第13話
第25章 敵
ロナルド氏は死刑宣告の紙を玄関前で熱心に読みふけると、大慌てで松本博士の元へ行った。松本博士はロナルド氏の顔を見て何かを察したのか、青い顔になってロナルド氏から紙をひったくった。「いや、そっちは広告のチラシだ…こっちが君に見てほしいものだ」松本博士は死刑宣告を乃木に聞こえるように大声で読み上げ始めた。松本博士は死刑宣告を読み終えると、白い顔になって、「これは冗談ではないな!奴は本気だ!」と叫んだ。乃木署長は、真剣な顔になって、「もし本気であるなら、ロナルド氏を我々で保護することにします。ロナルドさん、今日からあなたの玄関前に24時間警備員を5名常駐させます。そして松本博士、あなたにも応援を頼みたい。あなたは彼の学友でしたな?警察に協力していただきたい。」「もちろん協力しますとも。」松本博士も言った。それからの一日は大変な日だった。ロナルド氏は昼から警備員とともに警察署に行き、署長と博士とともに会議を行った。ロナルド氏はびっくりするほど燃えており、「もし奴が襲ってきたなら返り討ちにしてやる!」と怒りをにじませた声で言った。そして夕べごろになって、警察署に二人の男女が転がり込んできた。「おお!ようやく来たか!」松本博士が嬉しそうな叫び声をあげた。そこには松本博士とロナルド氏の親友である木村亜里沙博士と加藤豪介教授がいた。「いつの間に呼んだのかい?!松本。」ロナルド氏が驚いた叫び声をあげた。「ああ、そうさ、僕たち3人だけでは心細い。だから、この2人を呼んだ。」「それより、何が起きているの?電話では緊急だということしか伝えられなかったんだけど。」木村が不満そうな声を上げた。「ああ、そうだ、まだ話してなかったね、では、ここまでのいきさつを紹介しよう。まず、君たち透明吸血鬼というものを知っていると思うんだが―」松本博士は軽く10分ほどいきさつを語り、語り終えると、「というわけなんだ。それで、僕たち3人だけでは心細い。だから、君たちにも手伝ってほしいんだ。」松本博士の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、「分かった。やろう。」と二人の専門家が言った。こうして、恐るべき敵に対する戦いの準備が整った。
第26章 真夜中の怪
「では、次は我々の武装についてだ。もちろんこの分野は警察の許可がないとできないため、詳しいことは明日乃木署長に―」暗い会議室に、松本博士の声が響いた。ここは函館市内にある警察が手配している住宅の一室。広いこの部屋で、4人は資料に素早く目を走らせていた。警察署での話し合いや警備員のスケジュールなどの話し合いを終えた後、5人は素早くこの住宅に移動した。乃木署長は4人を家に案内すると警察での公務があるからと警察署に戻っていった。そして、松本博士が「生半可に奴に立ち向かうと負ける可能性がある。きちんと作戦を練ってからのほうがいいだろう。」といったので、夜の8時にもなってみな空腹だったこともあり、近くのコンビニでおにぎりやカップ麵などを買い込んでから作戦会議がスタートした。「―そして次は透明吸血鬼の行方を追うことについてだが、これに関しては目撃情報がない限りどうしようもならない。引き続き乃木署長と木村君に分析を頼んでいるところだ。では、今日は解散!」開始から2時間たった10時過ぎ、会議は終了した。ロナルド氏は警備員付きの一番奥まった部屋に入り、隣の部屋に松本博士、加藤豪介教授が、警備員の近くにある寝室には木村博士が入った。部屋に入ってしばらくすると、朝から疲れていたこともあり、4人全員がすやすやと寝息を立て始めた。
その影は、1時過ぎの静まり返った廊下を、ゆっくりと歩いていた。音を全く立てずに、ろうそくを一本持って、するすると、滑るように歩いていた。その影は懐から紙切れを出すと、丁寧にたたみ、ロナルド氏の寝室のドアに、静かに張り付けた。そして、その影は初めてぞっとするほど冷たい声で笑った。そして、甲高いような低いような声でゆっくりと言った。「あの天才気取りめ…これで我輩をだましたつもりか?ハハハ!生ぬるい…我がノスフェラトゥ伯爵の極限の怒りにもうすぐ触れることになるぞ…今に見てろ…もうすぐでお前たちはもがき苦しむことになる!」
