大知と喋っていた。僕は誰とでも話せる子供だった。

 

 僕は誰とでも話せる奴だった。小学生のときも、中一のときも。

 中二になってからの違和感はひとつひとつを見れば些細なことばかりだった。冗談のつもりだったことがそう受け取られなかったとか、その逆だとか。会話の中で笑いの起こるタイミングとか。顔ぶれ、雑談、何もかも。

 僕は誰とでも話せた。気が合わない相手とだって、話をすることくらいはできる。

 ひとつの違和感は他の違和感を呼び、ひとつの引っ掛かりは他の引っ掛かりにつながった。

 僕は誰とでも話せたはずだった。誰と話しても、誰とも話していないような虚しさが付き纏うようになった。


 二学期のある日。本当にある日としか呼べない平凡なある日だ。猛暑でも寒波でもなく、テスト前でも、修学旅行前日でもない、謎の転校生の噂が校内を駆け巡りもしない、月曜日だったかもしれないし金曜日だったかもしれないある日の下校時間。

 僕は、このクラスには一緒に帰る相手がいないということに急に気がついた。それは突然世界の真理に思い至ったような気づき方だった。その瞬間、自分が昨日までは誰と帰っていたのか思い出せなくなった。その日の昼休みに誰と喋ったかも、教室移動のときに誰と理科室に向かったかも、体育で誰と二人一組を作ったかもわからなくなった。誰もいなかった。


 最初の一週間、まず僕は気づかないふりをする方法をとった。自分は一番しっくりする過ごし方をしており、それはたまたま他の人とは違うかもしれないだけだと、誰より自分に向けて示した。休み時間の笑い声は全て自分に関係がないのだと考えた。

 次の一週間は、さてどうしようかと思った

 全ての休み時間を勉強に充てるのはどうだろうか。

 ずっと本を読んで時間をつぶすのもいいかもしれない。家にある埃をかぶって日に焼けた文庫本なんて、こういう場合にはちょうどいいだろう。なるべくつまらない方がいい。

 休み時間のあいだ全部寝たっていいだろう。どうせ暇なら。

 体育は見学する。それなら二人一組を作る相手を探す必要はない。一週間や二週間くらいの見学は体調不良の範囲だ。

 一週間ずつを使って、世界の真理を地道に確かめるように僕はそれらの方法をやった。


 次の一週間が始まるというある朝(本当にある朝としか呼べないような平凡なある朝)、次の案を用意していないことを思い出した僕は、登校中の交差点を反対に曲がった。

 そのまま細い路地を何度か曲がり、広くも狭くもない道をしばらく進んだ。いつも歩く道をたまたま変えただけで深い意味はないということにした。どこかに向かっているのではなく、僕はただ足を動かしただけだ。その結果がいつもと違うことになるかもしれないけれど、それはそれから考えればいい。


 学校というのは生徒が全員友達であることを前提に回っているのだと、その数週間で知った。集会の並び方とか、提出物の出し方、授業の準備、行事の係だとかのほとんどが、実は教師の指示だけではなく生徒同士の繋がりで回っていた。曖昧なあちこちが「あれってどうするの」「こうらしいよ」というので繋げられていた。端的に言って、一人は何よりまず不便だった。

 ガードレールに座るのは安定が悪かったが、教室の席と似たようなものだった。結構歩いてきたつもりで結局知っている道にいた。道は静かだった。顔を上げると少し先の一軒家のベランダで忙しそうに布団を干す人が見えた。乗用車が一台通り抜けていった。平日の昼間は子供を学校へ放り込んでおくことで、こうして社会は回っているのだと僕は知った。

「啓太?」

 急に呼ばれて心臓が跳ねた。

 耕平だった。自分が耕平の家の近所まで来ていたことにそこで気づいた。さっきまでただ足を動かしていただけだったから。

 近所に住む従兄弟だからよそいきも普段着も見慣れていたが、グレーのスウェットにパーカーという耕平の姿は明らかに部屋着で、コンビニの袋を提げていた。子供を学校へ放り込んで回る社会の一部にも、学校へ放り込まれる子供にも見えなかった。

