第62話 黒川温泉は一波乱

一話にまとめたので少し長くなってしまいました。


―――――


 次の朝は全員午前七時に起床。午前七時半から朝食を摂った後、午前九時に湯布院を出発した。最初に向かうのは阿蘇国立公園で火口見物だ。


 バスに乗り込んで席に座る。隣は遠藤さんだ。

「柏木君宜しくね」

「こっちこそ」


 急に俺の耳に小声で

「私は、矢田さんみたいなエッチな事はしないから」

「よ、宜しく」


 流石に遠藤さんからも昨日と同じ様な事をされたら溜まらない。大吾は昨日と同じ席だ。でも何故か隣に座る女子が変わっていた。流石大吾だ、モテるな。



 バスガイドさんが景色を色々説明してくれている。遠藤さんとそれを聞きながら景色も見ていると俺の左手が掴まれた。彼女の顔を見ると微笑んでいるだけだ。


それ位なら良いかと思っていると彼女の右足の太腿に俺の手が乗せられた。


えっ!彼女の顔を見ようとすると彼女は窓の景色を見ているだけだ。でも彼女の手は俺の手をしっかりと掴んで自分の太腿の内側に引き込んでいく。


 いきなり、こっちを向くと俺に小声で

「知らない顔していて。これならあの二人にも分からないし。でも柏木君には私を知って欲しいんだ」

「これはちょっと」

「いいの」


 柔らかいんだけど、触っている位置が段々……。手を抜こうにも結構な力で抑えられている。バスの中だし、彼女の事を考えると手荒な真似は出来ないし。でも場所悪すぎる様な。

 何故か、彼女が赤い顔して下を向いている。目を閉じて寝た振りかな。


 俺は景色を見たりしているんだけど右から視線を感じて顔を向けると矢田さんと塚野さんが頬を膨らませて怖い顔をしている。


 遠藤さん、大人しそうな顔をして、まさかあんな事するとは。


 昨日夕飯から積極的だったけど、まさかここまでするとは。



 大分そのままにしていたけど、もうすぐ休憩場所だ。俺は遠藤さんに

「起きて、もうすぐ休憩場所だよ」


 彼女はゆっくりと赤い顔を上げてると俺の手を放して

「ね、寝ちゃった。ごめんね」

「べ、別に良いけど」


 ふふっ、彼の手で……。私って矢田さんよりエッチ?でもまだ未経験だから。



 バスが停まって十五分間の休憩に入ると何故か遠藤さんが急いで降りて行った。どうかしたのかな?



 おトイレ休憩も終り次の阿蘇山までは、遠藤さんは何もしなかったのだけど、くねくねした上り坂を上がっていくので、その度に遠藤さんが大袈裟に俺に寄りかかって来る。やっと駐車場に着くとでもまた小声で

「柏木君を思い切り感じちゃった」

 なんて言っている。大丈夫かなこの子。



 阿蘇山に着いて中岳火口を見物をする予定だったのだけど、ガスの発生が酷くて火口付近に行けなくなってしまった。


 予定を変更して、自由行動に。班毎の行動だ。この後昼食になるのだけど、みんなでアイスクリームを食べたり、お肉を一本買って五人で分けて食べたり、景色を見て阿蘇山を満喫?した。

 ちなみに遠藤さんは、俺の傍にべったり。矢田さんと塚野さんが問い詰めると、まだバスの中と一緒ですとか何とか言って、また三人で火花を散らしていた。



 山を下りてから麓のレストランで昼食を摂って三十分の休憩後、今度は黒川温泉に向かった。


 今度の俺の隣は塚野さんだ。阿蘇山から黒川温泉まではバスの窓から見える景色は景勝の地が多く、ガイドさんが一生懸命説明してくれていた。


 塚野さんが何か仕掛けてくるかと思ったけど何もしてこない。チラッと彼女を見てもガイドさんの案内を聞きながら景色を見ている。良い人だな。


 でも黒川温泉に近付いた時、結構くねくねと曲がる道が続いて結構俺の左腕に体が当たったけど、その度に赤い顔してごめんと言って来た。うん、これが普通だよね。


 私は矢田さんと遠藤さんの積極的な作戦を見て、同じ事しても差別化できない。むしろここはしおらしい女子を演じて柏木君に好印象を持ってもらう作戦に出た。


 これは彼には好印象だったらしく、バスを降りる時に、塚野さんが隣で楽しかったよと言ってくれた。勝った。



 大型バスが停まる駐車場に俺達のバスが停まった。結構他にも大型バスが停まっている。全員がバスから降りると学年主任が


「ここも三つの旅館に分かれて泊まります。隣同士ですが、昨日と同じ様に旅館間の行き来はしない様にして下さい。

 明日は、午後からの出発になります。今日これからの時間と明日の午前中は自由時間になりますが必ず班単位で行動するように。

 そしてここでも大橋高校の生徒として規律ある行動をとる様にして下さい。それでは、旅館に行きます」


 

