第5話 固有能力向上授業 後編

「やった!勝った。灰腹くん勝ったよ!!!」

 試合に勝利し、嬉々として灰腹に結果を報告した後にタグを金剛と屍毒に返しに行く赤口蒼太。


「お疲れ様!はい、これ2人のタグ。灰腹くんのタグは僕から返しておくね!そういえば、金剛さんはどうやって灰腹くんの能力がわかったの?やっぱり固有能力なのかな?」

 不思議そうな顔をしながら問いかける蒼太、それに金剛が応答した。


「私の固有能力はアストラル探知よ。第三者が出力した固有能力を探知・追跡・解析出来るわ。さっき戦闘を始める前2人の固有能力を解析して屍毒さんに共有しておいたの」


「すごい!でも、それならどうやって灰腹くんの持ってる鉄球や火薬玉のことまで分かったの?」


「アストラルは感情エネルギーなのは知ってるわよね?私の固有能力はこれを応用して精度を上げれば解析のついでにその人の感情や思考まで可視化できるの、灰腹君は戦闘前、鉄球を私達にどうやって傷つけないように使うか考えてたわ。優しい人なのね」


 淡々と会話を続ける2人、蒼太は金剛の固有能力を聞き、自分の能力が上手く扱えない悩みを打ち明け、金剛に残りの授業時間で能力の使い方を教わる事になった。


 なお、屍毒はずっと隣に居たが話に入れず、蹲ってしまっていた...

 それを見かねていた灰腹がベンチからこちらへ向かって来て提案する。

「お前は金剛さんと能力の使い方練習すりゃ出来ることも増えそうだから、教えてもらうといいぜ!屍毒さんは俺と1対1でもう一度模擬戦闘訓練をやらないか?さっきの能力、もう一回見たいしな!」


 かくして4人で親交を深め、残りの授業時間、ペアを変更してそれぞれ過ごす。



「周囲の時間を早く感じる能力の使い方...アストラルをものすごい勢いで使っていたから使えば使うほど早く感じ取れると言うことかしら?それならかなり燃費が悪そうね......」


「そうなんだよね...もっと上手く扱えるようにしたいんだけど燃費に関してはどんなふうに使っても固有能力の特性上は仕方ないみたいなんだ。俺の出力ってどんな風に流れてるの?」

 金剛は蒼太のアストラル出力がどの様に流れているか、無駄がないかなどを詳しく解説してくれた様だ。


「出力の解説は大体こんな感じね...あと、赤口君の能力はかなり自由度の高い能力みたいだし、空間指定と対象指定を覚えた方がいいわ」

「対象指定は自分・相手・空間の何処へ力を使うか決めるものよ。空間指定は対象指定のもう少し細かく踏み込んだ理論で、空間に能力を適用する際に座標や範囲などの設定をして演算処理を行う技術ね」 


 対象指定と空間指定の理論を分かりやすく解説し、演算処理のコツやリスクを説明した後に学んだ対象指定を行ってみることにした。


 金剛が折れたレイピアを空中へ投げ込み、投げ込まれたレイピアを対象指定して時間停止を試みる。


 距離を目測で測り、高さと落下スピードの動きをを計算しながら対象のみに命中させる......


「──ッ!!!!」

 折れたレイピアを対象として精密に捻り出されたアストラルは時間停止の出力へと変換され、空中で見事に静止した。


「やった!止まった!!!!これなら前も見える!でもこれ、どうやって解除するんだろう......」

 対象へ力を込める方法がわかったが遠隔で出力したアストラルの解除方法がよくわからない。


「アストラルの出力を見るとレイピアにはまだ出力が残ってるわ。一度停止してしまえば最初に込めた出力だけで止まり続けるのね、解除する時はアストラルを使って解除したい旨を触れて送り込むか、遠隔で送り込めば解除出来るはずよ、その前に停止したレイピアに触れてみてはどうかしら?」


「そうだね!──んー、完全に停止してて触れても動かせなさそうだ...けど、叩くと音がするし解除した後叩いた方向へ飛んで行ったりするのかな」


 能力を再び遠隔で解除すると折れたレイピアが当初投げた方向とは別の方向へ不自然な軌道を描きながら飛んでいき、落下した。


 蒼太はこの時無意識にレイピアを完全に停止したわけではなく、地球の自転や引力などを同時に計算して物体をその位置に固定させていた。


 そうでなければ停止させた瞬間にレイピアは自転の速度についてこれず、不動の状態で建物を破壊しながら停止し続ける事になると薄々感じていたからである。人間を対象にしなかった点といい、こういった要点では天才的な才能を感じさせるものがあるようだ。


 1番最初に停止した時には何も考えず、対象は自分以外の無制限であった為、そのような計算は必要がない、しかし対象を指定するとなると話は変わってくる。


 この技が果たして時間停止かと聞かれると微妙な所ではあるが、使えそうな技術がまた一つ増えたこともあり素直に喜ぶ蒼太と金剛。


 一方で再び模擬戦闘に勤しむ灰腹と屍毒、何度も行っているが灰腹が能力も武器も使わず身体強化のみで圧勝している様子だった。


「ひ、ひぃ...」

 負ける事に悔しさは無く、自分には何もできまいと思い込んでいた屍毒...しかし彼女の悩みは別にあった。


 しばらく模擬戦闘を繰り返していると素早く動く灰腹に恐怖心を感じたのか咄嗟に灰腹の左腕を掴み、能力が無意識に発動してしまった。


 恐れていた事とはこの事である。屍毒はすぐに手を離したがすでに灰腹の左腕は真っ黒に変色し、見るに耐えない状態へと変貌してしまった。


「い、いてぇ...いやでもすげぇ、これは腕が急激に酸化して炭化したのか?それとも細胞やら組織が急激な酸化によって老化した、のか?」

 暫くして痛みが本格的に増してきたのか血の気が引いて灰腹は意識を失ってしまった。

 灰腹はすぐに研究員と浅野先生が駆けつけ、病室へ運ばれる事となった。


 屍毒この事実を受け止め、泣き出してしまった。

「うぅ、やっぱり私なんて...こんな凄い学校に来るべきじゃなかった...」


 大騒ぎになったことによって模擬戦闘を行っていた生徒からヤジを飛ばされ、さらにストレスがかかってしまった為に再び蹲ってしまった。


 騒ぎに乗じて金剛と蒼太も屍毒の元へ駆けつけ、慰めるが状況は変わらず、そのまま無慈悲にチャイムが鳴り響き、授業は終了した。

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