第4話 固有能力向上授業 前編
「まず、今起こったありのままを状況整理しよう」
困惑しながら今起こった状況を語り始める灰腹。
それもそのはず、灰腹の目には能力を使用した瞬間に蒼太が瞬間移動をしたように床へ倒れ込んだ。それ以外考える事ができなかった。
「外からはそんな風に見えたんだ、まず俺が能力を使った瞬間目の前が真っ暗になったんだ。音も感じなかった、前も後ろもわからなくなって転んじゃったよ...もしかしてこれが時間停止なのかな。そうだとしたら、結構不便だったりする?」
確かに2人が想像していた時間停止は停止した時間の中を自分だけが自由に動けるのだとばかり考えていた。
「なるほどな、つまり時間を停止すると光も音も何もかも自分が触れているもの以外は止まっちまう訳だ。空気には触れてるから息ができねぇって事は無いんだろうが確かにそいつぁ不便だな。」
何か良い方法はないかと再び検査結果が印刷された用紙を見て蒼太は一つのことに気がつく。
「この力って時間操作なんだよね?て事は光だけは動かしたり、対象を選択できたりはしないかな?それと、固有能力に命令する力を流す速度を倍にしたら、効果が変わったりしないかな?」
再び能力の使用を試み、考え付いた対象の選択を試すが、どの様に指定したら良いのかがわからなかったので上手くはいかず、先程と同様に真っ暗な空間で身動き一つ取ることができなかった。それに加え、アストラルの瞬間消費も多いようで一瞬の間しか時間を停止することができず、これを実用するのは難しいとの決断に至った。
一方で命令する力の速度を倍にする方法は進展があった。
「ん?何も起こらない?いや違う、確実にアストラルは使用してる感覚が確かにある。何だろう、不思議な感じだ。まるで時間が引き延ばされているみたいな......いや逆か?けどこれ、倍のエネルギーを消費するだけあってすごく疲れるな...」
能力を解除し、少し休憩する。
「お前なんか疲れた様子だけど、俺から見たら特に何もしてなかったぞ?何してやがったんだ?」
10秒ほどただ突っ立っていただけだと話す灰腹。
10秒という言葉に違和感を覚えた蒼太は今自分がしたことを完全に理解した。
「灰腹君は10秒って言ってたけど俺は自分が考えてる間の時間が10秒だったとはとても思えない...20秒近くは考え事をしてたと思うんだ」
「要するに今、自分が感じる時間だけを引き延ばしたって事?なんか灰腹くんの動きもゆっくりに見えたし...あ、いや、これはそっちから見るかこっちから説明するかで捉え方が変わると思うんだけど、言いたいことはわかるでしょ!」
「おう、何となく言いたいことは解るぜ!多分周囲より時間を早く認識できるようになったんだな。けどそれならさっきの何も見えない一瞬の時間停止よりも使い道がありそうだな!例えばその持ってきたカッコいい剣も一緒に使えば少なくとも自分は守れそうだぜ!」
この国の超能力開発は全世界から注目されており、研究技術を盗もうと企む者もそう少なくはない。自衛の為入学式のしおりに武器の持参を推奨していたのはその為である。
「あ、これね。実はこれもおかしな剣でめちゃくちゃ重いんだ。今の所理屈がわかってないから正しい使い方を知らないんだこの剣の実験も何とか隙間時間を見つけて実践していきたいな」
その話を聞いて困惑する灰腹、こんな繊細な作りをしていて今にも折れそうな細さの剣が重いはずないだろうと感じ、手に取ろうと掴むが全く持ち上がらない。
「なっ、なんだと...アストラルを使って身体を強化しても動く気配すら無い...こりゃ普通の剣じゃなさそうだな、どう見てもお前が俺より力があるようには見えねぇし、これをここまで運んでこれたって事は俺の知らない法則が働いてるとしか思えねぇ。いろいろ聞きたいことはあるが、今日はもう遅いし明日の固有能力向上授業で続きをやろうぜ」
色々と確認したいことが多くてんやわんやしていたが、日中バタバタとしていたこともあり、2人は翌日支障がない様にすぐ就寝した。
ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。
「おはようございます。昨日のオリエンテーションでは少しアクシデントがありましたが、今日の授業も頑張りましょう!」
「本日は皆さんもご存知の通り午前中は通常授業、午後は固有能力向上授業です!」
浅野先生の話を聞き、固有能力を使える授業と知ったクラスメイトはざわつき始める。なんとか浅野先生が生徒を落ち着かせ、通常の授業を行うことができ、皆が待ち望んでいた固有能力向上授業の時間となった。
昨日使った運動場に再度足を運び、昨日は使用していなかった武器を全員所持して授業開始のチャイムが鳴った。
「今から2人1組になって固有能力を使い、生徒同士で模擬戦闘訓練を行います!私も注意して監視していますが、多少の怪我は仕方ありません、これは力の使い方を学ぶ授業でもあります。充分に気をつけて訓練しましょう!万が一怪我や武器の破損をしてしまった場合は病室、又は工房への手続きを行なってください!」
次々とペアが出来上がって行くが恵水が1人端の方でポツンと立ち竦んでいる。そんな恵水を見て心配したのか美綺が恵水の元へと向かって行く。
「屍毒さん、もし良かったらなんだけど、私と組まないかしら?」
「ふぁぇ!え!私なんてペアにしたら、大変ですよ...絶対にお役に立てません...」
急に声をかけられて動揺してしまったのか、はたまた緊張しているのか挙動不審になってしまっている。勇気を出して声を出そうと頑張っているが、出そうとした声がつっかえてしまう。
「良いのよ、昨日から面白いと思ったし役に立つとかそう言うの気にしてないからっ!」
美綺が恵水の震える手を優しく握り締め、自信に満ちた様子で恵水を先導していく。
向かった先で出会ったのは赤口・灰腹ペアであった。
「えっと、金剛さんと...んー......名前教えて欲しいな!」
流石の赤口でも、屍毒の名前は認知していなかった様である。軽く挨拶を済ませ、4人は武器を構えて戦闘態勢に入った。
流石に能力を全開で引き出し、殺伐とした殺し合いを始めるわけにはいかないので、模擬戦闘訓練では腰に二つのタグをつけ、このタグを先に奪取した方が勝利となる。
試合開始の合図と共に両者共に距離を詰め、能力の使用を試みる。
金剛と屍毒が狙うのは灰腹。
一気に2人で灰腹を取り囲み、金剛が屍毒に『温度上昇』と所持している鉄球や火薬玉に警戒するよう促す。
「な、なんでお前俺の能力と所持してる武器を知ってるんだ!?クソッ!!」
灰腹がポケットから鉄球を取り出し、アストラル出力により身体を強化した腕で鉄球を投擲しようと構える。
温度上昇を使用すると金剛と屍毒が怪我をしてしまう可能性がある為、固有能力を使わずに身体強化のみの攻めでタグを取る。
投げた鉄球は金剛の元へ...所持しているレイピアで鉄球を受け流そうと武器を構える。
「あ、危ないです!!!」
咄嗟に屍毒が金剛を庇うように鉄球を受け止め、鉄球が触れた瞬間、真っ黒に錆びて粉々に霧散してしまった。
この事実に灰腹が動揺した一瞬を金剛は見逃さず、灰腹のタグを背後に回り込み、素早く2つとも奪取した。
「屍毒さん、助かったわ!貴女のお陰でタグが取れたわよ!」
タグを2本とも取られた灰腹は悔しそうにベンチへ戻り、赤口の勝利を願って観戦することとした。
2対1の不利な状況でも赤口は諦めずに勝利への糸口を模索する。
(灰腹くんがやられちゃった...おそらくあの屍毒って子には触れられたらまずい...そして金剛さんは灰腹くんの能力の事を知ってた。金剛さんの能力に何か関係があると思う。と言うことは僕の能力の事も、そこまで力を扱いきれてない事も金剛さんは知ってそうだ...いや、それでも!)
赤口は先に屍毒の元へと向かい、金剛が戻るよりも早く彼女へ攻撃を仕掛ける。
昨日試した時間を早く感じ取る能力を使用して、屍毒が振り回している長いムチを確実に避けながら背後に回りタグを取った。
数秒遅れで金剛が赤口の元へと辿り着き、背後からレイピアを振るう。
(赤口くんの今の能力は時間操作と言っても大したことは出来ないはず。ならスピード勝負でタグを切れば勝てる!)
既に周囲の時間を10倍の速さで感じ取っている赤口には、金剛の動きが手に取るように分かった。
容赦の無いレイピアの猛攻を回避し、このままでは勝負が決まらないと思ったのか、所持している剣を抜き、レイピアを受け流した瞬間にタグを取る作戦に切り替えた。
(この剣の使い方はよくわからないけど、きっと攻撃しようと思った対象以外はすり抜けるはず、なんとかレイピアだけ受け流せれば...)
赤口がレイピアを受け長そうとパリングの姿勢を取り、レイピアを受け止め、弾き返そうとした途端、金剛のレイピアが赤口の所持する剣の刀身に当たっただけで折れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます