第8話 美少女後輩の本来の姿
星崎さんと別れて自宅に帰った後は、いつも通り夕飯を食べて、いつも通り入浴して、いつも通り読書をして、いつも通り寝るつもりだった。
しかし……
『良ければ明日から一緒に登校しませんか?』
俺はスマホに表示された一通の連絡に頭を抱えていた。
もちろん相手は星崎さん。
なぜこんなことが起こっているかというと、遡ること数時間前。
星崎さんと夜の公園での会話を終えた後、そのまま何事もなく家に帰る流れだと思っていたのだが……。
「そう言えば先輩、連絡先教えてくれませんか?」
と星崎さんから提案され、特に断る理由もなかったため、連絡先を交換したのだった。
しかしまさか交換したその日の夜に連絡が来るとは全くの想定外だ。
それともこれまであまり人と連絡を取り合ってこなかった俺の感覚がおかしいだけでむしろこれぐらいが普通なのか……。
だがそんなことよりも驚いたのは送られてきた内容だ。
明日一緒に登校しようという星崎さんからの誘い。
あんなに可愛い後輩から誘われるのは大変喜ばしいことなのだが、俺には彼女が何を考えているのか当然全く分からない。
だが誘われているのに返事を待たせるのも良くないだろう。
ここは自分の本心に従うことにする。
『いいよ。7時に家の前集合でいいかな?』
実際星崎さんは話しやすいし、会話していて楽しい。
なので俺は星崎さんの誘いに乗ることに決めた。
それにしても……と俺はもう一度星崎さんから送られてきた文章に目を通す。
『良ければ明日から一緒に登校しませんか?』
明日からということは一緒に登校することは明日だけに限らず、これからも続けていくという解釈であっているのだろうか。
だがそうでなければ明日からなどという言い回しはしないはず。
そのあたりは明日本人に聞いてみることにしよう。
そして次の日の朝。
俺は星崎さんとの集合時間である7時になる5分前に家を出ると、すでに星崎さんは俺の家の前で待っていた。
「おはよう、星崎さん」
「おはようございます、先輩」
表情を見るに昨夜の思いつめた星崎さんの面影はどこにもなく、もう特に問題なさそうだった。
「それじゃあ行こうか」
「はい!」
こうして俺たちは学校に向けて歩き出した。
ふとすぐ横で上機嫌な表情で歩く星崎さんを見て思う。
一体どういうつもりで一緒に登校しようなんていう提案をしてきたのだろうか。
どうにも気になってしまうので、俺は直接聞いてみることにする。
「それにしても一緒に登校しようだなんて、急にどうしたんだ?」
「ええっと、それはですね……」
少し考えこむような表情で押し黙ってしまう星崎さん。
しかし意を決したように、俺の方を向いて口を開いた。
「せ、先輩が私に自分なりの青春を謳歌すればいいって言ってくれたから、私なりの青春とやらを謳歌するために行動したまでですよ」
そう言った星崎さんは言いながら恥ずかしくなったのか、俺から顔をそらした。
「それって……俺と二人で登校することが、星崎さんにとって青春を謳歌するってこと?」
「そ、そうですよ。だって先輩と二人きりで登校というシチュエーション。まさに青春って感じじゃないですか?」
俺はあえて言葉の意味について追及すると、いつもよりも早口で言い訳じみたことを話す星崎さん。
その様子はいつもの星崎さんのイメージから遠くかけ離れていて……
「ふふっ」
「あっ!先輩、何でそこで笑うんですか」
「ごめんごめん、こんなに焦ってる星崎さんはなんだか珍しいなーってね」
星崎さんはたまに突拍子もない行動をとったりはするものの、基本的には落ち着いていることが多い印象だった。
だからこそこんなに焦ってるというか照れているというか、感情をここまで表に出しているのが珍しく感じてしまった。
そんなことを考えていると、いつの間に落ち着いた表情に戻っていた星崎さんがふと自分のことを話し始めた。
「別に私は先輩が思っているほどしっかりしているわけではありませんよ。確かに昔からの癖で誰に対しても敬語で話してしまうので、そういうところから私がしっかりしていると思われることはよくあります。それにそう思われていた方が相手からの印象が良くなることも多いので楽ですしね。なので大抵の人にはしっかりしている自分を演じているんです」
どこか遠くを見つめながら語る星崎さんの横顔を見ながら、俺は黙って続きを待った。
「でもそれは本来の私ではありません。むしろ今みたいに感情表現豊かな方が本来の私の姿なんですよ」
そう言って俺に向かってニコッと笑みを浮かべる星崎さん。
それを見た俺は内心ドキッとしてしまう。
普段はこんなあからさまに笑顔を浮かべたりしないからこそ、その分威力は凄まじかった。
俺は動揺を隠すように口を開いた。
「い、いいと思うよ。感情表現豊かな星崎さんも」
「そう言ってもらえると嬉しいです。素の私を誰かに見せるなんて、本当に久しぶりのことでしたから……」
「へえー、そうなんだ」
「なにしろ物心ついた時にはずっとしっかりしている自分を演じていましたから。それに今の今まで私が心を許せる人もいませんでしたし」
そうボソッと呟いた星崎さんだったが、それはつまり……
「それって、俺にはある程度心を許してくれたってこと?」
「そ、それは……まあそうですね。まだ出会ってから少ししか経っていませんが、それでもこれだけ私に対して良くしてくださっているのですから」
そう言ってもらえると、これまで星崎さんに対しての俺の行動が多少なりとも助けになっていたようで、それが純粋に嬉しかった。
その後も俺たちは会話に花を咲かせながら駅に向かって歩みを進め、ようやくその駅に俺たちは到着した。
ちなみにここまでの会話の中で、当然昨日の夜に気になっていたメールの件についても聞いてみたが、どうやら俺が推測した通りであっていたらしい。
つまり明日からも2人で一緒に登校できるということだ。
その事実を考えるだけで、つい嬉しすぎて口元が緩くなってしまいそうだ。
しかしここで俺は星崎さんに対して、自分の願望とは相反したことを言わなければならない。
これは星崎さんのこれからの学園生活に大きく関わることなのだから。
俺は覚悟を決めて口を開いた。
「星崎さん、俺たちが一緒に登校するのはここまでにしよう」
隣の家に引っ越してきた美少女後輩があまりにも可愛すぎる 土岐なつめ @tokihuyu
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