夏と動物

ラームス

夏と動物

 夏の日差しが熱々と照りつける暑い日、家に入ろうと鍵を差し込むと空回りした。不思議に思いつつドアノブを引くとすんなりと開く。玄関には見慣れた靴たちの中に、見知らぬものが置かれていて、整頓されている玄関で、唯一乱雑に脱がれていた。あまりマナーのなっていない客でも来ているのだろうか。


 帰宅したことを告げながら靴を脱ぐと、家の中から異臭がすることに気が付いた。鉄のような匂いとともに何かが腐った匂いがする。

 鍵の閉め忘れといい、この異臭といい、何らかの異常が起きているのは間違いない。少し不安になって異臭の発生源を探すと、玄関から入ってすぐ左の部屋。リビングからの匂いのようだ。


 この異臭が何によって発生しているのか、大方予想はついていたので、意を決してから、ふすまを開いた。途端に感じる熱波と一層強くなった異臭。

 こんな暑い日だというのに、扇風機すら回していないのであれば、すぐに腐るに決まっているだろう。血だらけになった部屋の、中央に置かれた二体の死体。あちこちから血が流れ出ており、穴だらけでぐちゃぐちゃとなった二人からその異臭は発生していた。


 これらの処理をどうしようかと考えていると、背後から声がかかった。


「あれ、君この家の子? 子供がいる気配なんてなかったのになぁ。」


 その声に反応し振り返ると見知らぬ男が立っていた。返り血は付いているが、上下グレーな服を着て、全体的に小汚いホームレスのような男である。玄関に見覚えのない靴が置かれていたのを思い出した。


「君、ごめんね。おうちの人殺しちゃって。この二人は君の御両親かな?」


 全く悪びれた様子のない謝罪とともに質問をしてきた男。本人が言ったのだから、この男が二人を殺した犯人で間違いなさそうだ。


「この二人はこの家の所有者です。」


 こう答えてやると、男は首を傾げ再度質問をしてきた。


「君はこの家に住んでないの?」

「この家に住んでいます。」

「ふぅん。」


 満足のいく回答が得られたのだろうか。男は不気味な笑みを浮かべると、安堵したようにため息をついた。


「じゃあさ、一緒に散歩しに行こうよ。」


 この男は、こんな暑い日に何を考えているのだろうか。外に出て無駄な汗をかくぐらいならば、さっさと冷房を付けて死体処理をしたい。

断りたいが男は、二人を殺した犯罪者だ。断れば男の機嫌を悪くし、殺される可能性も高まる。


「わかりました。」


 こうして男と共に家を出た。今度はしっかりと鍵がかかったことを確認する。

 外は数分前と変わらず暑かった。しかし風がある分、外の方が幾らかましに思える。


 互いも一言も話さないまま少し歩くと、お隣さんの家にたどり着く。家の周りにある広大な田畑はすべてこの人の所有物であり、農家を営んでいたはずだ。今の時間は畑へ出向き、トラクターで耕転しているだろう。


「お~い。佐藤さん。」


すると男と歩いていた道の左に広がる畑から、声が聞こえてきた。お隣さんが、畑に乗ったトラクター内から声をかけてきたのだ。


「こんにちは。田辺さん。」


 男が答えた。お隣の田辺さんと男は面識があるようだ。


「こんなに血を浴びてどうしたんですか。」

「ちょっと動物と喧嘩しまして。」

「そりゃあ大変でしたね。じゃあそちらのお子さんはそいつらの…。」

「子供ですよ。今日からはうちの子です。」


 どうやら男は解放してくれた上に保護してくれるようだ。そう理解すると涙が出た。

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夏と動物 ラームス @ramusu_sgram

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