第60話 修学旅行の日になりました
修学旅行の朝、俺は二泊三日分の洋服が入っているバッグを背中に担ぐと学校から渡されている日程表それに自分の班の行動計画表等が入っている小型バッグを持って一人で羽田空港まで行った。
搭乗二時間前に集合という事になっていたが、集合場所には大勢の生徒がいた。二年生六クラスと付き添いの先生達で一杯だ。
クラス毎に集まっている。2Aの集合場所に行くと大吾や遠藤さんが来ていた。大吾に
「おはよう、矢田さんと塚野さんは?」
「まだ見たいだ。集合時間までまだ三十分あるから」
「そうだな」
大吾と遠藤さんと話をしていると塚野さんがやって来た。まだ矢田さんは来ない。もうすぐ集合時間になるというのに。
引率の先生が各クラス毎に並ぶように声を掛けたが矢田さんは来ない。
「なあ、矢田さんどうしたのかな?」
「分からない」
そうしている内に榊原先生が、俺達の所にやって来て
「矢田さんは、後三十分で着くそうです。搭乗には間に合うので心配しないように」
飛行機は一機で全員が乗る訳ではない。二機に分かれて乗る。これは、有ってはいけないが万が一の不足事態を考慮しての事だ。航空会社と学校が話して決めたそうだ。
荷物検査も終り、そろそろ搭乗口の待合室に行こうとしたところで矢田さんが現れた。先に榊原先生の所に行って頭を下げて何やら話をしている。その後、俺達の方に来て
「間に有ったぁ。まさか事故渋滞に合うとは思ってもみなかったよ」
「車で来たの?」
「うん、最初はこっちの方が早いと思ったんだ。本当は集合時間三十分前に着く予定だったんだけど」
矢田さんの事情を知らない遠藤さんと塚野さんが
「えっ、電車で来なかったの?」
「なんで、こっちのが正確なのに」
「まあ、ちょっと事情でね」
矢田さんが返事に困っている間に待合室に移動が開始された。後三十分で登場開始だ。みんな嬉しそうな顔をしてワイワイと話をしている。
搭乗のアナウンスが聞こえるとゾロゾロとゲートをくぐって機内に決められた順番通り後ろから座って行くのだけど、笑顔の中に緊張しているのが良く分かる。俺も飛行機はこの歳まで乗った事がない。
手荷物を上の棚に乗せてからシートに座る。俺と大吾は二座席の所、女子は三座席のシートに座る。
最後に先生達が座るとCAが救命胴衣の説明をしてくれた。使いたくないけど。
そしてシートベルト着用サインが点灯してみんなでシートベルトをロックするとCAがみんながきちんとしてあるのを確認してから電話機で何か話していた。パイロットへの報告かな?
やがて、飛行機が誘導路から滑走路に出ると凄い音がして窓の景色が流れる様になり、シートに背中が押し付けられるようになると少ししてフワッとした感じがした。
窓の外を見ると地上がどんどん離れている。落ちないよなこれ。ちょっと思ってしまった。
十分程するとシートベルト着用のサインが消えてフリーになった。大吾と窓から見える景色を話していると矢田さんが、
「柏木君、私も窓の外見たい」
「「私も」」
学校の案内では機内での移動はトイレを除いて不要な移動は避ける様にと書いてあった。
「不味いんじゃないか」
「窓から外見る位なんだからいいじゃない。ほら、他の人もやっている」
「大吾、仕方ない。二人で変わろうか」
「そうだな」
「えっ、柏木君は窓際でいいわ。私がその隣に座るから」
矢田さんの考えが分かった。どう見てもあれをする気だ。
「いいよ。窓際でゆっくり見なよ。なあ大吾」
「ああ、そうした方がいい」
矢田さん、ちょっと考えが浅いよ。
それから、矢田さん、塚野さん、遠藤さんの順で十分位ずつ交代で窓際に座って外の景色を眺めている間にこの機に乗っている各担任の先生がそれぞれの場所で
「はい、皆さん。自分の席に戻って下さい。もうすぐシートベルト着用サインが出ます」
その声に賑やかになっていた機内が静かになって自分の席に座った。それから五分もしない内にシートベルト着用サインが点灯した。
離陸の時もそうだったけど座席の前にある大型スクリーンに機体下に付いているカメラが着陸の様子を映し出している。
結構怖い。その内、ドスンという大きなショックの元に着陸した。生きていた。
無事に着陸した機体は空港に接続されてドアが開くと前から順番に降りたけど何となく体に違和感が有った。
直ぐに空港の集合場所に着いてクラス毎に集まると矢田さんが
「何回乗っても飛行機って好きになれない」
「えっ、矢田さん、飛行機乗った事有るの?」
「一杯あるわ。海外にだって行ったし、北海道や沖縄だって行っているから」
「矢田さんって凄いなぁ。私今回が初めてで緊張しちゃった」
「うん、塚野さんと同じ。私も緊張しちゃった」
皆さん、そんな風には見えませんでしたよ。これどういう意味で話しているのかな?
「ねえ、この後バスでしょ。柏木君の隣に座りたいんだけど。心が落ち着かなくって」
「「私も」」
そっちに持って行く為かよ!
「それは無理だ。最初から決まっているだろう」
「あれは、教室で決めた事。ねっ、いいでしょう」
「駄目!」
「柏木、俺はいいぞ」
「大吾、冗談は止そう」
「本気だ」
という訳で、じゃんけんの結果、空港から湯布院まで矢田さん、湯布院から阿蘇山国立公園まで遠藤さん。
そこから黒川温泉まで塚野さん、そして黒川温泉から熊本までは大吾と一緒という事になった。
俺達より後の飛行機が十五分後に着く。航空会社の配慮だと学年主任が言っていた。それを待ってバス乗り場に行った。
結構な数のバスが待っている。どうも俺達の学校だけじゃない様だ。ここからはガイドさんがバス一台に一人付く。明々後日熊本空港を立つまで色々案内してくれるそうだ。
早速、大きなバッグをバスの下に入れて貰いバスに乗り込んだ。矢田さんを窓際にして俺がその横、反対側に塚野さんと遠藤さんが座った。
大吾は俺の後ろだ。隣に座る女子が矢田さんだったはずの席に大吾が座ったんで、いきなり顔が満面の微笑みになった。良かったね。
バスに揺られながらガイドさんの案内を聞いている内に眠くなったのか矢田さんが俺の方に寄りかかって来た。
朝、色々有ったし、飛行機も好きじゃないとか言っていたから疲れたのかなと思ってそのままにしているんだけど…。
なんか姿勢おかしくない。顔を俺の肩に付けて右腕を俺の左腕に回して思い切り柔らかい物を押し付ける様に目を閉じている。大吾が小声で
「悠斗、どうだ気分は?」
「知るか!」
大吾が隣の子と一緒に小さな声で笑っている。全く。
ふふっ、柏木君の腕にべったりくっ付いて寝た振り。思い切り胸を付けてあげている。私を一杯感じてね。柏木君。
俺の隣では塚野さんと遠藤さんが小声で
「見て、あれ。わざとだよね」
「矢田さん、結構な人だったんだ」
「遠藤さん、今頃分かったの?」
「何となくは思っていましたけど、こうやって事実を見せられるとちょっとですね」
「そうよね」
はぁ、俺の身にもなってくれ。そろそろ起こすか。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
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お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様
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