第73話 個人の意思に関わらず時は過ぎていく
明後日は土曜日だ。沙耶が最近何故かとても嬉しそうだ。放課後、図書室も閉めて二人で駅に向かっていると
「悠斗、明後日土曜日だよね。あれから一週間が経ったね。私の体調も万全だよ」
「そ、そうか良かったな」
「悠斗は嬉しくないの?」
「そんな事は無いよ」
「私初めてだから楽しみなんだ」
そんなものなのか。大体こんな所で歩きながら話す内容じゃ無いと思うんだけど。
「沙耶、そういう話はここでは止めよ」
「うん、でも嬉しいと直ぐに口に出してしまうんだ」
「口に出す時は一度考えてから話そうね」
「分かっているんだけどぉ」
「分かっているなら気を付けよう」
俺は沙耶の養育係じゃないぞ。益々気が重くなって来た。
迎えたくない日に限って早く来る。金曜日は授業時間が短く感じられた。百五分授業でもいいですよ。先生。
中休み、沙耶はいつもの様に賑やかだ。偶には口を閉じて欲しい。お昼休みになると机をくっ付けてくる。隣同士なんだからそんな事しなくても良いのに。
大吾と沙耶と三人で食べているんだけど、沙耶の後ろには矢田さん、大吾の前には遠藤さんという布陣だ。少し離れて優子が友達と一緒に食べている。
そして、食べながらも沙耶は良く話してくる。食べる時は皆静かなのに。沙耶黙食しましょうと言いたくなる。
流石に限界が来た。
「沙耶、食べ終わったら話があるんだけど」
「うん、良いよ」
明日の事かな?
俺は沙耶を校舎裏のベンチに連れて行った。幸い先客は居なかった。
「沙耶、お願いがある。とても大切な事なんだ」
「なに?」
嬉しそうに聞いてくる。何か勘違いしているのかな?
「沙耶、中休みや放課後、一緒に居る時、黙っていてくれない」
「えっ?!どういう事」
「はっきり言うね。俺お喋りな子好きじゃないんだ」
「……………」
そんなぁ。私は悠斗と楽しい時間を過ごそうと思って話をしているのに。まさか、話をしないでくれなんて。
沙耶は下を向いて少し黙った後、顔を上げてから
「それって、私振られたの?」
今にも泣きそうな顔をしている。
「違うよ。俺は静かな子が好きなんだ。話すなとは言わない。でも今の様な話方されると嫌になるんだ。黙っていて欲しい時間もあるんだよ」
私はお喋りが好きなのに。
「もし、もしだよ。お話するの止めないって言ったら」
「せっかくだけどお付き合いはなかった事にして欲しい」
「そ、それは…。それは絶対にヤダ。絶対に別れない。分かった。黙るずっと黙る。悠斗が話をしていいって言うまで口開かない」
「そんなに厳しくしなくていいんだよ。ただ加減して欲しいんだ。中休み、無理して話さなくていいし。黙っているだけでも傍に居るんだから。必要な事は話す必要があるけど」
「分かった。努力する。でももう別れるなんて言わないで」
「沙耶が、お喋りを直してくれるならそんな事言わないよ」
彼女は頷くと
「悠斗の言う通りにする」
「そうか、分かってくれればいいんだ。明日はまた駅に着いたら連絡する」
「お昼一緒で良いんだよね」
「ああ、楽しみにしている」
午後の授業の中休み、沙耶は何も話さなかった。でも俺の方を見て微笑んでいるだけだ。これでいい。
放課後、駅に行く途中でも手を繋いでいるだけ。余分な話はしなかった。家まで送って行くと別れ際に
「明日、連絡待っているから」
とだけ言って玄関に入って行った。
お昼休みに注意してから沙耶は随分変わった。勿論半日も経っていないからこれが続くか分からないけど、これからも続けて欲しいものだ。
お昼休み、悠斗に私のお喋りを厳しく注意された。直らなければ付き合いを止めると迄言われた。そこまで言われたら仕方ない。
でも苦しい。話したくて仕方ない。だって話をしていると楽しいんだもの。
明日の午後が過ぎれば悠斗に無理を言ってももう離れなくなる。彼は責任感が強い。絶対に私を捨てない筈。だから明日の午後、あれが終わるまでは我慢するんだ。
