第31話 貴族の責務
× ×
翌日の放課後、サーシャはノートンの指示で事の顛末を確認するため、カフェでシャルと会っていた。
「結局、表向きはマゼンラの単独犯という事で、落ち着いたよ」
「それで問題なかったの?」
「まあマゼンラは服装からして変態だしね。みんな納得したみたい。服装って大事だね」
あっけらかんに答えるシャル。
「でもマゼンラは監禁場所から逃げちゃったみたいだけど」
「そうらしいですね」
そのニュースは、昨晩のうちに伝わっていた。マゼンラが逃げるのは、ニーアの事件に続いて二度目だ。脱走の為の魔法具でも持ってるのか、逃げ足だけは早いらしい。もっともその報告を店で聞いたノートンは予想していたらしく、サーシャの報告にも大して驚いていない様子だった。
「ポロン先生は、どうなったんですか?」
「今までと何も変わらないよ。A組のみんなで秘密を守るために団結してるしね」
何も変わらないどころか、秘密を共有することによってAクラスの結束は固くなったように、サーシャには思えた。
「シャルちゃんの記憶は、返してもらったの? ポロン先生に取られちゃってたんだよね?」
「ううん。恐い記憶なんていらないし、テストはとっくに終わっているから、授業の記憶はいらないかから」
メモリーガンで奪われた記憶は、シャボン玉の様な結晶になって保管される。それを対象者にぶつけることによって、記憶を復元することができるという。とはいえ過ぎ去った記憶は、シャルにとって必要ないものの様だった。
サーシャがノートンから依頼された案件は、すべて確認が取れた。
だが一つだけ、サーシャが個人的に気になっている事があった。
「……あの、七不思議のひとつの、消えた女子生徒が人形になっているというのは?」
「あれは先生が参考のために、可愛い女子生徒の人形を複製鏡で作って、保管してい
ただけだよ。みんな『なんで私の人形はないの?』って怒ってたけどね。ちな、あたしのはあったよ」
嬉しそうにピースするシャル。
「……消えちゃった生徒の方は?」
サーシャが聞きたかったのは、失踪した生徒の方だった。数年に一度、姿を消してしまう女子生徒がいるらしい。いわゆる神隠しの噂だ。
「あ~、そっちね。あれは本当は、神隠しでもなんでもないんだ」
「どういうこと?」
「ぶっちゃけると駆け落ち。恋人と一緒に逃げちゃうんだよ。いっこ上の先輩にもいたな~」
「え、駆け落ち!?」
予想していなかった大人の世界の言葉に、サーシャは驚く。
「そう。あたしたちは来年にはみんな卒業で、卒業後は社交界に出てすぐ結婚とかだからね」
「え!?」
同世代の女子からでた「結婚」という言葉に、サーシャは息をのむ。
「貴族の娘は、家の命令には逆らえないからね。もう許嫁が決まっているこもいるよ。貴族には貴族の責務があるからね」
「貴族の責務……」
「だから。限りある今の学生生活を精一杯楽しんでいるんだ」
「ふ、不安はないの?」
家が決めたよく知らない相手との結婚とか、サーシャには想像もできない。
「う~ん、社交界はきっと楽しいし、未来の旦那様もいい人だと信じてるから、大丈夫だよ」
そう微笑むシャルの笑顔。
それはサーシャにはずっと大人びたものに見えた。
「でもそれが嫌で駆け落ちしちゃう人もいるんだ。失踪した先輩は、あたしが知る限りみんなそう」
「そ、そうなんだ」
神隠しの噂の予想だにしない真相に、サーシャは言葉も出なかった。
「あたしだって、運命の人に出会っちゃったら、駆け落ちしちゃうかも……」
「き、気になる人とかいるの? シャルちゃん」
「う~ん、ノートン先生とか、いいかな~と思っちゃった」
「えっ!?」
シャルの衝撃的な発言に、思わず声をあげるサーシャ。
「マスターは、だ、ダメだよ! だってマスターは、猫人だよ?」
「あたしケモナーに目覚めちゃったかも。猫のモフモフ感と、シュッとした人間のかっこよさがいいよね」
「そんな~」
「恋と戦争は手段を択ばないんだよ、友情より優先!」
「え~!」
「早い者勝ちだよ!」
シャルの言葉に、サーシャはただ狼狽するだけだった。
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