第49話 文化祭での出来事


 私、矢田康子。放課後、2Cに行った。教室の中を見ると五反田が、女の子と話をしている。

 イケメンだけどそれだけの中身のない男。勉強は出来ないしものの考えも浅い。だから利用価値があると思ったのだけど、渡辺優子の時は上手く行かなかった。でも今だからこそ利用価値はある。


 五反田がこっちを見た。私が手を振るとこちらに寄って来た。

「矢田さん、何か用?」

「うん、ちょっと五反田君にとっていい話かも知れないから。一緒に帰らない」

「いい話?」

「もしかしたらだけど、ちょっと良いかな?」

「分かった、バッグ取って来る」


 五反田はさっきまで話をしていた女子にさよならを言うとこっちに来た。女子達は不満顔だけど。



 校門を出てから

「ねえ、あんたまだ渡辺さんに好意持っている?」

「渡辺さん?あの子ドズニーで会って以来だからな。三谷と関わっていたという噂もあるけど」

「好意持っているかと聞いているんだけど」

「うーん、そりゃあ、あれだけ可愛いし、無いと言ったら嘘になるよ」

「そう、今彼女と付き合えるかもしれない絶好のチャンスかもよ」

「どういう意味だ?」


「文化祭があるじゃない。彼女は、柏木君と別れてからずっと一人。文化祭だって相手がいないから寂しいと思うの。そこにあんたが優しく寄り添えば上手く行くかもしれないよ」

「そりゃあ無理だろう。一度は嫌われたんだぜ」

「あの時は、柏木君がいたからよ。声を掛けても駄目だったらそれでもいいじゃない」

「なるほど、それもいいか」


「彼女は、模擬店の当番が土曜日は午前十二時から午後一時、日曜日は午後二時から午後三時。それ以外の時間なら空いているわ」

「そう言われてもな。土曜日は他の連中と回る予定なんだ」

「じゃあ、日曜日にしなさいよ。チャンスが目の前にあるんだから。お昼休みなんか丁度いいんじゃない。居る場所教えてあげる」

「分かった。やってみるよ」



 これでいい。五反田と渡辺さんがお昼仲良く食べている所を柏木君に見せれば生まれそうな芽を完全に摘むことが出来る。




 土曜日の朝、梨花はいつもより早く出かけた。クラスで喫茶店をやるらしい。絶対に来てと言われたので、大吾と行くと言っておいた。



 教室に入ると皆気合が入っている。

「おはよう大吾」

「おう、おはよ悠斗」

「おはよう、柏木君。ねえ、今日一緒に回らない」

「矢田さん、私も一緒に」


「あーっ、俺は大吾と…。なあ。あれ?」


 席にいない。また他の男子の所に逃げやがった。


 悠斗が矢田さんと塚野さんから言い寄られている。危ない、危ない。また巻き添えを食う所だった。早く決めないからだよ。どうせ、文化祭の空き時間一緒に回ろうとかって話だろう。



 午前十時になり生徒会長から開始の声が掛かった。一番班はもう行っている。

「さあ、柏木君。何処から回ろうか」

「あっ、いや俺はここで本を読んでいるよ」

「駄目だよ柏木君。一緒に行こう」


「じゃあ、昼からという事で」

「えーっ、ねえ、じゃあ午前中が私で午後が矢田さん。但し午前十二時から午後一時までは三人一緒に昼食。

 私は午後二時から当番だから午後二時から好きにすれば。矢田さんも午後三時から午後四時まで当番でしょ」

「それならいいけど」


「あの、俺の意思は?」

「悠斗、諦めろ。今日は付き合ってやれ」

「大吾も一緒でいいだろう」

「俺は明日にするよ」


「じゃあ、決まりね。柏木君。行こう」



―柏木君。ちょっと可哀想。

―でも仕方ないんじゃない。

―あの二人にガードされて私達近寄れないし。

―そだね。柏木君チーン!