 バスガイドさんと引率の先生に連れられて俺達が泊まる旅館の前に着くと昨日とは違ってぐっと歴史を感じる旅館だった。川沿いに建っている。


 旅館の前に着くと榊原先生が

「旅館を正面に見てフロントを中心に男子は二階右側の部屋、女子は三階左側の部屋です。それぞれ二室ずつあります。お風呂も男女別々です。くれぐれも誤解ある行動はしない様に。

 まだ夕食まで時間はありますから外の温泉に入るのも良いですし、散策するのも良いですが、くれぐれも班単位の行動をする様に」


 その後は仲居さんに連れられて男子部屋に行った。顔ぶれは昨日と同じだ。俺は大吾に

「まだ三時間もあるな。女子達に声を掛けて散策とするか」

「そうだな。温泉は後でも入れるし、明日も入れそうだからな」


 俺は、前にプールに行った時に作ったグルチャに遠藤さんも入れて作ってある班のグルチャに

『十五分後、フロントに集まれますか?』

とメッセを送ると直ぐに三人からOKの返事が来た。


「大吾行こうぜ」

「おう」


 他の班の男子も同じようだ。フロントに行くと結構一杯生徒がいた。


「柏木君、中山君」

 矢田さんが声を掛けて来た。


「どこ行こうか?」

「温泉街を歩きませんか。結構お土産物屋や地元の民芸品を置いているお店があるらしいですよ」

「遠藤さん良く知っているね」

「調べて来ました」


 近くに川があるせいか水が流れる音がする。

「ちょっと行ってみようか」

「おう」



 俺達は川に掛かった橋の上で清流と呼ぶに相応しい綺麗な川を眺めているとなんとまあ、危ない事をしている連中がいる。狭くて細い河川敷に降りて水遊びをしている。


 普段着での行動さからはっきり分からないけどうちの高校の生徒みたいだ。何処の班か知らないが、危ないと思いながらも他の生徒も周りには一杯いるから大丈夫そうと思いその場を離れようとした時、


-きゃーっ、


 ドボーン。


 落ちちゃったよ。あまり深くないから大丈夫だろうと見ていると傍に居る連中も見ているだけだ。


 落ちたその子は一度立ったけど、河川敷に戻ろうとして足を滑らせて、また川の中に転んでしまった。あっ、今度は何処か打ったらしく、起き上がれないでいる。


 誰か助けないのかと思っても川の近くまで行っても手が届かない様だ。少しずつだがその子が流され始めた。

 

 誰かが、先生を呼んで来ると叫んでいるけど、その子は起き上がれないままだ。あのままだと流される。不味い。


「大吾!行く」

「無茶するな。ここから下まで三メートル以上あるぞ」

「大丈夫だ」


 俺は、橋の欄干に立ってから飛び降りた。

「「「柏木君!」」」


 足首、膝、股関節を十分にバネにして狭い河川敷の砂利の上に立つと、一度上を見て大吾達に大丈夫だというサインを送って、直ぐに川の中で倒れている子の側まで狭い河川敷を走ってから川の中に入った。

「危ないぞ」

「危ないよ」


 周りのそんな声を無視してその子の傍に行くとの腰の辺りまで水がある。

「大丈夫か?」

 返事がない。一度声を掛けてから腰を落として


「ごめん」

と声を掛けて前から脇の下に手を入れて強引に押し上げた。


ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!


