第51話 悠斗の思い


 俺は大吾と別れて一人で家に帰った。部屋に入ると梨花が話しかけて来たけど後にして貰った。


 俺がなんでこんなに優子の事で気持ちが引き摺っているのか分からなかった。もうあいつの事は区切りがついたはず。


 五反田から聞いたからって、そういう事かで割り切れば良い話だったかも知れない。やはり優子とこういう事になってしまった事に納得がいっていないんだろうか。


 でも今の俺の気持ちは優子と元に戻ろうなんて思っていない。新しい関係なんて興味もない。


 じゃあ、なんで。…やっぱり優子の事引き摺っているのか。それは無い。明日と明後日は休みだ。何処か出かけて頭を切り替えて考えるか。




 お兄ちゃんが家に帰って来た時、考え込む様にしながら自分の部屋に入ってしまった。声を掛けたけど後にしてくれと言われた。


 本当は、明日明後日の休みに陽子ちゃんと一緒にお兄ちゃんを誘って遊ぼうと思っていた。でもあの様子だと難しいかも知れない。でもまた何か有ったのかな。




 俺は、考えが全く進まないままに時間を過ごした。自分で何に引っ掛かっているのかも分からない。


 結局、優子が三谷にされるままになっていて、やがて優子も自分で進んでする様になった。

 それを俺は三谷があんな動画を送って来る迄気付かなかった。送って来なければそのまま続いていたかもしれない。


 だから頭に来ているのか。矢田さんが三谷を紹介したから頭に来ているのか。


 違うな。三谷が俺に動画を送って来る迄気付けなかった自分自身の馬鹿さ加減に頭に来て引っ掛かっているんだろうな。


 頭に来るけど自分自身に対してじゃあどうしようもない。消化するのに時間は掛かるがもうこれで良しとするしかないじゃないか。

 

 俺が自分で自分の馬鹿さを飲み込んでしまえばいい。大吾が言っていたように、陽子ちゃんでも塚野さんでも選べばいい。


 矢田さんには休み明けに謝っておこう。きっかけを作ったのは彼女だが、彼女の言う通り何も悪い事はしていないんだから。


 でも矢田さんと付き合うのは無理かな。友達なら良いけど。彼女それでうんというかな?


 文化祭代休は二日有る。自分自身でもう一度ゆっくりと考えてみるか。


 

 コンコン。


 ガチャ。


「お兄ちゃん、ご飯だよ」

「ああ、今いく」


 お兄ちゃんの声の色が変わった。帰って来た時とは違う。一人で部屋にいたはずなのに何か有ったのかな?



夕飯の時

「お兄ちゃん、明日、明後日休みだよね」

「そうだな」

「ねえ、明日でも明後日でも両方でも良いんだけど一緒に遊ばない」

「陽子ちゃんと一緒か?」

「うん」

「梨花、明日、明後日は考え事があるんだ。だから会うとしても次の三連休がいい」

「分かった。陽子ちゃんに言っておく」



 俺は次の日、一日中部屋にいても頭が思考停止にしかならないだろうと思い、目の前の景色を変えようとデパートのある街の近くの川べりを散歩する事にした。そこは遠くに山々が見えて気分を変えられる。



 駅に着いて改札を出て左に曲がり道路に出て更に左に曲がって真直ぐ行けば川に出れる。川べり迄歩いてから川下の方へのんびりと歩いた。


 この季節はまだ暑いが川の傍を歩くと頬に当たる緩やかな風が気持ちいい。一人で歩いていると

「悠斗」


 振り向くと優子が居た。

「どうしたんだ。こんな所で」

「SCの中にある本屋に行こうとしたら悠斗の姿を見かけて…それで付いて来ちゃった」

「そうか」

 

 悠斗が私を拒否しない。本当に話せる様になったんだ。

「一緒に歩いてもいい?」

「別に構わないよ」

「えっ!ほんと?」

「何驚いているんだ。話してもいいって前に言っただろう」


 もう優子とは一度区切りが付いている。こいつが悪かったのは分かっているが俺がそれに気付かない馬鹿だった事も考えると、もう無下にこいつを拒否する事は出来ない。



 私は、悠斗の隣を歩いた。何も言葉を掛けなかった。彼も何も話してこない。でもこうして彼の隣を歩くまで距離を戻す事が出来た。


 ゆっくりでいい。私の間違いはもう消せないけど、それでもまたやり直せる機会が来るかもしれない。



「優子、随分歩いて来たな。元に戻るか」

「うん」


 何も話さなくてもいい。こうしているだけでも今は十分に幸せ。彼が遠くを見たり川を見たりしながら何か考えている様だけど、声を掛ける雰囲気じゃないから。



 やがて駅まで戻ると

「優子、俺は本屋に行くがお前はどうする?」

「私は元々本屋に行くつもりでここに来たんだ」

「そうだったな」


 二人で本屋に行った。彼は数学と物理の問題集を一冊ずつ買った。私も数学の問題集を一冊買った。でも何も会話は無い。


「優子、俺は帰るから」

「もうお昼過ぎだよ」

「今度にしよう」

「うん。今度ね」


 今度にしようと言ってくれた。なんて進歩なんだろう。もっとそげなく断られると思った。私も帰るつもりでいたから私達の最寄り駅まで一緒に帰れた。


「じゃあな」

「うん」


 俺は、優子と川の傍で会ってからずっと確かめていた。自分の気持ちを。こいつと歩いていて気持ち悪くないのかってくだらない事を。


 優子は何も話しかけて来なかった。それは俺も助かった。下手にペラペラ喋られてら嫌になっていただろう。だから一緒に歩いたとはいえ、この静けさは良かった。


 食事に誘われたけど、流石にそこまでは出来なかった。でも今度は出来るかもしれない。だから今度にしようと答えた。


 友達位には戻れるかもしれない。でもその先は無理だろうな。自分がどれだけ狭量か今回の件で良く分かった。


 さて、帰ったら大吾と話すか。しかし、今回の事はあいつに頼りっぱなしだな。でもいずれ返す事来るかもしれない。



 お姉ちゃんが帰って来た。滅茶苦茶明るい顔をしている。こんなお姉ちゃんの顔見たとは何か月ぶりだろうか。


 出かける前までは、いつもの暗い顔をしていたのに。まさか、新しい男でも見つけたのかな。この人にはそんな事がお似合いだけど。


 本当はこの文化祭の代休二日間のどちらかで悠斗さんと遊ぶつもりでいた。でも梨花ちゃんから週末の三連休なら良いと言われた。


 この人の事なんてどうでもいいけど、こんな嬉しそうな顔をされると何故か頭にくる。いいや、私は悠斗さんがいる。一緒に遊んで気持ちを変えればいいんだ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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