第6話 誤謬の粛清
──強すぎる欲望は身を滅ぼす...しかし禁欲は万物を生み出す事は決して無い。
「コイツも失敗作だ。次だ次、代わりなんていくらでも居るだろ。」
「──教授!もう使えるサンプルはNo.4600番で最後です!これ以上表立って人体実験を続ければ、マスコミも黙ってないはずですよ...」
怪しげな雰囲気を放つ異様な空間には虚な目をしたNo.4600番と呼ばれる孤児の少女1人と多数の研究者、研究所の隅には爛れた血痕が見られ、バラバラに解体され、冷凍処理を施された未成熟の人体が散乱していた。
「わたし、これからどうなるの?この人達みたいにバラバラにされるの?」
死んだ魚の様な目をしながら問答をする少女に教授と呼ばれる人物は意気揚々として回答を語り始めた。
「君はこれから我が国の神となるんだ。私達が努力を重ねて培ってきた研究成果を背負い、国の為に生きて行く事になる。心配は要らない、この実験が成功すれば君は超能力者など足元にも及ばないほどの圧倒的な力を手に出来る。安心して我々に体を預けると良い」
そう言って少女を台に固定し、処置室を後にした教授と呼ばれる人物は、誰かからの電話を取った。
「第三研究所です。ええ、手筈通りに進んでおります。今日中にゲノム編集を行ったサンプルが完成します。あの調子ならすぐにでも貴方様の期待に応えられるかと」
どうやら電話の相手は中年の男性のようである。
まともな思考回路を持ち合わせない教授と呼ばれる男に(人体実験などしていては心労も激しいだろう。国の為に依頼をこなすのは良いが抵抗は無いのか?)と中年の男性は話すが......
「人体実験に抵抗ですか?あるわけがないでしょうそんなもの。あれらのサンプルは生まれてきたことが間違いなのです。我々が間違いを正しく修正し、世の為人の為役立つ個体へと作り替えてやっているのですから、むしろ感謝して欲しい物です」
「ええ、洗脳処置が済み次第其方に向かう様命令を致します。では私は処置室へ戻りますので...」
教授が処置室へ戻るとそこには青白い目をした白髪の少女が佇んでいた。
その光景を見て研究が成功した事を確信した教授は少女の元へと足を運び、何かを命令した。
「素晴らしい!コレこそが私の求めていた物だ!No.4600では少々呼びにくいだろう。今日からお前は(シロ)として生きる事を許可しよう...私の命令を聞いてくれるかね?」
教授が命令を伝えると少女は虚な目を通して明後日の方向を見つめていたが、声を聴くと何処か感情の抜けたような応答で応えた。
「直ちに命令を遂行します」
洗脳によって少女は人格を失い、教授の命令を聞くだけの傀儡のような状態になってしまっていた。
「──教授...あの孤児に本気で計画を実行させるのですか?我々が手を下しておいて言うのもおこがましいですが、歳端も行かないあのような少女には酷な事...実験の負荷で視力もかなり低下していたようでしたし......」
その場にいる研究員達の中には研究が成功し、安堵する者、疑念を抱く者、怯えて震える者など様々であったが教授は様に散らばった死体の山を指差して豪語した。
「アレの情緒など知った事ではない。元より兵器の開発を目的とした実験である事を忘れたのか?そんな事より散らばったそこのゴミを直ちに処理したまえ、私にはまだ重要な仕事がある」
教授が部屋を出ると少し進んだ先にシロが苦しそうに蹲っている姿が見えた。
「うっ、わたし...はっ、」
焦った様子で教授がシロの側に寄っていくと何やら空気が振動している様子が伺える。
「なんだ、この不快な音は...耳が......シロ、ここで能力を使うのはやめたまえ。私の言うことがわからないか?」
「──わたし...シロ?...命令...メイレイヲジッコウシマス」
次の瞬間強大な不協和音を耳で捉えたかと思えば急に音は聞こえなくなり、教授の耳はあっという間に壊れた。
──不協和音から出力が高まったことによって音が高音になり、人の耳に聞こえない音域となった事で超音波攻撃が成立したのだろうか。
シロを中心として鉄筋コンクリートで建造された研究室の壁が崩壊し自身を巻き込みながらあっという間に建物を倒壊させてしまった。
研究所に在籍していた教授を含む研究員達は瓦礫の下敷きとなり、安否を確認することは困難を極めるが、シロは無意識に音波を操作して瓦礫の軌道をずらして生き残っていた。
どうやら研究室は地下にあった様で大した騒ぎにはなっていなかった。
実験の最中で身についた物なのか人間とは思えない身体能力で走り出し、地上へと向かうシロは与えられた命令『血の紋を刻む為、埼玉の地を血の海へと染め上げろ』を遂行する為とんでもないスピードで埼玉の地へと向かっていた。どうやら目が見えていない様だが、音波や音圧を感知し、周囲の物体位置、距離を正確に把握して、目を閉じたまま駆け抜けて行く。
最初に倒壊させた研究所は東京の地下...彼女の身になにが起きたかについては彼女自身にも知る由も無く、埼玉の地へと向かい、人が密集する病院や学校を手当たり次第に超音波で破壊して行った。
流石に地上で大勢の人が犠牲になったとしてこの事件は大々的に報道され、警察や自衛隊など、様々な組織がシロを止めようと尽力していた。
警察や自衛隊組織の中にも超能力を扱える人間が数人存在するが、シロの圧倒的な力を前にしては無力であった為、サイエンスハイスクールへ応援の要請を申請した。
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その頃、サイエンスハイスクールは夏休み真っ只中であり、学校には少数の教員と自主学習、訓練に励む生徒の数人しか居らず殆どの生徒は寮に居るか、実家に帰っているかで緊急事態ではあるものの招集に応じられるメンバーは限られていた。
数分後、寮に居た生徒と数人の教員、元々自主学習や訓練で校内に居た者のみで要請の内容について集会が開かれる事となった。
「夏休み中ですが、政府から緊急の応援要請がありました。現在不在の教員はこちらへ向かっていますが、人数が少々足りません。自宅からリモートで指揮を取ることも仕方ないかと、皆さんには直接現場へ急行して頂き、警察や自衛隊などの組織を援護してもらいます」
破壊された施設や建物、少女1人が犯行に及んでいる事実、超音波を使って建物を破壊しているなどの情報を生徒に共有する。
「先生!流石に一人で犯行に及んでいるとしてもその少女の力は強すぎませんか?僕達の中にも自分すら守れない人が行けば犠牲を増やしかねないと思います!!」
一人の生徒が提案すると先生は現場へと向かう少女への対抗手段を持つ者とすでに破壊された建物や施設の事後処理をするチームを分かる事とした。
「選抜チームはこれで問題ありませんか?それでは皆さん気をつけて!この活動に参加した生徒には成績における評価の向上と少しばかりの報酬が政府から給付されます!頑張ってください!!」
「僕達は現場へ向かうチームだね!まだ灰腹君は怪我でリハビリ中だし、屍毒さんはメンタルケアの為にカウンセラーとつきっきりだけど...」
「ええ、灰腹君と屍毒さんについては残念だけど、もう少し療養の期間を設けた方が私もいいと思うわ。私達も怪我をしない様に気を付けて現場で活躍しましょ!」
蒼太と金剛が会話を交わしているうちに、現場へと向かう護送車が到着した。
TABOO・INITIATION 月見山六花 @XC_Rikka
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