彼女を寝取られた俺は新しい彼女と楽しく過ごしたい

第67話 塚野さんは賑やかです

　俺は翌日、学校に着いてから早々に矢田さんを廊下に呼び出して

「矢田さん。俺、塚野さんと付き合い事に決めたから」

「…嘘でしょ。嘘だよね。だって…。

　ねえ、嘘と言って」

「嘘じゃない」

「ヤダよ。私絶対にあなたを諦めないから」

「でも休みの日会うとかしないよ。勉強会もしない。俺は塚野さんとだけする」

「やだ、諦めない。絶対に諦めない！」

　それだけ言うと廊下を走って行ってしまった。

　柏木君に振られた。塚野さんを選んだと言った。でも彼が塚野さんと合う訳がない。彼と合うのは私だけだ。

　こうなったら絶対に私を振り向かせる。もう待ってなんかいない。

　俺は走って行った矢田さんの後姿を見ながら自分の席に戻ると大吾が

「どうだった？」

「想像の通りだと思う」

「やはりな」

　そして午前中が終わり、大吾とお昼を食べた後、遠藤さんに声を掛けた。人に聞かれても良いと思い、廊下に連れ出すと

「遠藤さん。俺、塚野さんと付き合う事に決めたから」

「えっ、なんで？」

「俺、遠藤さんの事、何も知らないし、今から知ろうとも思っていないから」

「駄目！これから私の事一杯教える。柏木君が嫌だと言っても絶対に教える。全部教える」

「俺聞かないから」

「意地でも覚えて貰うから。それに塚野さん、柏木君に合わないよ。じゃあね」

　遠藤さんが廊下を歩いてどこかに行った。

　ふふっ、塚野さんの性格は柏木君には合わない。彼女はお喋りだ。彼は傍に居て静かに寄り添う人が好き。

　だから直ぐに別れるはず。今から彼に私を覚えて貰えばいい。初めてだって彼にあげる。バスの中の時だって…。絶対に彼を私に振り向かせる。

　俺は、遠藤さんの後姿を見ながら教室に入って自分の席に行くと大吾が

「どうだった？」

「おんなじだ」

「やはりな」

　ふふっ、柏木君が矢田さんと遠藤さんに引導を渡した。彼女達が諦めなくたって、もう彼は私しか見ない。勝負あったわよお二人さん。

　これからじっくりと柏木君と愛を育んでいくんだ。そうだ、大事な物いつあげようかな。そこまですればもう恐れる物は無くなる。でもその前にする事もあるか。

　放課後になって私が図書室に行って受付に座っていると彼は少しして来てくれる。私を見て微笑むといつもの席に座った。今日は勉強をするようだ。

　あっ、勉強を理由に彼にもっと接近して…ふふふっ、その時にね。

　予鈴が鳴って最終下校時間になると彼はテーブルの上に有った教科書を片付けて図書室を出る間際に頭をコクンと頷かせてくれた。

　昇降口で待っているって意味なんだろうな。なんか嬉しい。昨日告白されたばかりだけどカップルってこんな感じなんだ。

　急いで職員室に鍵を返して昇降口に行くと彼が待っていてくれた。

「急いで履き替えるから」

「良いよ。ゆっくりで」

　そうは言われたものの直ぐに履き替え終わると彼の傍に寄って

「帰ろうか」

「ああ」

　私は、早速勉強会の事を話した。お休みの日に外でデートも良いけど、どちらかの家で勉強会するのも良いなって言って。

　彼は頷いてくれた。

「じゃあ、私の家に来る？まだ来てないでしょう」

「そうだね。行ってみようか」

「うん」

　もう土曜日が楽しみで仕方ない。嬉しくて色々な事を話してしまった。彼はただ頷いてくれるだけだけど嬉しい。

　ふう、二日目なのに疲れた。塚野さんってあんなに賑やかだったのか。図書室で見ているあの静かな雰囲気はあそこだけだったんだ。

　俺は、次の日の朝、駅に行くと優子が待っていた。

「おはよ、悠斗」

「おはよ、優子」

　後は何も言わないで一緒に電車に乗り隣同士で吊革につかまっている。そして学校の最寄り駅に着くと

「悠斗、先行くね」

　それだけ言うと彼女は途中まで小走りに行ってそれから普通に歩きだす。何も話さなくていい。でも相手が何を考えているか分かる。

　……仕方ない。自分で決めた事だ。

　矢田さんと遠藤さんは、昨日の事がまるでなかったか様に話しかけてくる。仕方ない。塚野さんは俺の隣だけど、矢田さんは塚野さんの後ろ、遠藤さんは大吾の前に座っている。

　こちらが無視していてもそれを見越して返事をしなくていい様な話をしてくる。まるで独り言のように。

　塚野さんが何か言いたそうだけど、俺が無視しているから彼女も何も言えない様だ。そんな日が続いた週末土曜日。

　俺は塚野さんの家の最寄り駅の改札に行った。待合せ時間の十分前に着いたけど、彼女はもう来ていた。

「ごめん」

「ううん、まだ十分前だよ。行こうか」

「うん」

　彼女の家は駅から続く商店街を真直ぐに行って商店街を抜けた所を左に曲がる。道の反対側はずっと公園だ。