「水を飲んだのか?」

 その子は頭を縦に何度も振ると


「歩けるか?」

 水は腰近くまで有る。そこの子は首を横に振ると


「仕方ない。痛いの我慢しろ」


 俺は、その子の腰を掴んで体を持ち上げて肩の所で荷物の様に担ぐとゆっくりと河川敷の砂利の所まで上がった。


 その時、学年主任と付き添いのPTAの人が来た。

「大丈夫か?」


 担いだままだったけど

「この子足挫いたみたいです。一度降ろします」


 そう言って、一度砂利に座らせると周りから凄い歓声が上がった。大吾達もやって来て


「悠斗、大丈夫だったか?」

「ああ、この通り俺は問題ないけど、ずぶ濡れになってしまったよ。散策はいけそうにないから四人で行って来てくれ」

「何言っているんだ。悠斗置いて行けるわけないだろう」


 俺はその子に

「歩けるか」

「肩貸して下さい」

「分かった」


 先生達とゆっくりと河川敷から道路に上がりその子の泊まっている旅館、俺達とは違っていたけど、フロント迄送った後、自分の旅館に戻った。ずぶ濡れだ。明日どうするかな?


 その後、学年主任と榊原先生それに付き添いのPTAの人から


-柏木、良くやったけど、無茶のし過ぎだ。

-でも柏木君が無茶しなければ2Bの桂さんがどうなっていたか分かりませんよ。よくやったわ柏木君。

-そうよね。本当に体は大丈夫?


 まあ、三人三様に言ってくれた。大吾に部屋に置いてあるバッグからジャージとタオルを持って来て貰うとそのまま二人で温泉に入った。



 洋服を脱ぐと幸い何処も怪我や赤くなっている所はない。体を良く洗ってから、露天風呂に入って、さっきの川を見ながら大吾と二人で


「はあ、普段着濡れちゃったよ。靴もびちょぬれだし。一着分しか持ってこなかったのに。明日どうしよ」

「旅館の人に行って乾かして貰ったらどうだ。こういう所はそういう設備があるんじゃないか?」

「聞いてみるよ」



 ポカンと川を見ていると他の男子が入って来た。そして

「柏木、一気にヒーローだな。外じゃお前の事でもちきりだぞ。あの男子は誰かって?」

「そうそう、そういえば、柏木が助けた人って学年のマドンナ桂美優(かつらみゆ)さんだろ」


「そうなのか、引き上げた時、髪の毛は顔の前にドバッて垂れていて分からなかったよ」

「はははっ、悠斗。これはまたまただな」

「冗談だろう」



 俺達が温泉から上がって部屋戻ると部屋にいた男子達が

「帰って来たぜ。ようスーパーヒーロー」

「おお、柏木流石だな。惚れ直したぜ」

 男に言われてもな。


「柏木と同じクラスで良かったぜ」

「そうだな。俺も思うぜ」



 夕食時間になって、大広間にジャージを着て行ったんだけど、全員が俺の事見ている。はっきり言って恥ずかしい。班のテーブルに着くと


「柏木君、目立っちゃったね」

「流石、私の柏木君だわ」

「何言っているの矢田さん。柏木君は…」

「あの三人共その辺で」

 周りから注目の的になっていた。



 翌朝、昨日あの後、旅館の人に頼んで乾かして貰ったはずの洋服と靴が…。洗濯されてアイロンも掛けられて綺麗になっていた。旅館のマネージャさんが


「勇者君にはこの程度では申し訳ないですけど、洗濯させて頂きました」

 と言われてこっちが赤くなってしまった。


 そして午前中自由行動になった俺達がフロントで集まっていると入り口から髪の毛が長いとても可愛い女の子が入って来た。そして


「柏木悠斗さん。昨日は私を助けて頂き誠にありがとうございます。言葉では言い表せない位です。

 東京に帰ったら改めてお礼をしたく思います。昨日は本当にありがとうございました」

「あの、君の名前は?」

「桂美優と言います。私フリーです。有名な柏木君。これから宜しくね」


 周りから揶揄いの言葉が思い切り掛けられて。


-不味い。まさかここに来て強力な新手が出て来るとは。

-桂さん、学年のマドンナ。不味いわ、これは。

-この人相手じゃ、かなわないよ。


 恥ずかしくなって

「大吾、早く出かけよう」

「俺はゆっくりでも良いぞ」

「大吾ーっ!」


 悠斗が思い切り目立っている。まさか桂さんまで加わるとは。でも悠斗は誰にも渡さない。


 いくら無自覚な悠斗でも流石に今、桂さんが言った意味は分かっただろう。しかし、渡辺さん、陽子ちゃん、矢田さん、塚野さん、遠藤さん、ここに来て桂さんか。


 こいついつからハーレム男になったんだ?


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


新作公開しています。読んでくれると嬉しいです。

お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様

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現代ファンタジーです。

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宜しくお願いします。

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