第57話 静かな時間
二回の連休も終った。後三週間も経てば中間考査だ。なんだか色々有ってあっという間に時間が過ぎた感じだ。
月曜日、学校の最寄り駅まで優子と一緒に行った後、一人で学校に行き教室に入って自分の席に着くと
「柏木君、おはよう」
いきなり矢田さんが挨拶をして来た。気の所為か彼女、やたら胸をアピールして俺の顔をジッと見ている。もしかして昨日買った奴を…。いやいや朝から何考えているんだ。
柏木君が直ぐに反応した。可愛い。今日は刺繍のある方を付けて来た。彼が最初に選んでくれた奴だ。
昨日は本当に楽しい時間を過ごす事が出来た。こうしてゆっくりと彼の心の中に溶け込んで良ければいい。
柏木君と矢田さんの今の会話何?矢田さんの仕草、明らかに胸を強調したよね。そして柏木君がそれに直ぐに反応した。
まさか…。そんな事絶対に無い。私と会っている時なんて全くそんな素振り見せない。もしかして矢田さんが強引に…。
そうなら私も…でも私初めてだし。矢田さんは普段の口ぶりから明らかに経験者。柏木君も渡辺さんとそういう仲だった事は知っている。
まさかここで逆転なんて無いよね。もう覚悟しないといけないのかな。でも彼そんな気持ちなさそうだし。
どうやったらアレに持ち込む事が出来たんだろう。矢田さんに聞く訳にもいかないし。不味い、何とかしないと。
今日の朝、やっと梨花が口を利いてくれた。彼女曰く、もう一度陽子ちゃんの事を考えてくれないかという事だった。
過去のやり方は、とにかく俺への思いが強過ぎたから。だから今度はゆっくりと触れ合っていくからもう一度会えるようになりたいと言って来た。
俺は、恋人という目では見れないけど梨花の大切な友達としてならいくらでも会う。でも前の様な事はしないでほしいと言った。
梨花はそれを直ぐに陽子ちゃんに伝えたらしく、とても喜んでいたと言って来た。そして三週間後に迫る中間考査の勉強を考査ウィークに入ったら一緒にやって欲しいと言って来た。その代りそれまで会う事はしないと。
俺の言い方を過剰に捉えられた感はあるが、それなら良いよと返事した。
放課後は、図書室に行く。いつもの常連さんしかいない。偶に本を借りに来る人が居る位だ。
そんな時間が一週間程続いて十月に入った。その後も朝は優子と一緒に駅まで行き、お昼は大吾と食べて放課後は図書室にいるという静かな時間を過ごす事が出来た。これこそ俺が望んだ高校生活だ。
そして迎えた二学期中間考査ウィーク。月曜の放課後、何故か俺の周りには、矢田さん、陽子ちゃん、梨花そして少し離れて優子がいる。
大吾も誘ったけど、綺麗な花の足元には地雷が一杯だと訳の分からない事を言って一人でやるからと断られた。
図書室は考査ウィークに入ったおかげで一杯になっている。塚野さんは受付で勉強をしている。可哀想だけど仕方ない。
でもこの時期は本の貸出や返却は無いらしく、塚野さんも受付で勉強に集中している。
来週から中間考査だが、今週末も土日祝日と三連休だ。そしてこの三日間は、例によって図書館で午前十時から午後五時まで俺、梨花、陽子ちゃん、塚野さん、矢田さんという顔ぶれで勉強会。
この顔ぶれで固定化するのは避けたいが、それは俺自身が区切りをつけるしかない。
そして迎えた翌火曜から金曜までの中間考査ウィーク。この間は、流石に勉強会無しとした。俺自身が集中したいからだ。
四日間続いた中間考査も終り週末を迎えた。俺は土曜日の午前中と日曜日の午前中、道場で思い切り稽古をした。先週は考査の準備で来れなかったのでその分も含めての稽古だ。
稽古が終わるとやっぱり気持ちがいい。文句なしに爽快感がある。
そして次の週の火曜日。中央階段横の掲示板に成績順位表が発表された。大吾が
「不動の一位だな」
「まあな」
塚野さんは、十五位、矢田さんが何と二十五位に入って来た。優子は…十位だ。少し離れた所にいたので傍に行って
「優子、頑張ったな」
「うん」
えっ、どういう事?なんで柏木君が渡辺さに声を掛けるの?それにあの笑顔、なんで?
柏木君、別れたんじゃ無いの?
お兄ちゃん、何であの女に声を掛けたの?
悠斗さん…。
「大吾、優子。教室に戻るか」
「おう」
「うん」
三人で教室に戻りながら
「悠斗、また大胆な事したな」
「そうか、いつまでも隠していたって仕方ない」
「お前がそう言うなら構わないが」
これでまた一波乱ありそうだな。火の粉が降りかからない様にしないと。しかしこいつと居ると飽きなくて済む。
私は大きな誤解をしていただろうか。柏木君は矢田さんを選ばないと思っていた。渡辺さんなんか論外。だから敵は陽子ちゃん一人だと。
でも今の彼の言葉は、その考えが全く誤りだったと教えてくれた。彼が別れた理由を克服していたとしたら。不味い。陽子ちゃん以上の強敵だ。
悠斗さんは、あの人を憎んでいるとばかり思っていた。いつの間にあれだけの仲に。ここ数ヶ月、あの人は裏切る前の時の様な笑顔を見せていた。
私はそれを新しい男でも出来たからと思っていたのに。まさか彼と因りを戻すとは。一体どんな手を使ったんだろう。とにかくそれをはっきりさせない限り、今の私では勝ち目がない。
やってくれるわねぇ柏木君。流石私が好きになった人。何とかして、彼の選んだブラを彼の手で取って貰う状況を作るしかない。
しかし、渡辺さん。恐れ入ったわ。あれだけの事をしながら彼の心をもう一度引き寄せるなんて。強い女。最大の強敵かも知れない。
―――――
次回をお楽しみに。
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感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
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お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様
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