「何してんの」

 僕が先にそう聞いたが、それ聞くの俺だろ、と耕平は言って笑った。


「啓太もう二年生だっけかあ。そういや入学式の後、制服見せにうちに来てくれたよね。あんとき俺金髪だったから、不良の兄と優等生の弟みたいになっててウケたな」

 何してるのとは聞かれなかった。耕平はまるで元から僕と待ち合わせをしていたようにそのまま僕を連れて家に帰り、勝手に一人で喋った。

 一、二年生で単位を十分に履った耕平は余裕があるらしい。三年生の今年、月曜日に履る授業はゼロ、火曜は四限だけ、水木金曜にいくつか、という贅沢な時間割を組んでいるのだった。時間割を自分で組むなんて。

「朝ご飯食った?」

 耕平が聞く。起きたら家になんもなくてさ、コンビニ行ってたとこ。と、僕が頷く間にまた話を続ける。

 耕平の部屋に来るのは久しぶりだった。本棚の漫画が増えていた。読んでいーよ。眺めている僕に、コンビニのジャムパンをほおばりながら耕平が言った。

 午前中いっぱい僕は漫画を読んだ。耕平は部屋で時折何か口ずさみつつギターを鳴らし、ルーズリーフに何か殴り書きしたりして、遊びというよりは作業をしているらしかった。

「月曜っていつもこんなことしてるの?」

 ギターを抱える耕平の背中に訊ねた。んー、まあ。伸びをしながら耕平は言う。

「バイトもバンド練も夕方からだし、ゼミは月曜はないから学校に用ないし。だいたいギター弾いてるね」

「また漫画読みに来ていい?」

 どうしても続きが読みたいのだと聞こえるよう、単行本のページを見つめたまま聞いた。いいよー。あっさりと耕平は言った。


 翌週は続けて月火と来た。そうするともう次の週は、あえて何かを言う必要のない習慣と呼べるものができた。耕平はギターかベースを練習して、たまに音楽をかけて、僕は漫画を読んで、たまに大知が来た。

 おかしな話だけど、他の曜日に自分が何をしていたか思い出せなかった。思い出せないなら行っても行かなくても同じだなと思うようになった。

 でも、そんな時間割を僕が組んだわけではない。


 日ってこんなふうに暮れていくんだなと思った。

 街灯がいつの間にか光り始め、いつの間にか車のヘッドライトが目立っていた。

 ガードレールにお尻を引っかけるようにして座って足を投げ出していた。背後で車道の車の音を聞いていた。仕事帰りらしき人が僕の前を通り過ぎる。そのたびに、自分はちゃんと用があってここにいるのだと見えるようにした。待っている人を探すふりをしたり。でも誰もこちらを気にしなかった。

 何でもないようにしていた。

 学校から家までの道をどう曲がってどこまで行っても、通学路の先でしかなかった。それでいい。ただ僕は足を動かしただけでどこかに行きたかったわけじゃない。

 僕は何をしたかったわけでもない。

 制服って十月後半の夜まで過ごすようにはできていないんだなと思った。あと一台車が通ったら帰ろう。いや、あと三台。もう少し。

「啓太」

 振り向くと耕平だった。なぜか自転車に乗っていた。なんでいるんだ。ここは耕平の家の近所じゃない。まあ大学生の行動範囲から言えば近所だろうけど、駅の帰りにもコンビニの帰りにも通りかかるところではない。

 耕平は僕の前で停まると何も言わず、しばらくスマホをいじる。まるで暇すぎて用もないのに待ち合わせてしまった夏休み中の友達同士だ。それから、「じゃ、ちょっと出かけるか」と言って、自転車の後ろに乗るよう僕に顎で示した。何が「じゃ」なんだ。


 別にこのまま過ごせるわけないことはわかっていた。

 だから、一週間ぶりだか二週間ぶりだかで学校に来たとき、担任の牧野先生に呼ばれて素直に職員室に出向いた。教室では誰とも話さなかったけど、職員室前で久しぶりに会った用務員のおっちゃんとちょっと喋った。お喋り好きで少々ウザがられるけど陽気なおっちゃんだった。

