第47話 二学期が始まります。でもその前に
俺は、遊園地から帰ってきたその日にとんでもない難題を押し付けられた。
それは…。矢田さん、塚野さんそして陽子ちゃんと妹が二学期の予習を一緒にしようと言って来たのだ。
はっきり言って冗談じゃない。せっかく夏休みの予定が一通り終わって残りの十一日間は一人でゆっくりしようと思っていた。本を読むのも良いし、気晴らしに問題集をやるのもいい。
なのに何たる状況に陥ってしまったんだ。断ろうと思ったけど三人とも色々言い訳を言って来た。
塚野さん曰く。悠斗さんの心が私にまだ向いていなくてもいい。でも後一日でもいいから悠斗さんの傍に居させて下さいと言って来た。
俺が断るとスマホの向こうで、涙声でデートしなくても良いです、二学期の予習でも良いです、少しでもいいから一緒に居させて下さいと言われた。
ここ迄言われると流石に断れるほど俺のメンタルは強くない。仕方なく日時は後でと言ってスマホを切ると直ぐに矢田さんから掛かって来た。
矢田さん曰く、プールで塚野さんばかり可愛がって狡い。私にももう一度チャンスが欲しいと言って来たので、そんなの二学期になればチャンス有るんじゃないですかと問題先延ばし作戦を取ろうとしたらいきなりスマホの向こうで泣き出して。
じゃあ、二学期の予習一緒にして。学期末は塚野さんと一緒にやったんでしょう。なんでこんなに不公平なのとか言われて。
塚野さんと一緒にさせればいいという安易な気持ちでOKして日時は後連絡にした。
そして丁度電話が終わった所で梨花が俺の部屋に入って来て、私と陽子ちゃんと一緒に二学期の予習をしようと言って来た。
もうここまで来るとまとめて一緒にすればいい。二日もやれば気が済むだろうと思ってOKした。
しかし、女子四人に対して俺一人はどう見ても不味い。だから俺は大吾に電話した。
『どうした悠斗?』
『なあ、残り十一日の内、二日位何とか付き合えないか?』
『悪い、残りはバスケの秋の大会に向けて毎日練習だ。それに家に帰ってきたら手伝いしないといけない。ところで付き合うって何するんだ?』
『塚野さんと矢田さん。それに梨花と陽子ちゃんと一緒に二学期の予習』
『ぷっ!悪い悪い。流石にそれは時間空いていても遠慮するよ。悠斗、その三人はお前を好いていてくれている。
もう誰かに決めろ。そうしたらもうこんな事しなくて済む。決めないとこれからもずっとこうなるぞ』
『そんな事言われてもまだ優子の事が』
『それはもう解決済みだろう。とにかく親友としてのアドバイスだ。その三人の内の誰かと付き合うのが、今のお前にとって最善の策だ。じゃあな、がんばれ悠斗』
二日位ならどうにかなるが、俺が居ても何の役にも立たない。あいつももう精神的に自立する時期だ。でも誰選ぶんだ。それはそれで楽しみだけど。
切られてしまった。仕方なく梨花に声を掛けた。
「梨花、二日位で良いか?」
「二日?なんで?全部出来ないの?」
「俺だって一人でいる時間が欲しよ。妹ならこの苦境を助けてくれ。でないと今までの事、全部はじけ飛んでしまう位きついんだ」
「……うーん。全部はじけ飛んじゃうのは困るな。分かった、場所はどうするの?」
「実は、塚野さんと矢田さんも一緒なんだ」
「えーっ!」
あの女達、まだお兄ちゃんに付きまとっているの。そう言えばプールにも一緒に行ったって聞いているし。
「ねえ、お兄ちゃん、その二人と別々にやれない?」
「それは無理だ。もう時間がない」
「じゃあ、また図書館?」
「そこしかない。でも夏休み後半は結構混んでいるな。出来るかな?」
「離れても仕方ないんじゃない」
そうだ、その手が有った。
俺は遊園地から帰った日から間五日空けた二十六日と二十七日にする事にした。間に土日が入っている。これなら前半五日間、後半四日間自由に出来る。
最初の三日間は、家でのんびりと本を読んだり一人で本屋に行って残りの四日間でやる問題集を買ったりして過ごした。そして土日は道場に行った。
稽古は俺にとって欠かせないライフスタイルになっている。土曜日は空手を日曜日は棒術を稽古させて貰った。
そして開けた月曜日二十六日。学校の最寄り駅の近くにある図書館に午前十時前に集合となった。
俺は梨花と陽子ちゃんと一緒に午前十時十五分前に行くともう矢田さんと塚野さんは来ていて、俺達の姿を見つけると直ぐに寄って来た。
「「おはよう、柏木君」」
「おはよう、塚野さん、矢田さん」
「悠斗さん、塚野さんは知っていますが、そちらの方は?」
どういう事?柏木君は私と塚野さんだけじゃないの?それにこの子って。
「ああ、矢田さんは俺のクラスメイト」
「そうですか。渡辺陽子と言います。お見知りおきを」
渡辺陽子?それにこの顔は。
「柏木君、この子って」
「うん、優子の妹さん。梨花の大切な友達だ」
え、え、ええーっ。ど、どういう事。なんで柏木君の傍に渡辺さんの妹さんがいるのよ。それも姉妹でそっくりじゃない。柏木君、受け入れられるの?
