第53話 しばらくの平穏
矢田さんとの話も終り、二人で教室に戻ると塚野さんが怖い顔していた。
「柏木君」
「なに?」
「ちょっと話が有るんだけど」
「もう時間無いから」
「じゃあ、次の中休み」
「放課後じゃ駄目?」
「放課後で良いの?」
「今日も図書室行くから」
「じゃあ、その後で」
ふふっ、塚野さんが焦っている。でももうあなたのチャンスは無いわ。彼は私と付き合うのよ。
悠斗の奴、一番大事な人を最後にするとは。まあこれで今回の件で俺に声を掛けて来る事はないだろう。しかし、悠斗と塚野さんか。どうなるんだ?
放課後になり少しだけ時間を置いてから図書室に向かった。図書室に入ると受付で塚野さんに頭をコクンと下げるといつもの窓際の席に行った。本を広げて読んでいる内に眠くなりそのまま寝てしまうと
「柏木君」
肩を揺らされた。
「柏木君。もう君一人だよ」
周りを見ると誰もいない。ちょっと気が緩んだかな。
「あっ、出るよ」
「昇降口で待っていて」
「分かった」
話が有るって言っていたけど…。塚野さんが現れた。
「一緒に帰れるよね」
「いいけど」
靴を履き替えて校舎を出ると
「二つ質問があるの」
「なに?」
「一つ目は、渡辺さんの事。最近柏木君と彼女の仲がとてもよく見えるんだけど」
「うん、友達に戻ったから」
「えっ?!でも彼女は…」
「いいんだ。俺がいけなかった事が一杯有った。ああなったのは優子だけの責任じゃない。だから戻った」
「それって、また付き合うって事?」
「それは無いよ」
「そう、じゃあ二つ目。矢田さんと何かったの?」
「それは言えないけど、彼女に対しても俺が悪かったから。謝っただけ。だから彼女共友達に戻った。それだけ」
「そうなのか。心配しちゃった」
「心配?」
「だって…。私、柏木君の事が好きだって言ったよね。だから渡辺さんや矢田さんに取られちゃうのかなと思って」
「それは無いよ」
「じゃあ、私?」
「それはまだ。そうだ。今度の祝日空いている?」
「えっ?それって」
「うん、外で会わないか?」
「えーっ、デートの申し込み?」
「それは考え過ぎ。少し話したいなと思って。俺塚野さんの事全然知らないし。それで返事は?」
「勿論いいよ。断る事なんか絶対にない」
「じゃあ、渋山で良いかな。午前十時にナナ公前交番前で」
「うん」
駅の改札で別れた。柏木君がデートに誘ってくれた。彼は違うって言ったけど男の子が女の子に外で会おうって言ったらデートだ。やった。彼は私を選ぼうとしているんだ。だから私の事知りたいって言ったんだ。
渡辺さんと矢田さんは彼の頭の中からは除外されているのが分かった。でも渡辺さんの妹は?彼女は侮れない。もしかして彼女と比較する為に私の事を知ろうとしているの?
でもそれならそれでチャンスだ。私の魅力を思い切り伝えればいい。もう肉体的なアピールは十分にした。勿論その先を求められたら…。彼ならいい。もう水の中だけどファーストキスだってあげたんだ。
土曜日を迎えた。今週は三連休だ。そして来週末も三連休。この三連休の土日は道場で稽古をする事に決めた。
梨花が陽子ちゃんと一緒に遊んでくれと言われたけど、来週末の三連休にして貰った。彼女には、簡単じゃないけど上手く言い聞かせるしかない。
今だって優子と陽子ちゃんの仲が悪いのに、優子と友達に戻ったからって変に勘違いされてこれ以上、仲を悪くする事は出来ない。だから次の休みの時、はっきりと言わないといけない。
祝日の月曜日。俺は二十分前にナナ公前交番に行くと、塚野さんはもう来ていた。
「おはよ塚野さん。早いね」
「おはよ柏木君。嬉しくって早く来ちゃった」
「そ、そうか」
「どこ行く?」
「取敢えず歩こうか。寺益坂の元公園に出来たビルに行ってみよう」
「うん」
彼は歩いている間は何も話さない。だから私も話さない事にした。彼から話し始めるまで待つつもり。
そのビルに着くと屋上に行くエスカレータに乗った。この街の時間ではこの時間はまだ早い。ベンチは空いていた。二人で座ると
「塚野さん」
「は、はい」
「そんなに緊張しなくても。今日会って貰ったのは、もっと塚野さんの事知りたくて」
「私の事?」
「うん、君の事。図書委員で同じくクラスの女の子位しか知らない」
「そうかあ。そうだよね。でも私も柏木君の事知らない。同じクラスの男子で頭が良いって事位」
「そうだね。じゃあお互いに話そうか。塚野さんって休みの日は何しているの?」
こんな事から私は柏木君に話し始めた。普段の土日は本を読んで過ごす事が多い事。読んでいる本は純文学やサスペンスものもあれば、ラノベもWEBで読むとか。
家族は、お父さんは警察官で警視庁に勤めているって言ったら驚いていたけど。弟がいる事も話した。
彼女が表情を変えながら身振り手振りで話をする姿が可愛い。言葉の使い方も毒が無い。ご両親から素直に育てて貰ったんだろうな。
「そうか。お父さんが警視庁にいるなんてちょっと驚いたね」
「お爺ちゃんもそうだから。でも家では優しいお父さんお爺ちゃんだけど」
なんか、俺恐くなって来た。やっぱり考え直そうかな塚野さんの事
「親を警察官に持つ女の子って嫌い?」
「そんなことないけど、やっぱりドキってする」
「普通はそうだよね」
「そういえば弟が居るって言っていたね」
「うん、康文(やすふみ)。今年中学三年。来年は受験」
「そうか、大変だな」
「全然大変じゃない。滅茶頭いい。高校も偏差値七十三の所に行く」
「な、七十三。何それ。確か都内でトップのところだよね」
「そう。だから心配していない」
益々、ハードル高くなった。
「もう、お昼になっちゃった。何か食べる?」
「ここの二階にレストランがある。少し高いけど」
「駅前の〇ックにしようか」
「そうだね」
考えて見ると図書館での勉強の時とか、プールに行った時とか随分一緒に食事をする機会があるな。
今も一緒に〇ックで食べているけど違和感がないや。でも好きという感情は全然出て来ない。友達と言う意味ではとてもしっくりするけど。
この後は、彼女の希望で西急ストリームや西急スクエアをウィンドウショッピングした。洋服を見たりアクセサリを見たりしていると塚野さんはとても嬉しそうな顔をしている。
元々ショートカットの可愛い顔だから笑顔だともっと可愛く見える。
午後四時になって今度はトドールに入った。
「塚野さん、来週も会ってくれるかな?」
「えっ、来週も?」
「あっ、ごめん。嫌だったらいいよ」
「そんな事ない。絶対にない。とっても嬉しい。柏木君と二週連続で会えるなんて夢みたいだよ」
彼女は思い切り体で表現している。可愛い。
「でも、学校ではこうして会った事誰にも言わないで。理由は分かっていると思うけど」
「勿論。はっきりするまでは言わない」
「そ、そうだね」
どっちにはっきりするんだろう。まだ分からないや。
柏木君とは私が降りる駅で別れた。来週も彼とデート出来るなんて夢みたい。もっと一杯話したい。もっと一杯私の事知って欲しい。
ふふふっ、彼の心の中では私もう確定なのかな。あれっ?そういえば彼の事何も聞いてなかったな。来週教えて貰うかな。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
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お馬鹿な彼と恋愛不向きな私の恋愛模様
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