俺は次の土曜日、午前中は予定通り稽古に行って、一度シャワーを浴びてから沙耶の家に行った。
駅からスマホで連絡すると駅まで迎えに来ると言ったが、もう道は分かっているから良いと言って一人で歩いて行く事にした。
今日も家には沙耶以外誰もいない様だ。インターフォンを鳴らすと直ぐに彼女が玄関を開けてくれた。
「待っていた。もう昼食は出来ているから。上がって」
「ありがとう」
洗面所で手を洗ってからダイニングに行くとチャーハン、野菜サラダ乗っていた。
「今、中華スープ盛り付けるから」
「うん」
沙耶は本当に料理が得意なようだ。今目の前にあるチャーハンも美味しそうだ。彼女が中華スープを持って来ると
「食べようか」
「うん、頂きまーす」
俺はチャーハンをレンゲで一口食べると
「美味い。本当に沙耶は料理上手だな」
「ふふっ、そう言ってくれると作り甲斐がある」
中華スープもとても美味しかった。全部食べ終わると食器をシンクに入れて彼女が洗い終えるのを待った。終わると
「悠斗、部屋に行こうか」
俺は頷くと彼女は俺の手を引いて自分の部屋に連れて行った。
立ったままゆっくりと口付けをしてから彼女がベッドに横になると
「悠斗、お願いね」
「うん」
また口付けをした後、ゆっくりとブラウスのボタンを外して可愛いブラが見えて来た。
「沙耶、本当に良いだね」
「うん」
ブラに手を掛けようとした時、一階で
ガチャ、
「ただいま、沙耶居るの?」
「えっ、何でお母さんが返って来るの。今日は午後四時まで帰らないって言っていたのに」
俺は彼女の体から直ぐに離れると
「出来なくなっちゃったね」
「いい、このままして」
「でも、下にお母さんがいるし、いつ上がって来るかも分からないんだから」
「でもう、ここまでして。じゃあ、外でして」
「外って?」
「そういう所ってあるんでしょ」
「いやそこまでは。明日は?」
「駄目家族皆いる」
「俺の所も同じ」
「じゃあ、明日外に行こうよ。嫌だよとっても楽しみにしていたんだから。悠斗に早く私の最初をあげたいの」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど」
二階に上がってくる音がする。
「沙耶居ないのぉ?」
「お母さん、居るけど入ってこないで」
「誰か来ているの?」
「来ているから入らないで」
あら、私とした事が。
「ごめんなさい。集まりが中止になってしまって。早く帰って来たのよ」
「わかったぁ。だから入らないで」
一階に降りていく足音が聞こえた。
「悠斗、お願い」
「でも」
「お願い」
「沙耶、明日にしよう。流石にお母さんが一階にいるのに出来ないよ」
「じゃあ、絶対に明日外でしてくれるのね」
「うん」
結局、この日は中途半端なまま終わってしまった。次の日は渋山に二人で行って、そういう所に行こうとしたのだけど、何故か矢田さんに会ってしまった。
「あら、柏木君。塚野さん。そっち方向には行かないわよね。高校生として健全なお付き合いをしてね。うふふっ、じゃあねえ」
まさか、この二人に会うとは。でも行かせて証拠写真撮って、それをネタに私とウフフしても良かったかな。ちょっと失敗。
時間を潰して再度行こうとしたら今度は遠藤さんに会って
「まさか、行かないわよね。追いかけて証拠写真撮っちゃうよ。塚野さん、健全なお付き合い宜しくね」
簡単にはさせないわよ。
結局この日も何もしないで家に送って行った。
「なんか、上手く行かないね」
「ああ、来週にするか」
「そうだね」
でも結局、クリスマスまで持ち越しとなった。俺やっぱり沙耶と縁無いのかな?
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様
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