第48話 二学期は文化祭のシーズン

ここから第三章が始まります。お楽しみ下さい。


―――――


 二学期が始まった。梨花は俺より少し先に家を出た。陽子ちゃんと改札で待合せて学校に行く様だ。


 俺も一人で家を出て駅に行くと優子が改札で立っていた。そのまま改札に入ろうとすると

「悠斗、おはよう」

「…おはよう、優子」


 それだけ言うと俺は一人で改札に入った。優子が近付いてくる様子はない。夏休み前にあんな事言ったけど、一緒に登校出来る気持ちにはなれない。


 ただ、優子が同じ車両に乗っても他の車両に行くという気持ちにもならなくなった。少しだけだけど俺の気持ちも変った様だ。



 悠斗に朝の挨拶をした。彼はきちんと返してくれた。嬉しい。夏休み前だったら、逃げる様にどこかに行ってしまったのに。


 今はこうして彼と同じ車両に乗って顔を見ている事が出来る。一緒に並んで乗るなんてまだ出来ないけど、ここまで来ればやがて一緒に並んで立っている事も出来るだろう。


 本当に夏休み前に全部話して謝っておいて良かった。夏休みは一人だったけど悠斗が許してくれていたおかげで精神的にはとても楽になっていた。


 お陰で二学期からの勉強も前の様に前向きに取り組む事が出来る。そうすればもっと話も出来る様になる。楽しみだ。




 昇降口で夏休み中に洗っておいた上履きに履き替えて教室に行って自分の席に着くと早速

「柏木君、おはよう」

「おはよう柏木君」

「おはよう、矢田さん、塚野さん」


「大吾、おはよう」

「おう、悠斗おはよう。どうだ?」

 チラッと優子の方を見てから


「ああ、少しは変わる事が出来たみたいだ」

「そうかぁ。良かったな」

「大吾のお陰だ」



 柏木君と中山君の会話からどうも夏休みの間、いやその前に柏木君と渡辺さんの間で何か有ったという事が分かる。それも中山君が関わっている。


 今の状況では、渡辺さんと直ぐにどうのという訳ではない様だけど、余計な芽は摘み取っておきたい。どうしようかな。


 矢田さんが渡辺さんの方をジッと見ている。柏木君と渡辺さんとの間に何か有ったのは分かるけど、彼女何か知っているのだろうか?



 

 俺と大吾が話をしていると担任の先生榊原が入って来た。一学期の頃より一段と綺麗になった感じだ。


 お胸様も健在だ。ジャケット着ていない分存在を主張している。第二ボタンと第三ボタンが必死に外れまいと耐えているように見えるのは気の所為か?


「皆さん、おはようございます。全員事故も無く楽しい夏休みを過ごしたようですね。体育館で始業式が始まります。廊下に出て下さい」



 ぞろぞろと皆で体育館に行き、校長先生のお話を聞いてその他の連絡事項を聞いてから教室に戻った。



 今日は始業式の日だ。午前中二教科の授業が終わった後のLHR、榊原先生が

「皆さん、今週末は文化祭があります。あまり時間が無いですが、何をするか決めましょう。先ずは実行委員を選出して下さい」


 こういう役はやりたい奴がいるもので、簡単に実行委員の男女が決まった。後は催し物なのだが、なるべく面倒でないものを決めて欲しいものだ。


 そんな事を考えながら皆の案を聞いていると隣に座っている塚野さんが

「柏木君、何かやりたい案ない?」

「俺は、みんなで決めたやつでいいよ」


 去年の事を考えるとあまり印象が無いからだ。今度は矢田さんが

「柏木君が案を出してくれたら賛成するけど」

「いや、俺無いから」

「えーっ、何か無いの?」

「ありません」


 俺達が無駄話をしていると実行委員が、

「喫茶店とたこ焼きに絞られたけど、柏木達だけ何も言ってないぞ。どうするんだ?」


「俺達?」

「そうだ。柏木と塚野さんと矢田さんだけ、考えも言わないし、多数決で手上げて無いじゃないか」

「「「えっ?!」」」

 そうだっけ?


「柏木君、どっちにする。君が決めた方でいいよ」

「えーっと。大吾はどっちにしたんだ?」

「俺はたこ焼き。喫茶店って大変そうだし」

「分かった。たこ焼きにする」

「「私も」」


「おっと、三票入ってたこ焼きに決まったな。放課後生徒会の方に出してくるけど、万が一駄目だったら喫茶店案も言うけどいいか」


「「「「「分かったぁ!」」」」」


「じゃあ、決まったとして道具や材料の手配とか班割決めようか」


 たこ焼きプレートはどうするとか、ガス台はどうするとか具材はどうするとか、結構皆案を出している。大したものだな。

 流石に実行委員をやると言っただけの事はある。段取りとまとめが早い。


 その後、班決めが行われたけど、単純に廊下側から机の並び順で割り振って六班が決まった。何と大吾と矢田さんは一緒だが塚野さんが別班になり本人は不満顔だ。


 俺の担当は、土曜日が一番最後の午後三時から午後四時まで、日曜日は順番を逆にして午前十時から午前十一時までの一番目になった。


 そして俺は材料運搬係だ。学食の冷蔵庫に入っている具材を模擬店の屋台迄運ぶという単純な役目。大吾は焼きで矢田さんが盛り付け。まあそっちの方が売り上げが絶対伸びるよな。



 私、矢田康子。柏木君と同じ班になって嬉しかったけど、お客さんの前に並ぶのは中山君と私、それに会計の子。


 確かに中山君はイケメンで背が高くてバスケレギュラー。校内でも人気の男子だ。当然そうなるのだろうけど、私としては柏木君と一緒にやりたかった。


 柏木君が焼いたたこ焼きを私が盛り付ける。こんな素敵な作業なんて早々に無い。何とか出来ないだろうか。


「ねえ、柏木君。二回目はタコ焼きしない?両方共中山君じゃあ可哀想だよ」

「大吾、だってさ。そんな事ないよな」

「いや、そんな事有る。変わってもいいぞ」

「大吾、そこは問題ないと言ってくれ」

「駄目だ、どう見ても材料運搬係のが楽だろう。精々一往復なんだから」

「いや、それはまぁ。おれ調理センス無いし、大吾の方がイケメンだし」

「悠斗、いつになったら現実を見るんだ。駄目だ。二回目はお前がやれ」

「大吾酷いよ。ウウウッ」


 泣きまねしたのだが、何故か周りから笑われた。矢田さん曰く

「柏木君、それ君に一番似合わないから」


 周りがもっと笑った。大吾も塚野さんもお腹抱えて笑っている。俺の泣きべそのまねそんなに似合わないか?



 ふふっ、クラス内で一番の身体能力保持者が泣きまねは似合わないよ柏木君。でもありがとう中山君。さて、後もう一つの事しておかないと。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る