 午前中は、塚野さんに引き摺られ、体育館の催し物を見たり三年の教室の催し物を見たりした。


 午前十二時に2Aの模擬店に行って矢田さんと合流。三人でクラスのたこ焼き、他のクラスの焼きそば、二人はクレープ、俺はフランクフルトを買って、飲食エリアで食べた。

 2Aの模擬店に行った時は、優子が盛り付けをやっていてお客の生徒が結構並んでいた。


 午後一時からは、矢田さんと野外イベントや体育館の催し物を見た。そして二人で午後三時少し前に2Aの模擬店に行くと塚野さんがやはり盛り付けをしていた。

 彼女可愛いし、まあ当たり前か。


 俺の当番の時は、大吾が焼きで盛り付けは矢田さん、会計は別の女の子。でも大吾は人気ある。午後三時だというのに女子が随分集まっていた。


 俺はと言うと、最初に学食の冷蔵庫に行って具材の入った段ボールを一回取りに行って終わりだ。うん、俺にピッタリの役目。



 次の日は、朝一番の当番だ。今日は生徒の父兄や関係者も入って来る。生徒会長の開始の声が掛かる前に準備開始だ。


 しかし…。どうすればいいんだ。昨日見た限りでは、溶いたたこ焼きの粉を半球状に凹んだ所に入れて、後は具材…。

 どれから入れればいい?悩んでいると見かねた女子が


「柏木君。教えてあげる。最初はタコ入れて、次に刻みキャベツをこう入れて…」

「柏木君。私が教えてあげる」

 急に矢田さんが割込んで来た。


「いや、今彼女が教えてくれているんで、二回目以降分からなかったら教えてください」

「柏木君ありがとう」

 何故か教えてくれている女子の頬がポッと赤いのは気の所為か。その分矢田さんが頬を膨らませているけど。


 一回目の具材を全部入れてその後、生地というらしい白い液体を万遍なくかけて、後はコロコロと…上手く行かず。結局さっきの女子に教えて貰って一回目が出来た。

 何とか丸く出来た。中々の自信作。


「ありがとう」

「うん、今度はお弁当作ってあげようか?」

「いや、それは流石に…」

「柏木君。お客様が来たわよ。二つ目のプレートも早く準備して」

「あっ、うん」


 教えてくれた女子が矢田さんを見て頬を膨らませてふん!って言って後ろに下がった。彼女は具材を切る役目らしい。


 最初のトライで要領を覚えた俺は、次からは上手くできる様になった。でも矢田さんが、なんだかんだとアドバイス?をくれるけど。


 午前十一時になり塚野さんのグループがやって来た。そのまま交代すると

「大吾、行くか」

「おう」



 昨日夜の内に大吾には今日の予定を言っておいた。最初は梨花と陽子ちゃんのクラス1Aで催している喫茶店に行く事だ。


 早速行くと十人ぐらいが並んでいた。人気あるんだ。俺達も並んで入口でチケットを買って中に入ると


「お兄ちゃん」

 梨花がいきなり声を掛けて来た。


「こっち、こっち。大吾さんも座って。陽子ちゃんお願い」

 俺達を手招きしながら空いている席に連れて行く。そして陽子ちゃんが元気よく返事した。


「はい!」


―ねえ、あの人、バスケの中山先輩でしょう。

―格好いいわねえ。

―この前の試合でもポイントゲッターで滅茶苦茶目立ったらしいよ。

―へぇ。今度の試合私も見に行ってみようかな。


「大吾、人気あるな」

「お前程じゃないさ」



「悠斗さん、中山さん。いらっしゃいませ。何にしましょうか」

「お勧めで」

「俺も同じ」

「かしこまりました」


 お勧めは、紅茶とチーズケーキのセットだ。


 陽子ちゃんが離れると梨花が寄って来た。

「お兄ちゃん、今日のお昼は?」

「別に。大吾と一緒だけど」

「じゃあ、私と陽子ちゃんも一緒でいい。午前十二時に終わるんだ」

 俺は大吾の顔を見ると


「俺は全然構わない」

「じゃあ、そうするか。ここ午前十二時少し前に迎えに来ればいいか?」

「うん!」



 梨花が、陽子ちゃんの傍に行って何か話している。陽子ちゃんの顔がちょっと赤くなって下を向いてしまった。どうかしたのか?



 紅茶とチーズケーキはとても美味しかった。それを食べてから一度教室を出て、時間を合わせる様にもう一度1Aに来ると教室の外で二人が待っていた。


「お兄ちゃん何食べる?」

「そうだな。2Aの売上に協力して、後は二人の好きな物で良いよ。良いよな大吾」

「勿論だ」



 2Aに梨花と陽子ちゃんを連れて行くとクラスの人が驚いた顔して

「柏木君、その子達って?」

「ああ、俺の妹の梨花と友達の陽子ちゃん」

「初めまして。兄がお世話になっております」


 梨花の言葉に担当の生徒達が固まってしまった。そして

「「「「「「こ、こちらこそ、お世話になっています」」」」」


 何故か皆でハモった。その後、笑ってしまったけど無事にたこ焼きを三パック買って、二人のクレープを買いに行って、四人分の焼きそばを買いに行って飲食エリアに行った。



 四人で食べ始めると

「お兄ちゃん」


 梨花の視線の先に優子が座っていた。一人で食べているんだ。その時は何も感じなかったけど、優子が食べ終わる頃になって五反田がやって来た。


 そして何か優子に話をしている。どうしたんだ。優子は迷惑そうだけど五反田が何をする訳でもない。


 そのまま見ていると優子が俺達に気が付いたのか、少しだけこっちを見た後、五反田に何か言って一人で飲食エリアを離れて行った。


「何、あれ。もう他の男に色目使っているの?」

「お姉ちゃん…?」


 五反田が納得いかない顔でテーブルにいる。どういう事なんだ。何故か気になって

「皆、ちょっとここで待っていてくれ」

「悠斗、俺も行く」


 大吾と二人で五反田に近付いて

「おい、五反田。お前まだ優子にちょっかい出そうとしているのかよ?」

「えっ?柏木と中山…。矢田から今だったら友達になれると言われて場所まで教えて貰って話しかけたんだけど、前と同じで全然相手にしてくれなかった」

「矢田さん?どういう関係が有るんだ?」


「どうって。前の時も矢田さんに勧められて渡辺さんに声掛けて上手く行かなくて、ドズニーの時だって、彼女達が行くからって、俺達が偶然に会ったような感じで会えば上手く行くとか言われたんだけど、あの時は三谷に取られて…」

「えっ、三谷。どういう事だ…。五反田?」


 俺はいきなり五反田の胸倉を掴んだけど、直ぐに大吾に止められた。


「五反田、教えてくれ。なんでそこで三谷が出てくる」

「矢田さんが、三谷が渡辺さんを誘って仲間に入れるからその後、友達になればいい。だから協力しろって」

「何だって!大吾、これって」

「ああ」


 もう五反田に用はない。

「五反田、話しかけて悪かったな。それと胸倉掴んでごめん」

「いいさ、お前が頭にくるのは分かるから。矢田も理由は知っている」

「何!矢田さんが理由を知っている?」


「当たり前だ。渡辺さんに三谷を仕掛けた後、三谷が矢田さんに馬鹿を言って返り討ちにされたって噂だ。詳しい事は俺も知らないが」

「五反田。教えてくれてありがとう」

「良いって事」


 こいつ本当は良い奴なのか?


 その後、五反田は肩を落としながら飲食エリアを出て行った。


「大吾…」

「ああ、聞き流す訳には行かないな」


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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