第61話 湯布院の温泉は気持ちいい


 どう見ても寝たふりをしていた矢田さんを起こして…。起きない。


 小声で

「矢田さん、起きて」

「……………」


「矢田さん、起きて」

「……………」


 仕方なく、矢田さんの右腕を外そうとすると彼女の右腕に力が入り俺の左腕を彼女の柔らかい所に押し付けてくる。

 

 何か柔らかいものと腕に挟まれて動かしにくい。どう見ても押し付けられている。これ意図的だよね。


 強引に抜いて

「矢田さん、起きて」

「うーん。疲れていたから良く寝ちゃった。ごめんね柏木君」」

 

 何故か、矢田さんが俺の顔をジッと見ている。ちょっと近距離過ぎて不味いので反対側の塚野さんと遠藤さんを見ると二人共頬を膨らませて怒っている。どうしたの?


 ふふふっ、柏木君に思い切りアピールしちゃった。彼一杯感じてくれたかな。ここがベッドの上ならそのまま突入しちゃうのに。でもここまで、じっくりとね。


 塚野さんと遠藤さんが小声で

「まさか矢田さんがあそこまでやるとは!」

「私も負けていられないわ」

「そうね」


 君達何を話しているのかな?



 ガイドさんの案内をそこそこ聞いている内に湯布院に着いた。バスから降りる前に榊原先生が、

「目のまえに有るレストランで食事をします。それが終わった後、二時間の自由行動となります。必ず班単位で行動して下さい」

「「「「「はーい」」」」」



 食事を終わらせた後、俺達は湯の坪街道をのんびりと歩いた。女子三人は、途中にあるお土産物屋に入っては、キャアキャアと騒いでいる。


 他のグループも一杯だし、俺達の学校以外にも来ているらしくて学生と一般客で溢れ返っている。なんか人を見に来た感じだ。



 五人でのんびり歩いていると優子のグループが向かいから歩いて来た。彼女はグループの仲間に話しかけられて笑顔で会話している。


 俺に気付くと胸の辺りで右手を軽く振って来た。俺も何気に手を少しだけ振ると思い切り嬉しそうな顔をした。やっぱり優子は笑顔が似合う子だ。



 歩いていると矢田さんが俺の横腹をツンツン突いて来た。

「矢田さん、何?」

「柏木君は渡辺さんと因りを戻したの?」

「因りを戻したとかじゃなくて、友達に戻ったって所」

「えっ、じゃあ、その先もあるって事?」

「それは考え過ぎ。優子もそこまで望んではいないよ。ただ付き合いが長かった分、心の引っ掛かりが無くなると前と同じ感じになるのは仕方ないさ」


 それって、柏木君自分では気付いていないけど十分に恋人同士に戻る可能性ありって事じゃない。不味いよ。しかし渡辺さんどうやって、ここ迄戻したの?教えて欲しい位だよ。



「悠斗、そろそろ時間だぞ」

「時間経つの早いなぁ。戻るとするか」


 バスの傍には集合時間十五分前に着いた。まだ戻って来ているのは半分位だ。


 

