第58話 修学旅行はポジ争い


 中間考査の成績順位発表も終わった。何となくクラスの一部の女子の不穏な視線が注がれる中、それを無視して授業を受けた。


 右からの視線と後ろからの視線が荷電粒子の様に俺の体を貫いて行く。もしかして俺焼け死ぬの?

 家に帰っても梨花が何か言いたげに俺を見て来るが何も言わない。



 数日間そんな日々が続いた。土日が過ぎてその週の模試もしっかりと受けて迎えた金曜日、担任の榊原先生が朝の挨拶の後、


「皆さん、来週は修学旅行が有ります。今日のLHRは班決めを行います」

「「「「「おーっ!」」」」


 男子も女子も喜んでいる。それを聞いた俺は、直ぐに大吾の腕を掴んだ。

「何だ、悠斗?」

「俺達、親友だよな」

「あ、ああ」

 俺が直ぐに席を立とうとして悠斗に腕を掴まれてしまった。別の班にはなれそうにない。しかし想定されるメンバーが怖すぎる。


 

 榊原先生が出て行った後の教室はその事でもちきりだ。直ぐに塚野さんと矢田さんが

「柏木君、一緒だよね」

「柏木君。私もだよ」

「あははっ、そ、そだね。なあ、大吾」

「あははつ、そ、そだな」

 逃げられなかった。


「でも、もう一人は」


 俺は優子を見ると隣の子達と話をしている。そして俺の顔を見ると口パクで『だいじょうぶ』と言って来た。良かった。最近の彼女の笑顔で周りとも随分溶け込んだようだ。


「あと、一人誰にするかな?」

「わたし、駄目ですか?」


 声を掛けて来たのは文化祭の時、俺にたこ焼きの作り方を教えてくれた女子、クラス委員の遠藤早苗(えんどうさなえ)さんだ。



「俺はいいけど」

 大吾を見ると

「俺もいいよ」

 

 矢田さんと塚野さんが難しい顔をしているが、やがて

「私もいいよ」

「私も」


 遠藤早苗さん、髪の毛が背中の中程まで有り、目がクリっとした可愛い女子。ずっと前からこの子が柏木君を見る目には気付いていた。


 文化祭の時、同じ列という事で同じ班になってたこ焼きの焼き方を柏木君に教えた時は、完全に柏木君を意識しての事。挙句、お弁当作って来て挙げようかとまで言う始末。


 クラス委員だけど、そんなに目立った事をする訳は無く、普段大人しかったから気にしていなかったけど、ここに来て横滑りするように柏木君に近付くとは。でもこの子に何が出来るの?

「矢田さん、どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


「じゃあ、決まったな」


 ふふっ、矢田さんと塚野さんが、柏木君と因り戻した渡辺さんに気を取られている間に私が柏木君の傍に。


 この二人には悪いけど、柏木君の彼女に値しない。渡辺さんが一番の強敵。今だからこそチャンス。柏木君の心の中に入る事が出来る。



 そしてその日の最後の授業が終わりLHRになると榊原先生が


「行先は既に連絡している通り、羽田から飛行機で九州大分空港まで行き、バスで別府温泉まで行って一泊、阿蘇山を経由して黒川温泉で一泊した後、熊本まで行き一泊、翌日は熊本城とその他の名勝を見学して熊本空港から帰って来るというお肌に良い、…違った。九州の国立公園を回る修学旅行です。

 現地では班単位の行動となります。五人一組で七班作って下さい。そして班毎に纏まって下さい」

「「「「「はーい」」」」」


 五分も経たずに直ぐにまとまった。まあ、中休みもお昼休みも有ったしな。


「あら、早いわね。それでは、各班は行動計画を作って下さい。出来た班から持って来るように」


 それだけ言い終わると、先生は窓際のパイプ椅子に座って足を組んだ。綺麗な人は何しても絵になるな、うん!


「さて、俺達はどうするか?」

 大吾がのんびりと声を掛けると


「湯布院の名勝巡り」

「湯布院ベストセレクションツアー」

「わ、私は…」


 矢田さんと塚野さんが、ジッと遠藤さんを見ると

「「何?!」」


「そ、その…。柏木君と一緒に湯の坪街道をのんびり歩きたいです」


 ぐっ!その手で来たか。


 まさか、そんな手で来るとは。


「遠藤さん、湯の坪街道って何?」

「湯布院の駅からの道に色々なお店が並んでいて素敵なカフェやアンティークなお店とか湯布院の雰囲気が一杯並んでいる道です。

 名勝もとても良いですけど行くのに時間かかるし、それなら色々なお店をゆっくりと見て回れる方が良いかなと思って」


「悠斗。知らない所をガイドレスで行くより楽しめそうだな」

「ああ、俺もそう思うけど…」


 塚野さんと矢田さんに視線を流すと

「それもいいわね。確かに狭霧台や金鱗湖には行くだけで時間かかるし」

「そ、そうね」


 二人で馬車に乗って柏木君とゆっくりしたかったけど、矢田さんだけじゃなく、遠藤さんもいるとなると私だけという訳には行かないわね。


 金鱗湖、迷った振りして柏木君と二人だけになろうと思ったのに飛んだ伏兵だわ。


 俺は、大吾を見ながら

「時間も気にしないでのんびり出来るのはいいな」

「そうだな。湯布院はそれでいいとして、黒川はどうする」



 矢田さんがいきなり

「あそこは、湯巡りがいいわ」

 ふふっ、混浴、混浴。柏木君と混浴よ!


 矢田さん、絶対に何か企んでいる。


「柏木君、浴衣姿で湯巡りなんてどうかな?」

 塚野さんが凄い事言って来た。浴衣姿って水着よりヤバい。



「あの…」

「「なに、遠藤さん?」」

 また塚野さんと矢田さんが遠藤さんを睨んだ。二人共怖いんだけど。


「ここは、旅館から少し歩くと結構綺麗な場所があるって聞いています。湯巡りも良いですけど、一杯浸かると温泉に当たるって言われているし、湯巡りは一か所にして普段着で歩くのはどうでしょうか。浴衣は動きにくいから」

「「……………」」


「悠斗、遠藤さんの意見に賛成だ。黒川温泉は効能が強い良い温泉って聞いているけど、旅館でも入るし、外では一か所くらいにして、後は散歩も良いんじゃないか」

「俺もそう思っていた。後、熊本は自由時間が少ないからその場で決めるか」

「そうだな」


「じゃあ、私が行動計画表を作るので、作り終わったらみんなで確認してから先生に出します」

「うん、宜しく」

「遠藤さん悪いな」

「ううん、そんな事ない」



 なによ、いきなり班に入ってきたら柏木君と中山君に取り入って。あんたなんかに負けないからね。


 全く、普段大人しそうな顔して、抜け目ないわね。油断出来ないわ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


新作公開しています。読んでくれると嬉しいです。

お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様

https://kakuyomu.jp/works/16818093078506549056

宜しくお願いします。

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