第50話 矢田さんの言い分


 文化祭が終わった次の日は片付けだ。自分のクラスの分だけでなく校内すべてを片付けて今日は終了だ。


 担任の榊原先生が、全部終わったので帰宅をする様に言って教室を出て行った。


 俺は、大吾に声を掛けた後、矢田さんに

「矢田さん、聞きたい事があるから時間無いかな?」

「良いわよ」

 何だろう聞きたい事って?プールでの事じゃないだろうし。



 俺一人だと、昨日五反田から聞いた事に齟齬が出るかもしれないので大吾に一緒に来て貰う事にした。


 校舎裏のベンチに来ると

「矢田さん座って」

「うん、何話って?」


「昨日五反田から三谷の事を聞いた」

「えっ?!」

 あの馬鹿何口滑らせているのよ。



「矢田さん、君が三谷に声を掛けてドズニーランドで優子に近付けさせたというのは本当か?」

 ここで嘘をついても仕方ないか。


「本当よ」

「じゃあ、その後、三谷が何をしたかも知っているのか?」

「知っているわ。私は渡辺さんと友達になりたかっただけ。五反田では役に立たなかったから彼に任せたのよ。

 勿論、あいつが渡辺さんにあんな事するなんて想像もつかなかったわ。知ったのは大分後になってから」


「なんで知った時、俺に話してくれなかった?」

「それは、無理でしょう。あれはあくまで渡辺さん自身の選択によるもの。私が仕掛けた訳でもない。

 三谷があんな事しても、本当に渡辺さんが嫌だったら柏木君に助けを求める事は出来たはずよ」


「もう一つ聞く。三谷をやったのは君か?」

「私が出来るはずないじゃない。柏木君なら簡単だろうけど」

「じゃあ、誰が?」

「それは言えないわ。私のあずかり知らぬ所よ」


 俺は、矢田さんが三谷をそそのかして優子を貶めたとばかり思っていた。だが彼女は、優子と友達になりたかっただけ。


 優子を貶めたのは三谷が勝手にやった事と言っている。それにいくらでも優子は途中で俺に言えたはずだと。優子自身が自分の判断で三谷としていたと。


 その通りかも知れない。今迄聞いて来た事と一致している。しかし、この子が三谷を優子に近付けさせなければこんな事にはならなかった。


「そうか、分かった。矢田さんは、優子と友達になりたいから三谷を利用した。でも三谷が勝手に暴走してしまったと言っているんだ」

「その通りよ」



「矢田さん、確かに三谷が勝手に暴走した事の責任は君に無い。それは分かるけど…。俺はそれでも君を許す事は出来ない。もう声を掛けないでくれ」

「えっ?!なんで。私、何も悪くないじゃない。やったのは三谷だし、それに渡辺さん自身の判断であいつとしていたんでしょ。何で私が柏木君に声を掛けちゃいけないの?」


「君の言っている事は正しいよ。責任も無い。でも俺は心情的に君を許せない。君が三谷を優子に近付けなければ、こんな事にはならなかった。それだけだ」

「そんなぁ…」


「大吾、行こうか」

「そうだな。矢田さん。俺も悠斗と同じ気持ちだ。あなたがした事に悪い事は無い。でもきっかけを作ったのはあなただ。俺も悠斗もそれが許せない」




 柏木君と中山君が去っていく。なんで。私悪い事していなのに。嫌だよ。せっかくプール迄行って彼との距離を縮めたのに。




「大吾、付き合わせて悪かったな」

「構わない。悠斗が矢田さんに対してどんな気持ちかはっきり知りたかったから」

「ありがとう」

「悠斗、矢田さんにはあんな事言ったけど、これからどうするんだ?」

「何も無いよ。彼女とは当分話す気になれない。あの子が悪くないのは分かっている。でも原因を作ったのは確かなんだ」


「なあ、悠斗。それってまだ渡辺さんと別れたことを後悔しているのか?」

「それは無い。でも優子から話を聞いて、五反田から話を聞いてそして今、矢田さんから話を聞いた。

 俺は、どこかで判断を間違ったんじゃないかって思ってしまったんだ。今更優子と元に戻ろうなんて思ってはいない。

 でも自分がした事に間違いが有ったんじゃないかという思いが頭の中に出て来てしまったんだ」


「悠斗。お前は悪くない。誰だってあの状況なら同じ事を思う。言い方きついがあの時自分がこうすればこんな事にならなかったと思うのは、驕りにしか過ぎない。

 どうしても気になるなら渡辺さんともう一度話してみる事だ。それで何が解決できるわけじゃないだろうが、あの時のこうすればと思っているなら彼女と話すのも一つの手だ」


「…大吾。いつも助けてられてばかりだな」

「何言っているんだ。親友じゃないか。それに俺だってその内、恋愛巧者の悠斗君に教えを乞う事も有るさ。まあ相手も心当たり無い現状じゃ、それも当分ないだろうけどな」

「はははっ、大吾は面白い事言うな」

「俺そろそろ帰るよ。家の手伝いしないといけないんだ」

「引き留めて悪かったな」

「良いって事。じゃあ休み明けにな」

「ああ、休み明けにな」



 明日と明後日は文化祭の代休で休みだ。俺の頭の中ももう一度整理してみるか。




 私は、柏木君と中山君が去った校舎裏のベンチで一人でいた。確かに三谷を渡辺さんを近付けたのは私。でも三谷がした事に私は関係ないのに。


 柏木君は三谷を渡辺さんに近付けさせた事を気にしている。でもそんな事言ったって。私じゃどうしようも出来なかった。


 私だって三谷にやりすぎだって注意はした。でもあいつがくだらない事言うから懲らしめた。おかげであいつの過去の悪事が明らかになってあいつを少年院に送る事も出来た。


 どこがいけないのよ。私の何が悪いのよ。


 柏木君。嫌だよ。君の傍に居たいんだよ。君と話していたいんだよ。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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