 バスに全員が乗ると榊原先生が

「隣に座っていた人はいますね」

「「「「「はーい」」」」」


 旅館までは十五分も乗らなかった。人数が多い為一つの宿に二クラスずつ三つの宿に泊まる事になっている。部屋は当然男女別。


 大型バス専用の駐車場に停まってバスから全員が降りてクラス毎に集まると学年主任が


「これから、三つの旅館に分かれて移動します。それぞれの旅館はほぼ隣同士ですが、決して旅館の間の行き来などはしない様にして下さい。

 旅館の中では大橋高校の生徒として恥じない様に規律ある行動を意識して下さい。では出発します」


 俺達のクラスに割り振られた旅館に着くと

「「「おーっ!」」」


 凄く立派な旅館だ。離れもある。俺達は確か離れの大部屋に行く予定だ。榊原先生が


「2A、2Bのクラスの男子は全員離れに泊まります。女子と先生達は母屋に泊まります。

 夕飯は午後六時を予定しています。それまでの一時間半は自由行動です。温泉に浸かるのも散策も良いですが、くれぐれも複数人で行動するようにしてください」



 その後俺達は、仲居さんに離れの方に案内され、割り振られた部屋に入った。

「大吾、取敢えず温泉に入るか」

「そうだな」

「「「俺も行く」」」


 結局、ほとんどの男子が一緒に温泉に行った。露天風呂もある。体をしっかりと洗った後、露天風呂に入りながら由布岳を見て

「いい天気だし、この濁り湯が何とも言えないよなぁ」

「ああ、気持ちいい。来て良かったぜ」

「そうだなぁ」


 俺と、大吾が少し年よりじみた会話をしていると近くにいた男子が、

「榊原先生も温泉入るんだよな」

「それはそうだろう」

「想像しただけで元気になりそう。あの○○○〇凄いだろうな。浮くのかな?」

「下らん事言うな。こっちまで元気になりそうじゃないか」


 榊原先生を揶揄した男子が皆から顔にお湯を掛けられている。俺もほんのちょっと想像してしまった。やっぱり凄いんだろうな。



 隣から女子の声が聞こえる。またさっきの男子が

「なあ、聞こえるの女子の声だよな」

「そうだな」

「気にならないか」

「なるけどさ。お前まさか」

「いや流石にそこまでは、それにこのでかい塀じゃあどうしようもない」

「まあな」


 あいつの頭、それしか考えないのかよ。



 三種類の温泉に皆で入ってから一度部屋に戻った。食事まで後三十分位だ。少し長く浸かった所為かちょっとボーッしている。


 部屋でゴロゴロしたり景色を見たりしている内に館内放送で食事処に集まる様に案内が有った。


 食事処に行くとまた班単位に別れる。全員がジャージ姿だ。テーブルに班の番号が掛かれているのでそこに行くと矢田さん、塚野さん、遠藤さんがジャージ姿で居た。


 みんな顔がほんのり赤い。温泉に入り過ぎたのかな。食事も豪華だ。ご飯とみそ汁はお代わり自由らしい。


 お腹が空いた俺は一杯目を簡単に食べ終わらせてご飯のジャーに行こうとした時、遠藤さんが

「柏木君、私がお代わり持って来てあげる」

「あっ、ありがとう」


 俺が遠藤さんにお茶碗を渡すと何故か矢田さんと塚野さんが遠藤さんの後姿を睨んでいる。


 まさか、その手で来るとは。


 やられたわ。


 遠藤さんはお茶碗に結構盛って来た。

「少し多いと思ったけど、柏木君ならこの位食べるかなと思って。残ったら私食べてあげる」


 ふふっ、この二人に柏木君のお茶碗は触らせないわ。残ったら私が食べちゃう。柏木君のお茶碗で。


 何故か女子三人の無言の視線が怖い。アニメなら火花でも飛び散っているのかな。


 悠斗の傍に居ると一日中飽きなくていい。いい加減に誰か選べばいいのに。今となっては、渡辺さんも有りかな。何となくあの子の方が悠斗に一番しっくり来るのは気の所為か。



 食事も終り消灯までまだ二時間ある。部屋に戻るとお布団は敷かれていた。さっき遠藤さんが盛ってくれた二杯目が結構お腹に来ている。


「悠斗、もう一度温泉に行くか?」

「そうだな。部屋にいてもやる事無いし」

「あっ、俺も付き合う」

「「俺も」」


 また、半数位の男子が、一緒に行く事になった。


 露天風呂に浸かりながら大吾が

「悠斗、どうするんだ」

「そうだなぁ。はっきり言って好き嫌いは当分良いって気分なんだ。矢田さん、塚野さんに遠藤さんまで加わった感じだけど。もうお腹一杯だよ」

「それじゃあ、今のままだな。なあ、渡辺さんの線は無いのか?」

「……優子か。それも良いかもな。あいつなら黙って傍に居るだけで楽だから」

「煮え切らない奴だなぁ。それじゃあ当分同じだぞ」

「友達までってはっきり言った方が良いかな?」

「お前が決める事だ」


 その後は、部屋に戻って、恋バナに話が湧いているのを耳にしながら眠った。

 

―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


新作公開しています。読んでくれると嬉しいです。

お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様

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現代ファンタジーです。

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宜しくお願いします。

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