第46話 夏休みも終わりだというのに


この話では、悠斗争奪戦に挑む女の子達の思いが描かれています。


―――――


 私、渡辺優子。夏休みに入る前に悠斗と話す事が出来た。その時、悠斗は私と普通に話が出来る様になれるけど夏休みという時間が必要だと言ってくれた。私はその言葉を聞いた時、涙が止まらなかった。


 この言葉で一人でも夏休みを過ごせる事が出来ると思った。陽子は、梨花ちゃんと会って悠斗と一緒に勉強したり、一緒に買い物に行ったりしているとお母さんに話していた。私にはまだ口も利いてくれない。それは仕方ない事。


 でもそんな事で滅入っていても仕方ない。私は二年生になった一学期、勉強がボロボロで自分でも酷い惨状と思っている。


 だからまずは、一学期に受けた授業の全復習をする事に決めた。そしてそれが終わった後に力試しとして夏休みの宿題をする事にした。


 一学期の復習は夏休みに入ったその時から始めた。ターゲットは八月十五日と思っていたけど、午前八時から午後九時まで食事とお風呂を除いて集中的に勉強した。お陰で八月十日には終わった。


 そして、今は夏休みの宿題をやっているけど、復習の成果が出たのか、問題につかえる所はほとんどない。


 宿題も二十日頃には終わりそうだ。二学期になったら、悠斗とゆっくり話し始めて中間で上位を取って悠斗ときちんと話をすると決めた。


 悠斗は傍に居ないけど、成績も戻った私なら悠斗も前と同じように話してくれるかもしれない。だからそれまでは気を抜かずに頑張るんだ。




 私、渡辺陽子。お姉ちゃんは夏休みに入ってすぐに自分の部屋に籠り勉強をしている様だ。何を考えているのか知らないけど、目の前にいなければそれでいい。


 あの人が悠斗お兄ちゃんにした事は姉妹だからこそ余計許せない。他人だったらここまで感情は引っ張らない。姉妹だからこそ、あの素敵な悠斗お兄ちゃんにあんな事をした事が許せない。


 昨日、悠斗さんと二人で遊園地に行く事が出来た。そして二人でとても楽しく遊ぶことが出来た。


 最後の観覧車では、悠斗さんは私の体を優しくそして力強く抱きしめてくれた。キスは唇では無くおでこだったけど、今は彼の気持ちを考えれば仕方ない事。

 だから思い切り


『待ちます。ずっと待ちます。悠斗さんの心の整理がついて私に心を開いてくれるまで』

と言って私の気持ちを素直に伝えた。


 気持ちを分かってくれたのか、遊園地を出る時、ううん、ここの駅の改札を出て別れるまでずっと手を握らせてくれた。


 本当はもっと、もっと近づきたかったけど、彼の心の状態だとここ迄が限界。急いではいけない。悠斗さんの心の中に入る事が出来るまで待つんだ。

 夏休みも後十日。もっと会えないだろうか?




 私、塚野沙耶。柏木君と一緒にプールに行ってから今日まで、全く会っていない。連絡も出来ていない。


 一度連絡した事があるけど、とても忙しいらしく会う時間は無いと言われた。もう私の気持ちははっきりと伝えてある。


 後残り十日。何とかもう一度会いたいけど。また連絡してみようかな。でもしつこい女と思われたくないし。どうすればいいんだろう。やっぱり連絡してみようかな?でも理由は?




 私、矢田康子。柏木君と一緒にプールに行けたけど、十分に自分をアピールできずに終わってしまった。挙句、塚野さんには彼に水中キスまでされて完敗に等しい状況になっている。


 なんとか夏休み中にもう一度会って、私の気持ちをはっきりと伝えたい。残りあと十日、何とかしないと無為に過ぎて行ってしまう。


 そもそも彼って何処に住んでいるんだろう?プールに一緒に行った時は、電車の中に彼と中山君それに塚野さんもいたからそっち方向だという位しか分からない。


 お父さんに頼んだらすぐに分かるかもしれないけど、そんなことして彼と会っても変に疑われるだけだ。

 

 連絡は出来るプールの時、グルチャを作ったから連絡先は知っている。掛けてみようかな?でも理由はどうしよう?




 俺は、遊園地から帰って来ると

「梨花、体調はどうだ?」

「うん、こればかりはね。もう少し掛かるかな?」

「そうか、一緒に行けなくて残念だったな」

「大丈夫。お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃん。いつでも一緒に行けるでしょ」

「それはそうだけど」


「そんな事より陽子ちゃんとどうだった?」

「うん、まあ、楽しかったよ」

「それだけ?」

「だって楽しかったから」


 おかしいなぁ。陽子ちゃんはお兄ちゃんに思い切りアタックしたんだよね。それがこの反応?何もしてないなんて思えないし。陽子ちゃんももう家に着いた頃だ。連絡してみるか。

 

 私は、自分の部屋に一度戻ると陽子ちゃんに連絡した。


『陽子ちゃん。私』

『はい』

『今日どうだったの。お兄ちゃんに聞いても良く分からないんだ』

『色々なアトラクションに一緒に乗りました。最後に観覧車に乗って、思い切り私の思いを悠斗さんに伝えました。そしたら彼、私を優しくそしてしっかりと抱いてくれて…。その…キスはおでこにでしたけど』


 えっ?悠斗さん?彼?抱いてくれた?おでこにキス?え、え、えーーーーっ!


 な、何?この急激な進展は、まさかここ迄進むとは。


『そ、それで?』

『彼は、まだ受け入れる事は出来ないと言っていました。でもいつまでも待つと返事しました。そしてここの駅の改札を出るまでずっと手を繋いでいてくれました』


 えーーーーーーーーっ!


 私は体を後ろに仰け反らせ倒れそうになってしまった。


 て、手まで繋いだ。それもここの駅までって。一体何時間繋いでいたのよーっ?


 さっき、お兄ちゃん、まあ、楽しかったよ。しか言わなかったじゃない。どう言う事?


『そ、そう良かったわね』

『あの、梨花ちゃん。夏休み残り十日なんだけど。悠斗さんと一緒に勉強出来ないかな?』

『き、聞いてみるね』


 うわぁ。な、何?この陽子ちゃんのアグレッシブなメンタル。人を好きになるとここまで変わるの?

 ふふっ、でもこれも良いかも。早速聞いてみようかな。


 私は、早速隣の部屋にいるお兄ちゃんに声を掛けようとして部屋を出た所でお兄ちゃんの声が聞こえた。ドアが少し空いている。


『一緒に勉強ですか?』

『……………』

『でも、それなら二学期になってからでも』

『……………』

『そんな事ないですから』

『……………』

『分かりました。俺も調整しないといけないのでまた後で連絡します』



 コンコン。


「お兄ちゃん、良いかな?」

「梨花か、いいけど」

「ねえ、夏休みも後十日でしょ。お兄ちゃん予定入っていないよね。多分予習とか問題集とかするんでしょ」

「その通りだけど?」

「じゃあ、私と陽子ちゃんも一緒じゃ駄目かな?」

「えっ?!」


 たった今、塚野さんと矢田さんから連続して電話が入って二学期の予習をしたいから一緒に勉強しようと言われたばかりなのに。


 どうしよう。本当は勉強しないで本を読んで過ごすつもりだったんだけど。


―――――

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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