 職員室を覗くと牧野先生が微笑んで僕を迎えた。

「あの用務員さんと喋れるのね」

 不登校気味の生徒へ、まず雑談から入ることにしたらしくそう言う。

「よく喋るなとは思いますけど、こっちがいい反応返すと気持ちよさそうに喋ってくれますよ」

 僕はもともと誰とでも喋れるタイプだったから、誰かが「あの人苦手」という人とも話せることは今までもあった。反応がほしいんだろうなってところで上手く笑ったりリアクションすると、会話弾むんですよ。僕はそんなことを言う。先生は微笑んで聞く。人と話すのが嫌いじゃなかったことを思い出す。牧野先生はマイペースだけど厳しいことは言わないから、牧野ちゃんなんて呼ばれて生徒からは好かれていた。学校行かなくて申し訳ないなと、牧野ちゃんの顔を見ていると少し思った。

「あなたはそういうの上手いのよね」

 先生はまたちょっと微笑んで頷く。それから、僕に口をひらいた。

「でもね。そうやって、こう返せばいい、こう反応してみせればいいって考えてることって、人には案外バレるものなのよ」

 牧野先生は微笑んで僕に話した。

「啓太くんのそういう、上手くやればいいっていう調子、仲良くなりたいと思ってる仲間からしたらどう映るか考えたことはある? 会話はキャッチボールって言うけど、キャッチするのはボールじゃなくて心なのよ」

 先生は小さい子に話すようにゆっくりと言った。なんでそんなに機械的に口角を上げているんだろうと思ったら背筋がすうっとした。生徒に優しく諭す教師をやっているところなのだろう、と遠いところで思った。


 馬鹿馬鹿しいなーというだけの気分だった。

 僕は何をしたかったんだろう。何かしたいわけじゃなかったんだから、何も期待することもがっかりすることもないのに。なんか余計なことをしたと思って馬鹿馬鹿しかった。

 黙って耕平の自転車の後ろに揺られていた。自転車は駅の駐輪場に入っていく。それを停めると耕平は駅に向かい、Suica持ってる? と僕に訊ね、無いと言うと「なんでだよ」とキレ気味に切符を買ってくれた。だって学校帰りだし。

 数駅乗って降りた。説明無しにずんずん進んでいく耕平の後をついていった。学校もこんなふうに誰かがずんずん進めて勝手に過ぎればいいのにと思った。


 駅の繁華街の先を進み、耕平はビルの地下の階段を降りていく。階段の壁にはいろんなチラシがべたべた貼られていた。細長い灰皿が隅に置かれていて、吸い殻の詰まったその傍らに缶ビールの空き缶があった。

 絶対に中学生が制服で来るべきところではない。学校に行かないやつはこういうところが相応しいとでもいうのか。ねえ、と堪らず後ろから声をかけると、階段の先で耕平はこちらを見上げ、ニヤッと笑った。

「叔母さんにはLINEしてるから大丈夫だよ。啓太回収しました。寄り道してから送り届けます、って」

「寄り道って」

 ちょっと呆れて答えた。同時に自分に呆れた。耕平はわかっている。僕が登校するのは両親が仕事に出かけた後だったけど、たぶん耕平の部屋にいたことだって知られていたのだ。それで、僕の帰りが遅いからそっちに来てない? って母さんが耕平に連絡して、耕平が自転車で探して、きっとそんなところだ。


 そこはライブハウスだった。思ったより広かった。秘密の地下室みたいなのかと思って入ったら学校の小ホールくらいあって、逆に落ち着かない。暗い。天井が高い。奥に見えるステージにドラムセットや大きなスピーカーが置かれていて、耕平が持っているのと似たギターが立てかけられていた。混んだ人の中をぐるりと見回すと、暗い中に知っている顔が見えた。

