#2 謎の部屋

○謎の部屋

 数多くある王城内の部屋。多すぎるがあまり、誰もその総数を知らないのではとまで言われている。その中の一室、ほのかに薄暗い部屋の中。その部屋にある鏡の前に、彼女はいた。妖艶な笑みを浮かべて。そして彼女は声高々に鏡に問う。


「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?まぁ当然、この私でしょうけど」


その声は、自信にあふれていた。はたから見ると随分と滑稽な様子に映るだろう、鏡に話しかける姿など。

しかし鏡は、答える。


「世界で美しいお方、それはあなた様の妹である白雪姫、ユラ様でございます。」

「な!?」


だがその答えは彼女が望むものではなかった。世界で一番美しい人が彼女ではなく、あろうことか彼女が憎んで憎んで仕方がない妹だと言ったのだ。


これはきっと何かの間違いよ、そう思い彼女はもう一度声を上げる。


「あぁ、なるほど。きっと長い間眠りについていたから、『世界で一番醜い人』と聞き間違いをしたのね。もう一度聞くから、よーく耳をすませなさい。世界で一番美しいのは、誰?」


「それは、あなた様の妹であるユラ様でございます。」


無情にも、鏡の答えは変わらなかった。


「っ!?」


しかし彼女は諦めなかった。


「…まぁ、いいわ。もともとあの子には早々に消えてもらう予定だったし、今すぐにでも暗殺者を手配し、いなくなってもらいましょう」


彼女は、迷うことなく実の妹を消すことを決めたのだ。自分がただ世界で一番美しくなるためだけに。自分が、彼女の次に美しいというわけでもないのに。傲慢にも自分の美しさに高い誇りとプライドを持つ彼女には確かな "自信" があった。


「召使い」


「は、はいぃ!」


「今すぐ王国一の暗殺者に依頼を手配しなさい。依頼内容は『王国の姫、ユラの殺害』よ。報酬は弾むと伝えておいて」


狙われるユラには不幸なことに、彼女にはいくつもの懇意にしている「裏の取引相手」がいた。財だけはあったため、優秀な暗殺者とも日頃から懇意にしていたのである。その上使用人は家族を人質に取られており彼女には逆らえない、つまり止めることができないのだ。その上残念なことに、王城にはこの使用人と同じように大切な人や物を彼女に人質に取られているものは多くいる。


この「裏の取引相手」と「絶対権力」こそが、彼女が王城にい続けることができる最も大きな理由であった。


「か、かしこまりました!すぐに手配します!」


使用人はそう主人に言うと慌てて部屋を出て行った。


そして一人になった彼女は笑った。それは、ここでの会話を想像させない、とても上機嫌で、妖艶な笑みだった。そして、


「ふふふ、あの子を殺して、私が世界一の美貌を手に入れるのよ!」


そう、誰もいない部屋で高らかに宣言した。

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白雪姫とその執事。 とく @toclock

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