第27話 学園の七不思議(下)
「残る秘密のうち、場所がわかっているのは旧棟の不幸になる部屋かな。あそこはあんまり行きたくないから、あたしも最後にまわしたと思う」
「では、行ってみるかニャ」
最後に不幸になる部屋があるという旧棟へと向かう。新校舎との間には回廊が作られていたため、サーシャ達は回廊を通って、旧棟に入った。
「ちょっと古くて嫌な感じですね」
華やかな新校舎と違い、旧棟は木造で、随分と痛んでいる。
「まあ、今年中に取り壊して移転する予定のとこだし、もう使われていないからね」
「目的の不幸になる部屋はどこかニャ?」
「旧棟のさらに一番奥なんだけど……やっぱり行きたくないね」
「なんとなく気味が悪いですね」
サーシャも嫌な気分になり、旧棟に入った途端に足取りが重くなった気がした。
「オレは何にも感じないニャ」
そんなサーシャ達をしり目に、ノートンはどんどん奥へ進んでいく。
「あ、まってよノートン先生!」
「置いていかないでください、マスター!」
ノートンは旧棟の最奥、入ると不幸になるという噂の部屋のドアを開け、内部へと侵入して、内部から教室のランプを灯した。
部屋の中には椅子や机はなく、代わりに学習机くらいの道具箱が所狭しと並んでいた。
「どうやらここは倉庫みたいだニャ」
使われていない教室を、倉庫として利用しているようだった。
「この部屋イヤ~、マスター、早く帰りましょう」
サーシャは部屋から直感的に嫌な何かを感じ、背筋が寒くなる。
「やっぱりこの部屋だけは気持ち悪いね……」
シャルもまた、顔を真っ青にしていた。
だがノートンは帰りたがるサーシャの声を無視し、部屋の壁に吊るしてあった宝石を手に取る。
「不幸になる部屋の七不思議の正体はこれだニャ」
ノートンは青白い宝石を手にとり、サーシャ達に見せた。
「これはトルル石といってね、魔法石の一種だニャ」
「魔法石?」
「どんな効果があるんですか、マスター」
「トルル石は若い女性が嫌がるオーラを出して、彼女たちを遠ざける効果がある。古くから女人禁制の神殿等で使われてきたものだニャ。おそらく女子生徒がこの部屋に近づかないように、設置したものだろうニャ」
「じゃあ、あたしたちの気分が悪くなったのは、この石が原因ってこと?」
「だろうニャ。実際、オレは何も感じないニャ」
「じゃあ不幸になるっていうのは?」
「それは気分が悪くなることから派生した噂にすぎないニャ」
「な~んだ、びっくりした」
「ところでシャル、記憶を失う前の君はここまで来たと思うかニャ?」
「う~ん、どうだろ……魔法石の効果はかなり嫌だから、帰ったかもしれないけど、せっかく忍び込んだなら無理して入ったかもしれない」
「ふむ。では倉庫の中身も確認していくかニャ」
ノートンはそうつぶやくと、道具箱を開け、次々とその中身を確認していく。
「マスター、早く帰りましょうよ」
「まだ怪盗エロスの証拠はつかんでいないニャ」
正体がわかったとはいえ、トルル石の気持ち悪さは変わらない。そのためサーシャは早くこの部屋から去りたかった。しかしノートンは彼女の意見を無視し、次々と道具箱を開け中身を確認していく。
「む? これは珍しい魔法具だニャ」
そして道具箱から一つの手鏡を取り出し、目を細める。
「それは何なの? ノートン先生」
「これは〝複製鏡〟といってだニャ、映した人や物を複製し、そっくりの偽物を作る効果があるニャ。かつて武器を複製して戦争に使われたり、食料を複製して飢えをしのいだとされているニャ」
「便利ですね」
「ただし、使用には注意が必要だニャ。人間の複製を作ってしまうと、その人間はドッペルベンガーとなって、本人を殺してなり替わろうとする呪いがかかっているニャ」
「ひええ、こわい」
「まあこの複製鏡は劣化版のレプリカだから、その恐れはないニャ」
「レプリカだとどんな効果があるんですか?」
「同じ形の複製を作るだけだニャ。それは武器として使うことも、食べることもできない。人間を複製しても、ただの人形ができるだけだニャ。どちらにせよ、不用意に使わない方がよい代物だニャ」
「ふ~ん。じゃあこれが〝不幸になる鏡〟の正体か」
「おそらく、学生が不用意に映らないようにここに安置されていたんだろうニャ」
「学園の七不思議には、ちゃんと元ネタがあったんですね。だからもう帰りましょうよ、マスター」
「残る女子生徒の幽霊の噂も根拠がありそうだニャ。探してみるニャ」
サーシャは早く帰りたかったが、その言葉を無視し、ノートンは倉庫の探索を続行する。
「……やはりあったか。見てみるニャ、これが〝夜中に徘徊する髪の長い女子生徒の幽霊〟の正体だニャ」
そして部屋の片隅にあった人形を見つけ、そう指摘する。
「これは、東洋の人形ですか?」
それは長い黒髪に東洋の衣装を着た、13歳くらいの女の子を模した人形だった。
「ああ、人間の女の髪の毛で作ったとされる人形だニャ。髪だけなく、体も服も、人間の髪を染めたものを編み込んでつくっている。
人形の顔をよく見てみるニャ」
サーシャは言われた通り人形の顔を覗き込み──
「きゃああああ、目が動いた!!」
悲鳴と共に、腰を抜かした。
「こいつも魔法具の一種で、動くことができる人形だニャ。目だけでなく、体も動くニャ。もちろん歩くことも可能だニャ」
「だったら先にそう言ってください!」
サーシャは抗議するが、その声をスルーし、ノートンは人形の側にある籠を覗き込む。
「やはり生徒達の髪が入っているニャ」
ノートンが手に握っているのは、女性のものと思しき髪の毛の束だった。
「先生、どういうこと?」
「この人形は人間の髪を集める機能があるニャ。おそらく夜中に校舎中の髪を集め、この籠に回収しているんだニャ」
「お掃除魔法具という事ですね、マスター」
悪い人形ではなく、掃除の為のものだった様だ。ネタさえわかれば怖いものではない。
「そっかあ、じゃあこの子が〝夜中に徘徊する髪の長い女子生徒の幽霊〟の噂の正体だね」
「そういうことになるニャ」
「やったあ。これで学園の七不思議の謎はほとんど解けたね」
シャルは謎が解けて安心した様子だ。
「問題は、なぜコレが人目を避ける部屋に安置されていたかだニャ。別に隠す必要はないはずだニャ」
「それはそうだね、どうして隠してたんだろう?]
「おそらく奥の部屋に秘密があるニャ」
教室のさらに奥にある部屋。地図上は、教室の備品を保管するための部屋で、教室からしか侵入することができない。
「ここに事件の真相があるはずだニャ」
意味深に微笑むノートン。
ついに事件の核心に迫った事に、息をのむサーシャ。胸の中でせめぎ合う好奇心と恐怖心。
だがそんなサーシャの気持ちなど気にも留めない様子で、ノートンは部屋のドアノブに手をかけ
そして──
『ジリリリリリイリン!!』
突然、耳を刺すようなけたたましい音が鳴り響いた。
「これは……学校の警報装置!?」
シャルはこの音を知っているようだ。学校の警報装置の様らしい。
「私たちの侵入のせいですか!?」
「いや、鳴っているのは新校舎の方だニャ。向こうで何かあったようだニャ」
「行ってみましょう、マスター」
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