「えっお前、啓太連れてきたの」

 僕を見て大知が驚いた顔で耕平に言った。

「こいつはオルタナとシューゲイザー好きの見込みがある」

「お前の誘導だろ」

「でもSonic Youthとかに反応してたぜ」

 二人が話す。他にも知り合いがいるらしく、会話に人が加わる。自分を変に珍しがられたり気づかわれるのも嫌で、僕はステージの方が気になるふりをして目線を逸らした。耕平はそれ以上構ってこなかったが、ライブが始まる直前に「耳悪くなるから」とワイヤレスイヤホンを僕の耳にはめてきた。自分が連れてきたくせに。


 音というのは空気がふるえているのだと、始まった瞬間にわかった。

 ステージの両脇にある大きなスピーカーから音の波紋が広がり、僕はぶわっと吹き飛ばされた。ように感じた。理科の実験の音叉を妙に冷静に思い出す自分がいた。

「こういう曲好きでしょ」

 耕平が耳元で叫んだ。耳元で叫ばないと聞こえないのだ。

「わかんない」

 僕も叫び返した。叫ぶなんていつぶりだろうと思った。肺とか声帯とか鼓膜が内側からふるえた。

「かっこいいんだよ。俺の好きなバンド。絶対啓太も好きだと思う」

 耕平がまだ耳元で叫ぶ。顔を見ると楽しそうに笑ってくる。一緒に公園で遊んだ大昔と同じ顔だった。

 ステージに目を戻した。別に僕はそこまで好きかわかんないよ、と遠くの方から冷静に考えている自分がいて、それはそのまま遠のいてしまった。ステージの人間も周りの観客も、みんな見たいものしか見ていなかった。

 周りがわっと歓声をあげるのにつられて思わず叫んだ。隣の耕平が僕を見て嬉しそうにした。

 叫ぶと体の内側がふるえる。自分の周りを固めていたものが剥がれていって、生身の自分だけになっていくような気がした。叫んでも簡単に周りにかき消されてしまった。ならもっとやっていいんだと思った。

 ふるえたのは僕の感情だった。

 気づかないふりをして、なるべく動かないようにじっと保っていた感情が、音にふるえていた。

 クラスに友達がいなかった。不便とか退屈とかじゃなくて、本当は惨めで悲しくて寂しかった。学校に行きたくなかった。学校に行きたくない自分を認めたくなかった。行けないんじゃなくて行かないんだと思おうとしていた。先生に腹が立った。なんであんなふうに言われなきゃいけないんだと思った。あっちこそ俺に上手いこと言わせて納得させて、上手くやれたと思ってるんだろうと思った。悔しかった。言われたことは正しいんだろうとも思った。でも自分を正当化したかった。けどそんなことしたくなかった。

 音に肩をがっちり掴まれて、なあ! って揺さぶられているみたいだ。

 うるせえな! 僕には居場所がなかった。友達がいない奴だと耕平に思われたくなかった。耕平みたいになりたかった。自分でやりたいことやって行きたい場所に行きたかった。


 涙がぼろぼろ出ていたことに終わってから気づいた。

 耕平がそれを見て爆笑して、僕の頭をぐしゃぐしゃやった。酒飲ませたのかと大知に言われて、「まさか!」と慌てて否定する。耕平の他の友人たちにも見られていて申し訳なかったけど、涙はしばらく止まらなかった。でも誰も変な目で見てこなかった。さすがに泣いてる人はいなかったみたいだけど、みんな笑ったり大声で喋ったり、感情がふるえた後の顔をしていた。

「啓太って昔の耕平に似てるな」

 大知が耕平に言った。

「どこがだよ」

「耕平もライブで感極まって泣いたことあったじゃん。泣いてるくせに、別にって意地張ってるところも同じ」

 にやにやする大知を、耕平は仲の良い同士でしかできない邪険さであしらう。それから、しょうがねーなって顔で僕を見る。

「楽しかった?」

「うん」

 なんにも考えずに即答した。

「最後の曲が好きだった」

 耕平と大知が同時に反応して笑った。

「あれカバー曲だよ。Sonic YouthのTeen age riotって曲」

「ティーンエイジライオット?」

「十代の暴動、って意味。あとでCD貸してあげる」

「聴きたい」

 素直にそう答えたら、また感情がふるえた気がした。

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