「凄いね。エネルギーのある木が一杯だ」

「うん、私も家に帰る時のこの道を歩くのが好き。もうすぐ家だから」

　さっき曲がった所から百メートル位歩いて更に左に曲がった直ぐの所に彼女の家は有った。

　門構えがしっかりとした家だ。流石警察官一家という感じ。少し緊張する。そういえば女の子の家って優子の家以外上がった事なかったな。

「柏木君、どうしたの？」

「あははっ、ちょっとね」

「さ、入ろう」

　門から玄関までは少しの庭が有って、老人が植木の手入れをしていた。

「お爺ちゃん」

「なんだ、沙耶？」

「紹介する。こちら柏木悠斗さん、私のクラスメイト」

　しゃがんで居た体を起き上がらせると俺と同じくらいの身長が有った。手に植木鋏を持っている。

　凄く目が深く射貫くように俺を見た後、急に穏やかな顔になって

「そうか、沙耶のクラスメイトか。孫を宜しく」

「はい」

　そう言うとまたしゃがんで植木の手入れを始めた。後姿に全く隙が無い。何かやっているのか？

　玄関を開けて家の中に彼女が入ろうとすると男の子が出て来た。

「あっ、姉ちゃん」

「柏木君、紹介するね。弟の康文」

「初めまして。柏木悠斗です」

「そ。じゃあ俺遊びに行って来るわ」

「こら康文」

　塚野さんの言葉を無視して門の外に出て行った。

「ごめんね。頭だけは良いんだけどね。まだ挨拶一つ出来なくて」

「いいよ。俺は弟がいないから分からないけど、あんなもんじゃないの？」

「そんな事ないと思うんだけどな。さっ、上がって」

　中に入って上がり口を上がってからリビングというか和室に連れて行かれた。

「うちね、みんな和室なのよ。ごめんね。それとも私の部屋に行く？」

「いや、ここでいいよ。勉強ならここの方がゆっくり出来るし」

「そうね」

　後で良いか。

　俺達が話していると

「沙耶、着いたの？」

「あっ、お母さん。こちら柏木悠斗君。クラスメイト」

「あら、彼氏が出来たって喜んでいたじゃない。彼氏さんじゃないの？」

「お母さん、そういう言い方は…」

「良いじゃない。悠斗君だっけ。我儘な娘だけど宜しくね。今お茶とお菓子を用意しますから」

「ごめん」

「いいよ。事実だし」

「ありがとう」

　いきなりお爺ちゃん、弟さん、お母さんの洗礼を受けたけど何とか午前中は勉強に集中出来た。

　二学期に入ってから学校で教えて貰った分だけど、科目が多いから簡単には終わらない。

　午前十二時を過ぎた所で彼女のお母さんが、

「沙耶、お昼出来たわよ」

「えっ、昼食用意してくれてたの？」

「勿論、食べた後も一緒に勉強しよう」

　勉強している時だけは静かになる子だな。

　この日は、午後三時まで和室で勉強してから二階にある彼女の部屋に連れて行かれた。ドアを開けるとふわっと女の子の匂いがした。

「入って」

「うん」

　ピンクと白をベースにした可愛い部屋だ。ここは洋室で机、本棚、洋服ダンスそれにカラーボックスが置いてある。カラーボックスの中は可愛いいキャラクタ人形が一杯だ。

「えへへ、ちょっと恥ずかしいけど」

「そんなことないよ。とても可愛い部屋だよ」

　俺が立ったままでいると

「あっ、ごめん。座って。ベッドの上で良いから」

「流石にそれは」

　そう言ってベッドと壁の間にちょっときついけど座ると

「それ、無理有り過ぎ。ここでいいから」

　ポンポンとベッドに座った自分の横を叩いてる。一度立ちあがってから隣に座ると

「柏木君」

　彼女が俺の方に体を傾けて顔を上げて目を閉じた。

　ふふっ、これで…。あれっ？目を開けると彼が人差し指で私の唇を抑えて

「もっと、お互いを知ってからにしよう」

「えーっ、柏木君のいけずーっ！じゃあ、名前呼びは？」

「それならいいよ。沙耶」

　えっ、いきなり言われると恥ずかしい。でも気持ちを出して

「ありがとう悠斗。ここは次で良い？」

　ここでそれをすれば次のステップまで行くのは見えている。まだ分からない彼女にそこまで進めるのは難しい。だから

「来月頭から二学期末考査だ。それが終わってからではどうかな？」

「うん！」

　ふふっ、二学期末考査は彼と一緒に勉強して私が彼に相応しい女性だと皆に分からせるんだ。そしたら彼も躊躇しない筈。

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次回をお楽しみに。

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お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様

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