第52話 決めるしかないか


 俺は、家に戻って夕飯を食べ終わった後、大吾に電話して優子と川べりで歩いた時の事を話した。


『悠斗がそこまで吹っ切れたならもう悩む事は無いな。矢田さんにはお前がしっかりと説明してあげれば問題ないと思う。

 でも、渡辺さんとそこまで戻ったとなると陽子ちゃんがどう思うか心配だな』

『心配?』

『ああ、彼女は姉の事を許していない。悠斗は心の整理がついてもあの子が心の整理が出来るかは別の話だ。事によっては姉妹で揉めるぞ。

 お前は渡辺さんと戻る事は無いと言っているが、彼女も妹の陽子ちゃんもそうは思っていない。

 渡辺さんはいずれお前と元に戻れると思っているだろうし、陽子ちゃんは絶対にお前を渡したくないだろうからな。

 そしてどちらを選んでも姉妹に大きなしこりが残る』


『そういう事か』

『選択肢はもう一つしかないだろう』

『それはそれで大変な事になりそうだけど』

『今までの事を考えれば大した事ないだろう。早く決めてしまえ。最初は五月蠅いだろうがそのうち静かになる。

 でないといつまでも火の粉がくすぶったままになるぞ。大火事にならない内に消してしまうしかない』

『…分かった。大吾ありがとうな』

『まあ、大学に行った辺りで俺が世話になるかもしれないから、その時返してくれ』

『了解だ。じゃあ学校で』



 俺は、大吾と話をした後、ベッドの端に座って考えた。確かに陽子ちゃんを選んでも優子との姉妹仲が相当に悪くなるだろう。


 優子と再度付き合う気は無いが、前の様に接したら陽子ちゃんは優子に対して相当の悪意を持つ可能性がある。

 陽子ちゃんには悪いけど付き合う訳には行かないな。


 矢田さんとは上手く行くとはとても思えない。あの人が心のそこで何を考えているか見えないからだ。


 三谷の事に関してもどうやって一カ月もの重傷を負わす事が出来たのか。まさか反社繋がりとは思いたくないが、彼女のボディガードは十分にそれを思わせられるからな。


 だとすると塚野さん。でも俺は本当にあの子の事が好きなのか。図書委員で頑張っている位しか知らない。プールに行ったけどそれだけ。


 彼女の事は何も知らないし、今は付き合う事なんて出来ない。でも彼女ははっきりと俺を好きだと言ってくれた。

 少しずつでいいから聞いてみるか。俺の事も知らないだろうからな。



 次の日は、家でのんびりした。朝寝坊して本読んで昼寝した。偶にはこんな生活もいい。



 次の日の朝、駅に行くと改札で優子が待っていた。

「悠斗おはよう」

「おはよう優子」

「一緒に登校して良いかな?」

「いいけど」


 本当に悠斗は私の事を許してくれたんだ。なんて嬉しい事なんだろう。

一緒に改札を入って、一緒に同じ車両の電車で隣同士で吊革につかまって、学校の最寄り駅で一緒に降りた。嬉しくて堪らない。でもここまで。今はこれで充分だ。


「悠斗、私先行くね」

「良いのか?」

「うん」


 優子が早足で歩いて行った。俺は歩く速度を少しだけ落とす。何も話さずにいたけど、今はこれでいい。

 簡単にスパッと前の様に戻るなんて不可能だけど、その内もっと話せる様になるだろう。



 学校に着いて、教室に入ると俺は直ぐに

「矢田さん、おはよう。昼休み良いかな?」


 不安そうな顔で俺を見ると

「うん」


 柏木君が代休前に私に話しかけるなと言って来たけど、今日は私に話が有ると言って来た。何か変化が有ったんだろうか。


 もしこれを言われなかったら、私が強引にでも昼休みにでも彼に元に戻ってくれる様に話をするつもりでいた。とにかく昼休みを待つしかない。



 俺は大吾と塚野さんに挨拶をした後、優子を見ると明るい顔して隣の子と話をしている。俺の方を見ると微笑んだ。



 私、塚野沙耶。おかしい。最近柏木君と渡辺さんの仲が随分戻った様な気がする。さっきも渡辺さんが教室に入って来た時、まるであの件の前の様な明るさだった。まさか、柏木君と仲が戻ったなんて無いよね。



 昼休みになり、俺は大吾と一緒に学食でお弁当を食べた後、

「大吾、矢田さんと話してくる」

「ああ、頑張れよ」



 教室に戻ると矢田さんは自分の席で不安そうに外を見ていた。

「矢田さん。良いかな」

「うん」


 柏木君が矢田さんを連れて教室を出て行った。矢田さんが今日の朝、教室に入って来た時は真っ暗な顔していた。

 柏木君と矢田さんの間にも何か有ったんだろうか。私だけが取り残されている様な気がする。どうすればいいんだろう。



 俺達が校舎裏の花壇の前に有るベンチに行くと先客はいなかった。

「矢田さん、座ろうか」

「うん」



「矢田さん、月曜日に言った事なんだけど」

「……………」

 やっぱりあの事なの。


「ごめん、俺の言い方が悪かった。矢田さんは何も悪くない。だから、もし君さえ良ければ、また友達に戻って普通に話せる様になれないかな?」

「えっ?!」


 私は、驚きと一緒に体が反応してしまった。すぐ隣にいたからだけど抱き着いてしまった。そして

「許さない。あんなひどい事言ったんだから。友達じゃ駄目。恋人になって」

「えっ?!あの離れてくれると」

「駄目。プールの時、もう一杯抱き着いたんだから、この位いいでしょう」

「でも学校だから」

「学校じゃなければいいの?」

「それも困る。とにかく離れて」

「もっと」

「駄目」


 俺は矢田さんの肩を持って離すと

「とにかく先週と同じに戻ろう。月曜日の事は無しで」

「嬉しいけどぅ。なんかスッキリしない。ねえ私と付き合って」

「それは出来ないよ」

「なんで?」

「今は、そんな気分じゃないから」

「じゃあ、待てばいいの?」

「そんな事分からないよ。とにかくもう教室に戻ろう」

「もう、仕方ないなぁ」


 ふふっ、思い切り抱き着いちゃった。彼の匂いが好き。もっと抱き着いていたい。本当はもっとその先まで行きたいけど。彼は事を急ぐ事を嫌う様だ。じっくりと行こうかな。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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