第64話 恋の磁石


 修学旅行から帰って来た翌日金曜日は昼過ぎまで寝ていた。体が疲れていたという訳ではないが、精神的に疲れたという所だ。


 はっきり言って面倒だ。優子の事が起きて以来、何故か俺を追いかける人が出て来た。でもなんでこんな事になったんだ?


 それに優子の事が吹っ切れて前と同じ感覚で接する事が出来るようになってから益々周りが積極的になって来た。どうなってんだ?


 塚野さん、矢田さん、遠藤さんそれに桂さんまで。


 俺が友達までだと言っているのにやたら迫って来る。かと言って口を利くのも出来ないなんて言ったら、益々積極的になりそうだし。


 やっぱり誰か一人に決めた方がすっきりするのかな。でも誰に?


 矢田さんと塚野さんは友達以上にはどうしても気持ちが動かない。二人共いい子だけどそれだけでしかない。


 遠藤さんは、大人しい人かと思っていたら修学旅行で見せたあの積極性は俺には無理だ。


 陽子ちゃん…。可愛くていい子だけど見た目と違う積極性がある。やっぱり無理だ。


 桂さんは全くの未知数。綺麗だけどそれ以上それ以下でもない。そもそも名前しか知らない程度だ。

 それにあの積極性。やっぱり無理かな。


 今の優子なら…。考えても仕方ないか。あいつが嫌だというだろうし。



 考え事をしている内に目が覚めてしまった。部屋着に着替えてドアを開けると静かだ。お父さんとお母さんは仕事。梨花は学校だ。



 一人で昼を作る気にもなれず、コンビニに行く事にした。家を出てのんびりとコンビニへ歩いて行くと優子がいた。珍しいな。


「優子」

「悠斗!」

 彼が声を掛けてくれた。


「どうしたんだ。お前がコンビニなんて?」

「うん、家一人だし作るのも面倒だからコンビニ弁当にしようかと思って」

「そうか、俺も同じだ」

「そう」

 一緒に食べようなんて言えないか。


「優子はもう買ったのか?」

「まだ会計していない」

「そうか、俺はまだだ。買ったらそこのイートインで一緒に食べるか?」

「えっ、いいの?」

「なんかいけないか?」

「ううん、そんな事ない」


 本当に悠斗は変わった。私への接し方が前と全く同じだ。こんな事されちゃうと、はかない期待が芽吹いて来てしまう。



 俺がお弁当を選ぶ迄優子が待っていてくれて、二人で会計した。その後、入口の脇にあるイートインで二人で食べた。


「優子、修学旅行はどうだった?」

「うん、班の人が優しくてみんないい人だった。とても楽しかったよ。そう言えば悠斗、黒川で目立っちゃったね」

「あれは、仕方ないよ。目の前で人が川に流されるのを見ているほど、大人しくないからな」

「悠斗らしいね。周りの人は誰も助けなかったのに」

「それ言うな。優子も俺の性格知っているだろう」

「うん、良く知っているよ」


 何故だ。こいつと居る時が一番落ち着く。決して踏み込んでこない距離感がいい。


 俺達は、昼を食べ終わると片付けてコンビニの外に出た。


「優子じゃあまた学校でな」

「うん。また。あっ…」

「なんだ?」

「…何でもない。じゃあ学校で」


 優子は何を言いたかったんだ?言えばいいのに。



 悠斗の後姿を見ていた。もしあの時、今度二人で会いたいと言ったら…。もしまた付き合ってほしいと言ったら…。


 どれも叶わない夢。今の関係をまた冷やしてしまう。今のままでいい。悠斗から声を掛けてくれて一緒にお昼を食べようと言ってくれた。物凄い進歩だ。何も急がなかった結果だ。


 待てば、もしもという事があるかもしれない。待つしかない。今の距離を保つしかない。




 翌日は駅前のファミレスでお昼を兼ねて梨花と一緒に陽子ちゃんに会った。修学旅行のお土産を渡す為だ。


 俺達は注文を終わると一度ドリンクバーに行って飲み物を取って来てから

「はい、これ。陽子ちゃんのお土産」

「嬉しいです。開けて良いですか?」

「いいよ」


 悠斗さんが、可愛い箱に赤いリボンが掛かったお土産を渡してくれた。開けて見ると不思議な色をした瓶が入っていた。


「湯布院で買った『ゆふいちごの恋ビネガー』って言うんだ。お店の人がまろやかで甘酸っぱいと言っていたから陽子ちゃんの口に合うか分からないけど美味しそうだったから」

「恋ビネガーですか。嬉しいです。大切に食べさせて貰います」


 お兄ちゃん、また微妙な名前のお土産を買って来て。彼女に期待させるような名前なんだもの。


 私は悠斗さんに貰ったお土産をもう一度綺麗に箱に戻すと

「修学旅行はどうでした?」

「うん、とても楽しかったよ。湯布院の温泉も黒川の温泉も良かったし。阿蘇山がガスが多くて火口見れなかったのが残念だったけど、その代り美味しいアイスクリームも食べれたし。天気に恵まれたから景色も抜群に良かった」

「楽しかったみたいですね。話している悠斗さんが嬉しそうです」

「あははっ。そうか」


 お兄ちゃんは黒川温泉で起きたことは言わないか。当たり前だよね。また一人ライバルが増えたよなんて教えるだけだから。


 しかし、私のお兄ちゃん。確かに良い所一杯あるけど、ここまで女子を惹きつけるなんて。絶対に恋の磁石でも持っているんじゃないか。


 早く見つけて捨てさせないともっと大変な事になりそうだ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


新作公開しています。読んでくれると嬉しいです。

お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様

https://kakuyomu.jp/works/16818093078506549056

宜しくお願いします。

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