第27章 松本博士の怒り
翌日の朝、松本博士はロナルド氏と木村博士の叫び声で目が覚めた。松本博士はガウンを着てから部屋を飛び出し、「どうした⁈」と叫びながら隣のロナルド氏の部屋に行った。見ると、そこには茫然自失としたロナルド氏と、真剣な顔で紙切れをにらみつけている木村博士、加藤教授の姿があった。松本博士は、木村博士から紙切れを受け取り、アッと驚きながら紙切れを見つめた。そこにはこのようなことが書いてあった。
The execution will take place today. Wait with trembling
(処刑は今日行われる。せいぜい震えて待っているがいい)
松本博士はこの紙切れを読むと、怒りの形相すさまじく、アパートの入り口に配置されているはずの警備員の元へ向かったが、戻ってきた松本博士は茫然とした顔でまたもう1つの紙切れを皆に差し出した。そこには日本語で、
最低賃金で人を雇うとこうなるのだ(笑)
と書かれてあった。松本博士たちは2つの紙切れを読みながら、怒りの形相すさまじく、その場に立ち尽くしていた。「つまり、奴は警備員に変装して、我々にこのようなふざけたメッセージを送ってきたということだな?」沈黙を破ったのは、いつの間にかこの住宅に来ていた乃木署長だった。「ええ。そうです。まったくけしからんやつですよ。」松本博士が怒りをにじませた声で言った。「けしからん、けしからん。」ロナルド氏が突然言い出した。乃木署長はロナルド氏を見て、「落ち着いてください。ロナルドさん。これはチャンスでもあります。奴は今日来るのでしょう。ではその所をひっとらえればいいではありませんか。そうでしょう、松本博士?」「しかし、やってきた透明吸血鬼をどうやってとらえるのかが問題です。あいつは透明になれるんですから、すぐに逃げられてしまいます。かといって銃を撃てば、彼を殺してしまう。それはできません。」「ではどうしろというんですか!」乃木署長が焦りに満ちた声で言った。「ああ、それなら、私がいいものを持っているわ!」木村博士が叫んだ。「ちょっと待ってて、今持ってくる。」そして木村博士はどこかにいなくなったが、しばらくしてごちゃごちゃしたおもちゃのようなものを持ってきた。「これ、私が発明した麻酔銃よ。レーダーによる制御で、命中率が90%以上なのよ!」木村博士は得意げに言い、松本博士と乃木署長は目を輝かせた。「では、やつを罠にはめる方法はどうしようか。」加藤教授が言った。「まず、こちらが全く警備をしていないふりをするのが得策でしょうな。奴は透明になれるのだから、今もこの話を聞いているのかも。締め切った部屋で、話しましょう。」加藤教授はそういうと、近くの明るい空き部屋のドアを少しだけ開けると、中に滑り込んだ。「1人だけがぎりぎり入れるスペースを作って入ってきてください。」加藤教授が言った。そして、ロナルド氏、松本博士、乃木署長、木村博士、の順番で気を付けながら部屋の中に入ると、加藤教授がいきなり話し始めた「ではまず、今夜ロナルド氏は一番奥の部屋で私と一緒に過ごしましょう。そしてその前の部屋に乃木さんと松本博士、そして一番前の部屋に木村博士が麻酔銃を構えて待っている。今日は寝ずの番ですぞ。そして何か気配を察したら大声で叫んで開けっ放しのドアから廊下に麻酔銃を人数分投げてください。私はロナルドさんと一緒にいますから、残りの3人分だけ銃を外に出してください。私は部屋の中で全力に警備に当たります。何か意見はありますか?」乃木署長が言った。「発信機も用意したほうがいいのではないでしょうか?いま奴がどこにいるかわかるようになります。もし彼にアジトがあれば、そこを追跡することができる。たとえ彼を今日逃しても、アジトでひっとらえることができます。」「それはいい案ですな。では、この後はセキュリティの強化に力を入れましょう。監視カメラをつけておくのもいいでしょうな。では、解散!」
「やつを今日絶対とらえてやる。絶対にな!ドラキュ、お前の悪事も今日で終わりだ!」松本博士が怒りに燃えた声で言った。こうして、恐るべき透明吸血鬼への対抗策が練られ始めた。
透明吸血鬼 @irooni
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