不味い、矢田さんなら何とかなると思っていたけど、この雰囲気、この前と全然違う。矢田さんの比じゃない。これは何とかしないと。
午前十時に図書館が開いた。個別席を確保したい人が早足で地下歩いて行く。俺達も地下に行ったのだが、オープン席も思ったより混んでいる。皆で並んで座れない。
「お兄ちゃん、どうする。取敢えず、お兄ちゃんと陽子ちゃんと私は一緒よね」
「えっ、柏木君。私も隣に」
「私も」
「でも四つしか連続で空いていないし。それに二つ置いて空いているから」
「じゃあ、塚野さんと私で柏木君の今日と明日の隣の順番決めようか?」
「良いわよ」
明日も同じ状況とは限らないだろうに。じゃんけんで塚野さんが俺の隣になった。例によって俺の左隣が陽子ちゃんその隣が梨花。
俺の右隣りは塚野さんで二つ置いて矢田さんだ。矢田さん相当に機嫌悪い顔している。でも仕方ない。
質問はお昼休憩前と午後三時と午後五時させて貰った。俺が集中できない。
午前中は何とか静かに出来た。勉強道具だけおいて図書館に併設されている喫茶店で昼食を摂った後、オープンテーブルに戻って見ると塚野さんと矢田さんの間にいた人が居なくなっていた。それを見た矢田さんがすかさず塚野さんの隣に移動した。嬉しそうな顔をしている。
翌日は全員で横並びに座れた。俺の左は同じ、右は矢田さん、塚野さんだ。矢田さんのブラウスの首元がボタン二つも開けている。そして首元をパタパタとしている。暑いのかな。
何故かそれを見た陽子ちゃんが同じ事をし始めた。お陰で二人の可愛いいい匂いが周りに漂い。傍に座っている男の人の視線を集めてしまった。
「矢田さん、陽子ちゃん。暑かったら場所変えようか」
「えっ?いいです」
「大丈夫よ柏木君」
この作戦良いと思ったらなんと渡辺さんの妹さんが同じ事をして来た。この子侮れない。
午後五時になり
「終わろうか」
「悠斗さん、ここの所教えて下さい」
「うん、いいよ」
「柏木君、ここ分からないんだけど」
「私は、ここ分からない」
「あの、学校の授業で先生教えてくれるから」
「でも渡辺さんの妹さんには教えているよ。私にも教えて」
はぁ、疲れる。
結局、図書館を出られたのは、午後五時半を過ぎていた。図書館の正面口を出て駅に向かった。
「じゃあ、ここで」
「「柏木君、ありがとう」」
「塚野さん、矢田さん。また学校で」
「「はい」」
私、塚野沙耶。まさか、矢田さんと渡辺さんの妹陽子ちゃんと一緒に勉強になるとは思ってもいなかった。
でも一日だけど彼のすぐ傍に居れた。二学期から頑張らないと。でも陽子ちゃん気を付けないと。相当の強敵だ。
私、矢田康子。まさか塚野さんと柏木君の妹さん、それに渡辺さんの妹の陽子ちゃんが一緒に勉強するとは思わなかった。
一日彼の直ぐ傍に居れたのは良かったけど陽子ちゃんはお姉さんの優子さんにそっくり。
滅茶苦茶可愛い。侮れない強敵だ。塚野さんだけなら何とかなると思っていたのに。
こうして何とか二日間を凌いだ俺は、矢田さんと塚野さんと別れて妹達と電車に乗った。
「お兄ちゃん、あの二人なんなの?」
「だから俺のクラスメイト」
「そういう事聞いていない。どう見たってお兄ちゃんを狙っているじゃない。お兄ちゃんには陽子ちゃんがいるんだから」
「悠斗さん…」
「そんな事言われても。はっきりと何を言われた訳でもないし。こっちからもう近付かないでなんて言う訳にはいかないよ」
「それはそうだけど」
はぁ、大吾代わってくれないかな。
ハー、ハァックション!
おかしいな体調良いんだけど。
「大吾風邪か?」
「親父、違う」
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます