第3話 固有能力『時間操作』
蒼太が目を覚ますとそこには1人の美人な女性と灰腹の姿があった。
「あれ、ここは...」
朦朧とした意識の中横になった体を起こすとふと足に違和感を覚える。恐る恐る覗いてみると、倍に膨れ上がって明らかに骨折しているであろう足が見えた。
「おっ、気が付いたか。」
灰腹は50m走で蒼太が暴走した事実を事細かに説明した。
「あんまり動かない方がいいぜ。見てわかるくらいに足が腫れてるし、それ絶対折れてるだろ。」
折れた足を気遣い再び横になる蒼太、しかし前に立つ女性が気になるようで。
「あの、そちらの方は?」
学生?だろうか。教員にしては若々しい。
「学生だと思った?残念、私は内田恵。教員の中で唯一固有能力が使えるの。教員と言っても普段は君の様な怪我をした学生の面倒をみているわ」
「今点滴打つから、じっとしててね」
(骨折で点滴?何を言っているんだろうこの人は。)
不安がる蒼太だったが、すぐにその理由が分かった。
内田先生はテキパキと点滴の準備を始め、針を入れたと思えば腫れ上がった足に触れ、固有能力を使い始めた。
するとみるみる怪我をしている足の腫れが引いていき、すぐに完治してしまった。
同時に全身筋肉痛と成長痛、発熱を足した様な症状に襲われた。
「どう、驚いた?私の固有能力は自然治癒強化なの。自分で治せる怪我程度ならすぐに治せるほど、治癒力を上げられるわ。その後は体にもちろん負担が掛かるから、栄養補給として点滴を事前にしておくの。応用して毒とか病気にも有効な細胞活性化も出来るんだけど、骨折の場合は必要なさそうね」
「あんなに腫れてた足が一瞬で...こんなことも出来るなんてアストラルって本当に便利なんだなぁ」
感心した蒼太は疲労が蓄積したのか再び気絶するように眠ってしまった。
蒼太が眠っている間、灰腹がこれまでに起こった詳しい経緯を説明し、話題は蒼太のDNAコンピュータによる解析の話になっていた。
「なるほど、赤口君は解析がまだ済んでない上にアストラルを使ったことがなかったのね、さらに大きすぎる出力を使いこなせずに暴走してしまったと、この後すぐに解析と血液検査を済ませた方がいいわね、私の能力じゃ欠損とか大怪我は治せないから。自分の身を守れる固有能力を発現できるかもしれないわ。」
「俺、心配なんで赤口が起きたらすぐにDNAコンピュータ解析に付き添いますよ!任せてください!!」
美人な内田先生を前に頬を赤らめながら自信満々に発言する灰腹。
数分後蒼太が起き上がり、内田先生にお礼を伝え、病室を後にした。
「病室まで運んでくれたの灰腹君だったんだね、ありがとう。DNAコンピュータの使用許可をしてくれる一階の受付ってこっちだったかな。」
「当然のことをしただけだろ、浅野先生も心配してたぜ。ここまで出力を上げられる生徒はなかなかいないんだってよ。さっさと解析と改良を済ませて今日は寮に戻ろうぜ、みんなは教室に戻ったけど授業自体はあれで終わりだって言ってたから俺たちは先に寮で休んでいいってよ」
雑談を交わしながら受付で手続きを済ませ、DNAコンピュータのある部屋に辿り着いた。
そこには大きな機械と手術室の様な部屋があった。
「赤口様、お待ちしておりました。本日はDNAコンピュータ解析でお間違いありませんか?受付から連絡は済んでいますので早速採血を始めます。」
(コンピュータの管理をしている人?だろうか。
まだ若そうなのにしっかりしているなぁ)
採血を済ませ、自分の血液を閉じ込めたプレパラートと不気味なメモリスティックを受け取った。
「こちらのプレパラートとバイオストレージをDNAコンピュータの指示に従って差し込んでください!赤口様の身体情報全てがプレパラートの血液からスキャンされ、バイオストレージに保存されます。保存されたバイオストレージを持ってまたこちらに戻ってきてください!」
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バイオストレージとは新時代の記憶装置の事である。バイナリデータをDNAの塩基対として保存することが可能であり、1gのDNAに100億テラバイト近くのデータを保存できる。
特殊なガラスにDNAが閉じ込められており、少々見た目が不気味である点を除いては非常に便利な代物である。
弱点として挙げられるのは読み出しと書き込みが難しいと言う点だが、DNAコンピュータを使って、DNA鎖をカスタマイズできる為遺伝子の配列解析が得意なDNAコンピュータを使ってバイオストレージを使用すればその弱点は問題が無い。
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しばらくするとコンピュータに身体情報の結果が出力され出力検査結果が印刷された。
そこに記載された血液検査の結果を読み進め、固有能力の記載を見てみるとそこには固有能力『時間操作』とある。
「え?時間、操作?それって時間を止めたりとか出来るかもしれないってこと?それって物理的に色々ヤバいんじゃ......」
「まぁとりあえずその辺の事はあとで考えようぜ。今はそのバイオストレージをあの可愛いお姉さんに出し行くのが優先だろ!」
言われた通りに先程の女性の所へ戻り、バイオストレージを手渡した。
......すると奥の手術室の様な部屋へ案内され、蒼太はベッドに横たわった。
「今からこのバイオストレージの情報を元に赤口様のDNAを固有能力が使用可能となるように遺伝子を追加し、改良します。すぐに終わるのでじっとしていてください。」
台に繋がれたコンピュータに先程手渡したバイオストレージを差し込んだと思えば頭によくわからない装置を装着させられ、全身を無数の注射針がついた拘束具で固定された様だ、この時点で相当痛むが悲劇はその後の事。
装置が起動すると同時に今まで体感したことのないタイプの痛みが全身に響きわたる。
「ッッ!!!!!!!!!!」
声も出せない程の痛みである。2分ほど続いただろうか。もう2度とこんな痛みは経験したくない、そう思った。そして、遺伝子を組み替えられた途端どこか遠くの何かと繋がったような気がした。
「おーい、大丈夫か?俺も初めてやった時はこんな感じの部屋、俺の時は地下室だったな...ともかく想像を絶する痛みだったが、もう終わったから心配は要らないぞ。」
灰腹の声でようやく目を覚ました蒼太特に具合が悪いと言うことも無さそうで使い終わったバイオストレージを握りしめて奥の部屋からゆっくりと歩いて出ていった。
「お渡ししたバイオストレージは大切な個人情報になりますので保管は厳重にお願いします!」
部屋で起こったことを語りながら寮に戻る2人、話の内容は勿論時間操作の内容ばかり。
「部屋に戻ったら少し使ってみろよ!寮で能力の使用は禁止だが、危害を及ばさなければそうそうバレたりはしないって!」
「いいけど、使い方なんてよくわからないよ、さっきの人に少し話を聞いたくらいでまた暴走したらどうなるか......」
「暴走したら俺が助けてやるって!戻ったら早速特訓だ!」
2人は寮に戻り、荷物を片付けて明日の準備を済ませた後、能力を使用してみる事にした。
「確か、さっきやった身体強化とちょっと似ててアストラルを体内で循環させて、その後固有能力が補完された遺伝子に感情と意思を命令するイメージ......」
手順通りにアストラルを出力すると辺りが突然真っ暗になった。いや、それだけではない、何も感じられない音も聞こえない。そして目が見える様になったと思えば床に倒れ込んでいた。
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